ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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10話:ゆるキャラと守護竜

「Gyaoooooooooo!!!!(ちょ、なにきみ可愛い)」

 

 ……うん?

 空中で羽ばたく巨大な竜が咆哮する。

 鼓膜を震わすほどの大音量に思わずエゾモモンガの耳を両手で押さえる。

 

 その真紅の竜は全長五メートルはあり、飛竜タイプと言えばいいだろうか。

 空を飛ぶのに適していそうな流線型でスリムなフォルムをしていた。

 

 広場にぽてりと転がっているフィンを発見する。

 

「大丈夫か?」

「ふわあ、目が回ったよ」

 

 焦点の定まらないフィンを抱き上げると、彼女は俺の柔らかい毛に顔を埋めた。

 

「Gryuuuuuuuuuu!!!(いいなぁ、わたしもモフモフしたい)」

 

 ……ううん?

 

「彼女が守護竜ですか?」

「はい、そうです。よく彼女だと気づきましたね」

 

 追いかけてきたフレイヤに訪ねると不思議そうに首を傾げた。

 

「いや、咆哮に混じって女の子の声が」

「それは《意思伝達》の効果ですね」

 

 一朝一夕で言語が習得出来るわけもなく、フレイヤが俺にかけている魔術《意思伝達》のおかげで会話が可能になっていた。

 発せられた言葉が受け手の理解できる言語に変換されるという便利な魔術で、その効果があの竜にも効いているようだ。

 

「でも何故咆哮と翻訳が同時に聞こえるんだろう。普通は翻訳だけ聞こえるのに」

「竜はアトルランでも最強の種族の一角で、咆哮にも魔力が宿ると言われています。その魔力が《意思伝達》を阻害しているのかもしれませんね」

「はぁ」

 

 その最強の種族がゆるキャラに何の用事だろうか。

 

「Gyaruuuuuuuuly?(わたしも抱きついてモフモフしていい?)」

 

 空中で俺を睨み付けながら竜が咆哮する。

 抱きつく予行演習なのか、人間サイズなら真っ二つにしそうな前足の爪をわきわきさせている。

 翻訳が聞こえなければ今から殺されると勘違いしても仕方ない迫力だ。

 

「その姿でモフられると死ぬかな……」

「gurrrrrrrrrru!!!(むう、ならこれでどう)」

 

 もうひと鳴きして竜は広場に着陸すると、突然発光しだした。

 すると五メートルの巨体がどんどん小さくなり、発光が収まるとそこには赤い幼女が立っていた。

 

 赤い髪をサイドテールにしていて、眠たそうなとろんとした瞳は朱く輝いている。

 服装も真紅のワンピースで全身真っ赤だが、素肌は新雪のように白い。

 そして額からは竜の証である一角が生えていて、ワンピースの裾からは尻尾が覗いていた。

 

 幼女はおもむろに走ってきて俺に抱きつくと、白くてモフモフの腹に顔を擦り付ける。

 額の角がゴリゴリ当たって地味に痛い。

 

「ああ、想像を越えるモフ加減。これはいいもの」

「まぁ、シンクレティーディア様、《人化》を習得されたのてすね」

「うん。角と尻尾が残るけどやっと覚えた」

「ちょっと、トージの毛皮はフィンのものなんだからね」

 

 首元に抱きついたままのフィンが、竜相手に怯まず主張する。

 てか毛皮って俺剥がれるの?

 

「立ち話もなんだからお茶に誘って」

「ではこちらへどうぞ」

 

 幼女の主張をフレイヤが受け入れたため、ぞろぞろと四人でガーデンテラスに移動する。

 フレイヤ先生の勉強会は中止して急遽お茶会となった。

 

「ねぇトージ、今日の分の饅頭出してよ」

「いいけど竜のお嬢ちゃんにもあげるんだぞ」

「もちろんいいわよ」

 

 フレイヤが妖精の里の紅茶と果物で幼女をもてなしていると、フィンが〈コラン君饅頭(八個入り)〉を要求してきた。

 食い意地の張っているフィンが、一日一回の貴重品を他人にお裾分けとは珍しい。

 

「か、可愛くて食べられない」

 

 渡された饅頭の〈コラン君〉の焼き印を、朱い垂れ目でうっとりを見つめながら幼女が呟く。

 焼き印で可愛くて食べられなかったら、ひよこを模した饅頭とかキャラ弁とかはもっと無理そうだな。

 

「食べないなら返してよ」

「むう、ならじっくり見てから食べる」

 

 残り七個を独り占めしているフィンに言われて、幼女はじっくり鑑賞してから饅頭を齧ると驚いて目を輝かせる。

 

「なにこれ、すごく甘くて美味しい。モフモフで美味しいとか最強」

「ふっふーん、トージはすごいんだからね」

 

 なるほど、フィンは単に竜の幼女相手にマウントを取りたかっただけのようだ。

 自分のことのようにフィンが形の良い胸を張って威張る。

 

「それでお嬢ちゃんは俺を見極めに来たんだっけ?」

「うん、でも可愛いと甘いは正義だから合格でいい」

「シンクレティーディア様、流石にそれでは他の竜に示しがつきませんよ」

「むう、なら仕方ない。ちょっと待って」

 

 幼女は眉をハの字にすると、饅頭を大事そうにちびちびと食べ続ける。

 食べ終わるまでの間、暫しまったりとした時間が流れた。

 幼女は饅頭を食べ終えると、椅子から降りて俺に向き直る。

 ちなみにフィンはその間に残りの饅頭を全て食べ切っていた。

 

「ええと、モフモフさん」

「俺は藤治だ」

「トウジね、わかった。私はリージスの樹海の守護竜……の代理の代理、シンクレティーディア。シンクと呼んで」

「代理の代理なのか……」

「守護竜の代理の代理として命ずる。異邦より訪れしモフモフ、トウジに〈樹海の試練〉を与える」

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