FOXに脳を焼かれた、PMC兵士達のお話   作:アッポラピッタポン

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追憶 ⑩

早朝

 

昨日の土砂降りが嘘だと思える快晴。

地面の泥濘以外は何もかもが好条件であり、訓練日和とも言える。

だが、生徒達の足取りは重い。

 

昨日の体力の消耗は依然回復し切っていなかったからだ。

後ろから隊員達が追いかけて、無理やりにでも急かす中、別の場所でRAPTOR1とサオリ、スバルはいつもの戦術訓練に励んでいる。

 

だが、今日広げているのはトリニティ自治区の地図ではなく、アリウス自治区のものだった。

 

「……最終確認だ、いいな」

 

無言で頷く二人

 

「着火用装備は地下倉庫の左奥の棚の中だ、いずれは自力で着火を目指してもいいが、暫くは頼っておけ」

 

「「はい」」

 

「濾過装置は「C地区の境界線の建物の机の下だ」……そうだ」

話を乗っ取られてかけるが、満足そうに頷くRAPTOR1

 

「寝袋とナイフは「教官達の宿舎の階段の下です」…よし、問題はなさそうだな」

 

置いていく物資の置き場所の確認を終え、椅子に座る三人。

軽く息を吐く中、RAPTOR1は目を伏せる。

 

「……すまないな」

 

「え、急にどうしたんですか?」

 

「あれだけ豪語しておきながら、結局トリニティへの確実な勝ち筋は見せることが出来なかった……大言壮語ほど見苦しいものはない」

 

その言葉に、思わず机の下を覗き込む二人、そこには今日までの苦難が形になったかの様な光景があった。

 

色褪せ、端は所々破けた地図

傷付いたり、少し折れたりした木の模型

随分とガタつくようになった机

 

そう、初日にRAPTOR1が宣言した『トリニティを倒す術を与える』というのはついぞ達成することは出来なかったのである。

 

「それは違——」

 

サオリの言葉を遮り、RAPTOR1は話を続ける。

「違わない、確かにお前達を鍛えることは出来た。だが、最初の宣言を達成出来なかった時点で、お前達は文句の一つでも言う権利がある」

 

恨み言くらい言ってくれた方が気分が楽になる、とでも言うかの様なRAPTOR1の態度に対して、スバルは笑みを浮かべた。

 

「では、宿題にする。というのはどうでしょうか?」

 

訓練(授業)は受けました。なら先生がいなくなった後は、宿題が出ますよね?」

 

その言葉に僅かながらに顔を上げるRAPTOR1と、何を言っているのか分からず混乱するサオリ。

 

「宿題の内容は……『トリニティを倒す』とかですかね。教官が次に来る時までには、終わらせますよ」

 

聞きながら、軽く笑いを漏らす。

いつの間にかRAPTOR2から、口の上手さまで教わっていたらしい。

 

「……中々に難しい宿題だが、出来るか?」

 

「ああ、当然だ」

「真面目に授業を受けたので」

 

自信満々に頷く二人と、成長を実感するRAPTOR1

 

「……そうか、俺もお前達が教え子で良かったよ」

 

手を伸ばして二人の頭を撫でる。

照れながらも、嫌がることはない二人

 

雛はいつの間にか成長し、巣立ちをしようとしていた。

 

 

 

 

 

その日の夕方、RAPTOR1は教会を訪れていた。

当然、目的は一つしかない。

 

未だ慣れることのない通路を歩き、最奥の扉を叩く。

 

「入りなさい」

 

底冷えする声に、体は反射的に扉に手をかけることを止める。

 

一拍

 

手の震えを止め、扉を押す。

 

 

 

「ようこそ、久しぶりですね。」

 

あいも変わらず、無数の本の上に鎮座する怪物。

見るだけで全身が拒否反応を示す化け物と長話など出来る訳もなく、本題を切り出す。

 

「……依頼は今日で終了だ。早く例の地図を渡せ、明日の早朝には直ぐに出ていく」

 

「ええ、当然です。ここは私の庭、私の自治区です。依頼でなければ部外者を入れることなど許しません」

 

こちらに興味を示すまでもなく、ただ事実を述べるベアトリーチェ

早く出て行けと言わんばかりに、封筒を渡してくる。

 

「……嘘ではないだろうな」

 

「疑っているのですか?そんな三下の様な真似はしません。貴方も蠅を殺すのに爆弾は使わないでしょう?」

 

遠回しに脅威ではないと言われるが、傲慢な言葉により、確約は出来た。

 

「……失礼する」

 

