FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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追憶 ⑧

 

 

夕方と夜の間になった時間帯だが、回収作業は続いていた。

空薬莢を両手に抱えながら、未だに探し続けている。

 

地雷の爆発で穴と瓦礫塗れになった残骸の下にもあるであろう薬莢を回収しようと、少女達は土に汚れながら手を伸ばす。

 

その横で小隊員達も共に薬莢を拾い集めながら、生徒達と反省会という名の雑談をしていた。

 

「試験……結構ギリギリでした……」

「はは、精進するほかありませんね」

 

「まったく……私が直々に鍛えたというのに、二発も外すとは……!」

「うわぁーーん!!すいませんっ!ご飯抜きは勘弁して下さーい!!」

「心配する所はソコですかっ!訓練時間は倍にします!……ただ、あのカウンタースナイプは悪くありませんでした。……久々にキモが冷えましたよ」

「……ご飯抜きはなくなりましたか?」

「…………」

 

「はぁ……こんな時間までやるなんて……最悪」

「原因の一端の自覚あるか?爆破しまくったのお前だからな?」

「そっちだって爆破してたのに……」

「残念だったな!教官の破壊は必要経費で——足を蹴るなっ!?」

 

 

軽い笑いや溜息、金属を蹴る音をBGMに、RAPTOR1も作業に参加していた。

黙々と薬莢を拾い集め山を築き上げている横で、サオリとスバルもそれに加わる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

話の取っ掛かりも見つからないままに、ただ夜だけが深くなっていた。

壊れた街灯が光を放とうとしていた時に、ようやく口が開く。

 

「……成績最上位だったな、よくやった」

 

「ありがとうございます。教官の指導の賜物ですね」

「元から私は上位だったが……以前よりも強くなった自負はあるな」

 

自分よりも何周りか背丈の小さな子供に謙遜されると、どうもむず痒くなってしまう。

当然不快では無いが、妙に複雑な気分を抱える。

 

「……そうか、それならこちらも鼻が高い」

 

こういう時に、自分の口下手さ、というか口数の無さを恨むことがある。

本当なら、もっと褒めてやりたいが……どうにも良い言葉が思い付かない。

隊員からは、言うべきことは言っていると評価されているが、やはり親密なコミュニケーションには難が出てしまう。

 

まだまだ一流には遠いな、と自戒していると、サオリが少し言いにくそうに口を開いた。

 

「……教官、これは特段聞く必要のないことなんだが……」

 

「……?何だ、珍しいな」

 

普段はそこまで雑談に加わることのないサオリから会話の口火を切ったことに僅かに気圧される。

 

「私の今の目標は……教官を超えることなんだが、その先はあるのか?」

「……結構ズバズバいきますね……興味がない訳ではありませんが……」

 

「……成程な」

 

会話の背景を考えれば物騒ではあるのだが、何処か子供らしい『○○と××はどっちが強いの?』の様な問いかけに、思わず笑みが溢れる。

一年もしたら、追い抜かされているかも知れない、と期待を交えつつ。

 

「……超えてから言え。と言いたいが、成績が良かった報酬として質問に答えるとしようか」

口ではそう言いながらも、RAPTOR1の頭の中では既に何名かのリストアップが終わっていた。

 

「……三大校のTOP、アビドスのホルス……後は、個人的な因縁だがSRTの……いや、止めておくか……」

他にも頭角を表している者はいるが、負ける気はない。と語るRAPTOR1を意外そうな顔で見る二人。

 

「……案外、明確な格上は少ないんですね……?」

「一応、企業の最高戦力の看板を背負ってるからな……」

 

多少、自陣営贔屓も入っている気がしないでもないが、ここでは見栄を張らせてもらうとしよう。

「……つまり、俺より強い相手を最低でも一人、お前達は相手取らなきゃならない訳だ」

 

「「……」」

盛り上がっていた空気が一瞬にして掻き消えていった。

毎日の地図上での戦いは、段々と長く粘れるようになってはいたものの、勝つまでには至らなかったからだ。

毎回暴れ回っているコマを見るのには、両者共にウンザリしていた。

 

居た堪れなくなった空気を変えようと、スバルが話題を提供する。

「……話は変わるんですが、私からも質問いいですか?」

 

「何だ?フルートの楽譜絡みか?」

 

「違いますよ……あの、コールサイン?とかって何処で貰えるんでしょうか?」

 

「「……?」」

 

意図の掴めない質問に硬直するRAPTOR1とサオリを見て、ムッとした顔をするスバルが声量を上げる。

 