もう用事はないと背を向けて立ち去ろうとするRAPTOR1に、ベアトリーチェは声を投げる。

 

「一度でも反意を見せていたら殺す予定でしたが、まさか一度も歯向かわないとは、翼のない鳥は好きですよ。RAPTOR1」

 

「……」

 

扉を押す手の力に変わりはない、ただ一瞬だけ、視線をベアトリーチェに向けた。

信念を侮辱されようが、耐える他に術はない。

ベアトリーチェのクスクスという笑い声と共に、扉は閉められた。

 

次にこの扉を開けたなら、彼は絶対に怪物に銃を向けるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

広場に集められた生徒達。

誰が言うでもなく、内容は分かり切っていた。

 

「……今日で、我々による教練は終了だ。今までよく耐えた」

 

RAPTOR1からの宣言に、広場は沈黙する。

圧倒的な喜びに歓声を上げるではなく、そっと噛み締める。

 

「……明日の夜明けに我々はこの自治区から去る。君達の起床時間を考えれば、これが最後の顔合わせになるだろう。今の内に言いたいことがある者は来るといい」

 

 

その言葉と共に隊員達は前に出て、その周りを生徒達に囲われる。

別れの挨拶、マダムにはバレないように小さな声で

 

「い、今までありがとうございました」

「こちらこそお世話になりました。皆さんの奮闘を期待します」

ある者は膝を折り、目線を合わせ

 

「正直怖かったです!でもいい経験でした!」

「これをいい経験って言えるなら一人前だ。頑張れよ!」

ある者は背中をバシバシ叩いた

 

「……本当によく育った。年齢にしては、だけど」

「出来るなら訓練中にも言って欲しかったです!」

苦言を呈される者もいれば

 

「……まだ、お願い聞いてもらう権利、残ってるから」

「わーったよ!会ったら聞いてやるから泣くのを——足を蹴るな!」

最後まで締まらない関係の者もいた

 

 

隊員達と生徒の会話が交わされる中、RAPTOR1の前に立つのは二人

「「…………」」

 

必要な情報は全て話している。

今更互いに言うことはない、強いて言えば

 

「……宿題、忘れるなよ」

 

大きく頷く二人に頷き返し、背を向ける。

 

「今日はここまで、全員解散!」

 

 

その声に反応して、ゆっくりと確実に人影が減っていく。

寂しいような、達成感の様な感情を胸に、隊員達も宿舎へと足を向けた。

 

 

 

一人を除いては

 

「……ヒヨリ」

 

「は、はいっ!」

そう呼ばれたヒヨリは背筋をピンと伸ばす。

名前を呼ばれと、毎回緊張してしまうからだ。

 

そんな事情は気にせず、RAPTOR4は口を開いた。

会った時は、訓練に耐えられるとは思っていなかった。

どこかで泣き言を叫びながら、逃げるだろうと。

だが成し遂げた。

泣き言を言いながらも、最後まで。

 

「貴方は、いずれ私を超える狙撃手になります。断言します」

 

「へっ!?えっ!ど、どうしたんですか?」

 

いつものRAPTOR4らしくない言葉に、目を丸くするヒヨリ。

何か変な物でも食べたのかと、アワアワするのを見て溜息を吐くRAPTOR4

 

そのまま頭にチョップを落とす。

 

「い、痛いです!褒められたんじゃなかったんですか!?」

 

「黙りなさい……全く、その図太い性格だけは治りませんね」

 

話がズレたと言わんばかりに、咳をする。

 

「……今まで、技術的な面だけで、狙撃手としての心構えというか、心に留めておくことを教えるのを忘れていました。もう時間もないのでここで伝えます」

 

「そんな急にですか!?あんなに覚えたのにまだ覚えろだなんて、非道です!うわぁーーん!!」

 

いつもと同じ泣き方をするヒヨリだったが、RAPTOR4は軽く頭を撫でるのみだった。

いつものキレ芸じみた怒り方は来ないのかと、ヒヨリが驚きで止まる。

 

「教えることは一つです。『正射必中』正しく射れば必ず中る。今の貴方がもう手に入れているものです」

 

だから、何も覚えなくてもいいとRAPTOR4は言う。

そしてゆっくりと立ち上がり、ヒヨリを見下ろす。

 

「言いたかったのはそれだけです……貴方も早く戻りなさい。明日も早いのですから」

 

「でも私は昨日沢山眠りましたし……まだ起きていられると思うんですけど」

 

これで最後だという実感が湧いてしまい、名残惜しくなってしまったヒヨリにRAPTOR4は仕方がない子だと笑う。

 

「……明日の明け方に流れ星が見えるそうです。それを見たら寝なさい」

 

「教官も、見るんですか?」

 

「ええ、場所は違いますが、必ず見ますよ」

 

それを聞いたヒヨリは、嬉しそうに頷き、転びそうになりながらも小走りで仲間たちの下へと走って行く。

 

RAPTOR4がどんな目でそれを語っていたかを知らずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、ついにこの愛しの宿舎とも別れか、ちょっとだけ寂しいような気がするな」

「愛しいですかね……?」

「お化け屋敷に住み込みで働いてた気分なんだが……」

「キッザニアみたいなもんか」

 

宿舎に戻り、装備の最終点検を行う。

後は時間まで休憩をとり、直ぐに出発する。

 

もう帰れるということもあり、隊員達は軽口が増えていた。

そんな中、部屋の隅で目を閉じていたRAPTOR3が片目を開け、隣にいたRAPTOR4に話しかける。

 

「……スコープ、めちゃくちゃズレてたけど、戻さないの?」

 

肩を僅かに揺らすRAPTOR4、視線はこちらを向いていない。

 

「……ヒヨリに教えた時にそのままにしていました。今戻しましたよ」

「…………そう」

 

どこか違和感を感じながらも、それ以上の追求はない。

RAPTOR3は再び目を閉じた。

いつの間にか、他の隊員達も準備を終え、既に休憩に入っている。

宿舎内には寝息の音のみが流れていた。

 

 

「…………」

 

自問自答

 

これが成功して何になるのか

 

いたずらに混乱を招くだけではないか

 

ならば何故、自分はこれを決意したのか

 

簡単だ。

 

RAPTOR1すら眠っていた宿舎内。

誰に聞かれることもなく、RAPTOR4は呟く

 

「作戦開始」

 

自身の信じる信念の証明のためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜 一時三十分

しんと静まり返った自治区、夏特有の熱と湿気を混ぜた空気が隊員達の目を覚させた。

もう直ぐ出発だと感じながら立ち上がり、ふと部屋を眺める。

 

一人、二人、三人………七人。

 

本来ならば幸運を示す筈の数字は、この場に於いてはただ違和感と嫌な予感を両立させるものでしかなかった。

 

脳を覚醒させ、誰が居ないのかを探る。

最後に記憶していた各隊員の睡眠場所から、それを探るのに一秒も掛からなかった。

 

「RAPTOR4」

 

誰が言ったかも定かではない呟きだったが、その言葉を追い越すかの様に隊員達は動き出す。

 

「………通信は無理か」

「完全にオフラインになってます。一体いつの間に……」

「このタイミングで、か。何をしたいのか予想はつくが」

 

荷物を背負った状態で宿舎を飛び出す。

地図に書かれた出口方面に移動しながら、居そうな場所を虱潰しに見て行く。

 

正直に言えば、どこかで気付いていた。

今まで厳しい口調で自他共に当たってきたRAPTOR4が、厳しい口調は変わらないが小さく笑うようになっていたこと

 

そうなった要因は誰だったのかも

 

そして、先日の出来事が彼の枷を崩してしまったという実感が、今はある。

 

何故確信に至らなかったのか、いつの間にか隊に馴染んだと安心してしまったからか

 

後悔を抱きながらも、足を止めることはない。

走っている時、前方の山中に、何かが煌めいていた。

 

「……あれか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

呼吸を一つ、落とす。

 

風は右から左。弱いが、無視できるほどではない。

距離は――問題ない。何度も数字で確かめ、体で覚えた範囲だ。

指先に伝わる金属の冷たさが、意識を現在につなぎ止める。

 

標的を覗いた瞬間、周囲の音が遠のいた。

雨水が葉にぶつかる音も、風が草を揺らす音も、すべて背景に沈む。

引き金に触れているが、まだ引かない。

体中が泥に塗れながらも、機会を伺う。

「撃つ」ではなく、「条件が揃うのを待つ」

スコープから覗いた景色の遥か下にいる標的は、しかし確かに存在している。

眼部のカメラが、駆動音を上げながらスコープの代替を果たす。

 

自身の体の一部とも言える対物ライフルが、今の感情を表すかの様に僅かに揺れた。

天を見上げるかの様な角度で設置されたそれは、従来の狙撃とは似ても似つかない。

 

曲射砲の紛い物、深い森の中からの射撃。

 

本来なら、当たる筈はない。

いつもの自分がこれを命令されたなら、首を横に振っていただろう。

 

だが今日は、今この瞬間だけは

 