「ですから……!『RAPTOR1』みたいなのって何処で貰えるんですか……!」

「……無いのか?固有の部隊名とかは?」

「実戦だとスクワッド以外はチーム○○だったな……」

 

ようやく、スバルの言いたい事がはっきりとする。

RAPTOR1は当然ながら特殊部隊出身であり、錠前サオリもスクワッドという立ち位置にいる。

三人の中で、唯一固有の名前を持っていないのが梯スバルだったのだ。

 

「……俺の落ち度だな、演習中に気付くべきだったか……」

 

数字でのチームの呼び方の区別は、通信の際に聞き間違いを誘発する為、カイザーコーポレーションでは特定のコードを使っていた。

それ故に失念していたが、確かにスクワッド以外の生徒を呼ぶ時には名字が殆どで違和感を感じにくかったとはいえ、だ。

頭を掻きながら溜息を吐くRAPTOR1だったが、スバルが言いたいことはもっと切実だった。

 

「……実は下の子達から、スクワッドだけではなくて、自分達だと分かる名前が欲しいとせっつかれてまして……」

 

そう、それは統率者故に悩む問題。

下の者の不満の解決は集団生活においては重要な物だ。

 

「……成程な、保護者役も中々大変らしい」

 

とは言え、部隊の名前などは一日かそこらで決める訳にはいかない。

過去には部隊名変更の為に、本社に直接抗議しに行った部隊もいたくらいだ。

 

「『スクワッド2』はどうだ?」

「良い訳ないでしょう……ネーミングセンスどうなってるんですか?」

「……『ネクスト・スクワッド』は?」

「貴方達が下位互換みたいになりますけど……」

「む……」

 

真面目な顔でトンチキな発言をするサオリは、特段珍しいものでもなくなった為、溜息を吐きながらスルーする。

 

「……部隊名というのは、その部隊の理念や戦い方がモチーフになっている物が多い……その点で言うのなら『アリウススクワッド』という名前も、違和感を感じなくもない、か…?」

 

RAPTOR1の言う通り、部隊名やエンブレムは部隊の在り方が深く関係する。

RAPTOR小隊ならば、脅威に立ち向かうことを意味する猛禽類

執行部隊は、その名の通りに刑罰を執行する処刑人

戦術飛行中隊は、繊細な動きで空を舞うトンボ

 

つまり、アリウススクワッドの名前は、特殊部隊の部隊名を『特殊部隊』と命名している様なものだ。

 

如何にも戦いには興味のなさそうなベアトリーチェのつけそうな名前である。

まぁ組織規模を考えれば妥当ではあるのだが。

 

「……何か付けたい部隊名があれば言え、俺からマダムに話を通しておこう。士気に維持が目的だから拒否はされないだろうが……」

 

「そう言われましても……」

頬を掻くスバル。

何かいい名前はないかと聞いたら、逆に聞き返されてしまった為、困り果てているのは容易に想像出来る。

 

「急には思いつかないな……いや、だったら」

「もう考えたんですか?……ネーミングセンスに不安が残りますが……」

「いや、しかしこれは……」

 

「……言ってみろ」

 

顎に手を当てて考え込むスバルの横で、サオリが何かを思いついた顔をする。

先程の部隊名の案出しの時点で嫌な予感しかしなかったが、聞くだけ聞いてみようと考えていたRAPTOR1。

 

だが、その案は余りにも突飛な案だった。

「……ラプターというのは如何だろうか……?」

 

「正気ですか……?いや、まぁさっきまでのに比べたらいいかもしれませんが……」

「大きく出たな……ラプターか」

 

教官の部隊名をそのまま持ってくるという豪快さに、感心すらしてしまう。

と同時に、納得もあったが……流石にそう簡単に首を縦に触れる程、この名前は軽くはない。

 

「……だが、その名前はまだ早いんじゃないか?」

 

実際、まだ一本も訓練で取られたことはない。

実力不足を暗に指摘すると、サオリは残念そうに俯いた。

 

「……そんなに欲しかったのか?」

 

基本的にはあまり物に興味を示さないタイプのサオリがここまで残念がるのは珍しい。

 

「……部隊名なら後でRAPTOR2に相談すれば、適当なのを——」

「そうではないんだ……」

存外、RAPTORの名前がカッコいいと考えたのかと思ったが

どうやら別の理由があったらしい。

 