「正射必中……」

 

教え子が見ていると確信出来る今なら

 

「撃ち抜けますとも」

 

ベアトリーチェが射線に入る。

赤い肌と対照的な白いドレスが、4km先で揺れている。

 

狙いは頭部

 

相手が警戒を解き、防御の構えすら無い瞬間。

 

こちらに背を向けた瞬間。

 

 

 

 

サプレッサーをつけて尚、音の漏れを防ぎきれない。

慣れた爆風と反動が肩を押す。

 

装甲目標すら貫徹する弾丸は、弧を描きながら空を飛ぶ。

 

撃った瞬間に、予知とすら言える確信があった。

間違いなく、絶対に当たる。

 

だがそれを感じるよりも早く山中を駆ける足音と、自身の存在を全て鷲掴みにされるかの様な、化け物の叫びが耳に届いた。

「RAPTOR4ッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未だ乾かずにある山中の泥の上を、特殊部隊らしからぬ全力疾走で走る影がある。

夜の山は、味方も敵も区別しない。

闇は均等にすべてを呑み込み、RAPTOR1はその中を歯を食いしばって走っていた。

夜の山が視界を奪う。

木、岩、斜面——全部が敵だ。だが避ける判断すら遅い。体が勝手に進路を選び、踏み込み、跳ねる。

 

呼吸の音すら、アーマーの駆動音に掻き消されていた時。

 

聴き慣れた発砲音が耳を掠める。

 

いつもなら、背中を預けるに足る筈の音は、晩鐘の鐘の音に聞こえてならなかった。

口を開く間もなく、音の方向に速さを向ける。

 

木々の向こうに、見知った影が薄ぼんやりと浮かんでいる。

 

撃発の直後だというのに、不思議なほど静かで、まるで最初からそこにあった岩の一部のように見える。

銃身からは、かすかな熱が立ち上っている。夜の冷たい空気に触れて、目に見えない揺らぎを生み、それがゆっくりと消えていく。金属の表面には湿り気が浮き、山の夜に馴染もうとしているかのようだった。

 

隠しきれない喜びを含む横顔を視認すると同時に、化け物の咆哮が響き渡る。

音源に視線を向けると、何かが飛んで来ていた。

 

最初に変わったのは、空気の密度だった。

RAPTOR1の目には、何も起きていないように見える。だが、遠く――狙撃が行われたはずの方向から、気配がわずかに引き締まった。

 

次の瞬間、空間が撫でられた。

いや、刈り取られたと言った方が近い。

 

反撃だ、とRAPTOR1は理解する。

狙撃という一点の行為に対し、返されたのは「場所」そのものをなぞる反射的な一撃だった。

 

「RAPTOR4ッ!」

 

まず間違いなく、あの攻撃の正面にいるRAPTOR4は歪みを視認出来ていないと確信する。

瞬歩と見紛う速度で側に駆け右肩を掴み、出せる全力で引き上げる。

 

次の瞬間、巨大な斬撃が走る。

刃は存在しない。だが進路上の空間だけが、一直線に削り取られていく。

嵐を見紛う程のエネルギーの流れを背に受けながらも、RAPTOR1は走り続ける。

僅かに軽く感じる右手の感触に、嫌な予感を覚えながら。

ただ我武者羅に走り続け、市街地の端に出て隊員達と目線を合わせる。

一人が振り返り、残りを促す。

躊躇はない。判断が遅れれば、それが最後になる。撃ち返さない。足を止めない。これは敗北等ではない——捨て台詞にすら聞こえるそれを言い聞かせる余裕すらなく、身体は動く。

 

 

地図に書かれた出口に駆け込み、感慨に浸ることもなく、RAPTOR小隊はアリウス自治区から離脱するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦報告書

 

 ——月 ——日 午前——時頃

 

情報収集活動中の情報部の隊員が、トリニティ自治区の遺跡からRAPTOR小隊を発見、保護。

周辺で展開中の作戦を一時中断し、同隊の輸送を開始。

医療施設への輸送後即座に治療が施されるも、RAPTOR4の欠損した左腕は『初めから存在しなかった』かのように、接合が不可能となった。

義手の装着により、生命運動への支障はないものの、長期の作戦行動は不可能と判断。

RAPTOR小隊とプレジデントの同意により、RAPTOR4の離隊が決定。

RAPTOR小隊の戦力低下と、それに伴う抑止力の低下が懸念される。

 

報告終了

 

RAPTOR4に発生した治療不能の傷は、これまで重要視されていなかったカイザーコーポレーションにとっての真の脅威を認識するに足る事件だと考える。

 