「……いや……名前ではなくて、教官達に認められた証が欲しかったんだ」

顔を上げ、こちらを見上げるサオリ。

少し寂しそうな、名残惜しそうな顔をしていたのは、こちらの思い違いだろうか。

「訓練が終われば、教官達はここを去るんだろう?別れる前に、何かが欲しかったんだが……」

 

流石に高望みだったかも知れない、と笑うサオリを見るRAPTOR1。

横の顔を見て見れば、スバルもサオリ言いたいことは理解出来るらしい。

 

成程、と心の中でRAPTOR1は考え込む。

確かにあと二週間もしない内に自分達はこの自治区から立ち去るだろう。

その前に証を、前向きに捉えるのなら思い出を残そうとする心理は理解を示す。

想定よりも信頼があるのには驚いたが、それに足る人物だと思われたのなら、それはカイザーの人心掌握術が上手く働いたのか、それとも——

 

そこまで考えて、思考が深みに嵌りかけていたと気付く。

 

もっと単純な解を求めてもいいのではないか?

彼女達に多くの選択肢の内の一つを見せてもいいのではないか?

 

 

「……理由は納得のいく物だが、そう簡単に渡す訳にはいかない」

 

「「…………」」

 

「……だから、もしお前達が自分達の報復を、俺達も驚かす程完璧にやり遂げて、その後にまだ外の脅威と戦うと決めたのなら」

 

 

 

万に一つ、いや確率にするならば百に一つ程度だろうか。

もし、彼女達が数百年前の報復を、先達の後悔を、誰にも文句もケチも付けさせず完璧に払ったのなら。

 

 

 

「……その時は、RAPTOR9(猛禽の9羽目)の名前をくれてやる」

 

 

それはきっと、嵐を飛ぶ猛禽を名乗るに相応しい。

 

「……っ!本当か?」

「えっ、私もですか!?」

「あぁ、このお前等二人……いや、自治区の連中全員にくれてやる」

 

喜びと驚愕が顔に出ている二人の反応を見て、自身の判断は誤りではなかった。とRAPTOR1が実感していると。

 

 

 

ヒュ〜〜

 

弱々しく、風を切る音が頬を揺らした。

その音に二人が振り向く前に、夜空に光弾が打ち上がる。

闇に包まれた自治区を照明弾が照らしていく。

 

「……始まったか」

 

RAPTOR1の言葉の間にも、マグネシウムの塊は次々と空に打ち出されていく。

「多くないですか……?」

「もう十分な明るさだが……」

 

「RAPTOR2が偶々、大量の照明弾を見つけてな……」

 

使用期限がギリギリになっていた照明弾を如何するのかの協議が小隊内で行われ、結果……

 

「前に、匿名で『花火が見たい』という依頼があったからな……本物には遠く及ばないが、これはこれで悪くない」

色こそ一色だが、逆にそれが絵になるかも知れない。

それに、普段の花火大会と違い、銃声や爆発音も聞こえない。

 

ただただ静かに夏の風情を感じ取れる。

 

「でもいいのか?……マダムが……怒るんじゃ?」

 

「問題ない。照明弾は必需品だ。何よりも——」

RAPTOR小隊が設立されてから一年が経ったからな。

 

心配そうなサオリとは相対的に、感傷的に空を見上げるRAPTOR1。

丁度一年という訳ではないが、纏めて祝えるのならその方がいい。

 

「……殆どの連中が、これを花火だとは認識出来ないだろう。我々だけで秘密の花火大会と洒落込むとしよう」

 

空に放たれ、溢れて消えていく火を見ながらまだ見ぬ未来に想いを馳せる。

それは、今まで生徒達がする余裕もないことだった。

 

「……なるほど確かに、悪くありません」

「そうだな……」

 

「お前達も撃つか?何発かあるが」

「いつの間に持ってきてたんだ……?」

「隠し武器は基本だ」

「その大きさで……?」

 

疑問符を出しながらも、手際良く迫撃砲を組み立て、三人も照明弾を打ち上げる側になる。

 

「花火観る側の筈なんですが……」

「……実はまだかなりあってだな」

「私達一時間このままか!?」

「これも指揮者の役目だ……テキパキいくぞ」

「「えぇ〜〜……」」

 

涙なく、笑いは少し、あとは疲労感と溜息が占める。

一時間後に薬莢の回収が完了するまで、三人と、各地で頑張っている隊員達は労働を続けていた。

 

 

 

 

 

こうして、生徒達の試験は幕を下ろして、後は順調に進んで行く。

 

筈だったのだが……

 

 

 

 

 

RAPTOR4離隊まで後———

 

 




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