——ICB

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何を言っている?」

 

目の前の現実を、上手く咀嚼出来ない。

白衣を羽織っている男の言葉を認めたくない。

 

だが男は目を伏せながら、同じ言葉を口にする。

 

「……ですから、腕の修復は不可能です」

 

「この都市でロボットの四肢の欠損などありふれている筈だが」

 

キヴォトスにおいて命を落とすことは極めて稀である。

生徒だろうと、それ以外だろうと、一般的な銃撃で死亡することは難しい。

だが、ロボット市民は違う。

命こそ落とさないが、爆風や銃撃で四肢が吹き飛ぶことはある。

しかし、病院に行けば修復に半日かからない程度であり、SOF等は自力で再接続する訓練も行なっている。

 

だからこそ、RAPTOR1は医者の言う言葉を信じられなかった。

 

「そりゃあ私だって長年勤めています。腕の欠損程度なら病院の外だろうと治せますが、貴方の部下の腕は異常なことになっているんですよ」

 

傍に抱えていた一枚の写真を突き出す。

 

「こんなのは見たことがありません。初めから左腕がない人だったと言われた方が納得がいきます」

 

そこに写っていたのは、欠損したとは思えない程に平らな傷口だった。

医者の言う通り、初めから左腕のなかったかの様な。

 

「……」

 

医者が何かを続けていたが、全て右から左へと流れて行く。

横を通り過ぎて、伝えられていた病室に足が動く。

 

 

ドアを開けた瞬間、気づいた。

もう、起きている。

病室は静かだった。機械音だけが一定のリズムで鳴っている。ベッドの上の彼は、天井ではなく、こちらを見ていた。焦点は合っている。眠りから覚めたばかりの目じゃない。

 

「……元気か」

声をかけるタイミングを、完全に間違えた気がした。

彼は返事をしない。ただ、視線を外さずにいる。

一歩、近づく。

白いシーツ。包帯。そこまでは想定どおりだった。

左側に視線が落ちて、胸の奥が詰まる。

彼はもう、分かっている。

確認するために視線を動かすこともしない。そこに何がないかを、すでに理解している目だった。

 

「……聞きましたか?私の狙撃記録、4112mです。今の私は名実共にキヴォトス最高の狙撃手になった、という訳です」

 

「……」

「……」

 

 

らしくもない冗談を言うRAPTOR4

静かに笑みが消え、再び静寂に包まれる。

 

「……すいませんでした」

 

ベッドから体を起こし、頭を下げる。

 

「一時の感情に惑わされ、部隊全体を危機に陥れました」

「挙句の果てにこのザマです。弁解の余地はありません」

 

失意と後悔に自らの至らなさを足した様な声の謝罪。

RAPTOR1は何を言うでもなく、ただ立っている。

 

数刻の沈黙の後、RAPTOR1が口を開く。

「……何が、何がお前を動かした」

 

自身に微かに存在した嫌な予感を振り払うかの様にRAPTOR4に問いかける。

だが、現実は無情だった。

 

「信念」

 

「……」

 

その時RAPTOR1は漸く確信を得た。

あの夜の会話で、自分は彼の背中を押してしまった、最後の一線を超えさせてしまったのだ、と

 

本来なら、自分が先頭となって超えるべきだった一線を

 

「……そうか」

 

そう絞り出すのが限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

「左は義手になります。今までと同じように動きますが一週間に一回点検が必要です。戦闘行為?以ての外です」

 

呆れた顔をする医者と、やはりダメかと押し黙る二人。

ベアトリーチェを狙撃した時点で、RAPTOR4が隊に残る道はなかった。

 

だが時間は無情にも、SRTが動き出したことを伝える。

この一ヶ月間、情報部やSOFが力を尽くしたが、被害は止まるところを知らない、必要とされているなら、こちらの都合で立ち止まることは出来ない。

 

また後で、と病室から出ようする背中にRAPTOR4は声をかける。

 

「……裏方にまわります」

 

 

「今のカイザーに必要なものが、理解できました」

 

敵を知り

侮りを止め

 

「……RAPTOR所属のままでは、手が届かない」

 

対策を怠らず

私情を消す

 

「片翼の鳥は飛ぶことが出来ません。だから育てます」

 

貴方達(私達)に肩を並べる存在を」

 

 

振り向きはしない、目を合わせることもない。

ただ見送るだけ、あの夜言った様に背中を押すのみ

 

「……席は、空けておこう」

 

 

 

 

 

 

RAPTOR4としてこの男と話したのは、これが最後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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