死体(死んでない)の回収はルリムが名乗りを上げたので任せることにした。
闇森人のメイドが森の中を駆けまわり、地面に横たわる男どもを小脇に抱えて街道まで運んでくる。
土埃や団員の血でメイド服が汚れるが、あとでゆるキャラの持つ聖杯から生み出す聖水で洗えばよい。
またメイド服自体も仕立てが良いだけでなく、防刃仕様になっていてそこそこ頑丈に作られていた。
どうしてメイド服に防刃?と思ったが、必要とあらば主人の肉壁になるのが従者の務めと考えれば、そこまでおかしいことでもないか。
可愛いと頑丈が両立しているわけだ。
「いやあ助かりました!不思議な一団だとは思っていましたが、まさかあそこまでお強い方々だったとは。月華団は帝国領では有名な盗賊団なんです。僕らぐらいでは到底太刀打ちできませんでしたので、なんてお礼を言えばよいか」
護衛の冒険者たちのリーダーである青年がゆるキャラに駆け寄り礼を述べる。
他の面子及び乗客たちも大活躍したフィンに群がり、感謝の言葉が飛び交っているのが聞こえてきた。
ちやほやされているフィンは嬉しそうに空中で腰に手を当てて、胸を張り仰け反っている。
あーあ、あれは完全に有頂天モードだ。
この先調子に乗りまくりそうで怖い。
とりあえずフィンのことは放っておいて、気になったことを青年に聞いてみる。
「やっぱり珍しいのか?君たちで対処できないような存在に遭遇するのは」
「うーん、そうですねえ……。手に負えない魔獣や盗賊団に出会うのは二十回に一回くらいですかね。それぐらいなら誰か仲間を犠牲にして逃げたりもできるんですが、今回みたいに完全に包囲されて全滅となると、百回に一回くらいか」
果たしてその確率は高いのか低いのか。
日々の通勤に置き換えて考えてみると、月に一回は交通事故にあい負傷したり最悪死亡する危険があって、半年に一回は即死するような重大事故にあう、といった感じか。
……うん、高確率だね。
レヴァニア王国王都のギルドマスター、エドワーズの語っていた冒険者の殉職率五十パーセントは伊達じゃない。
改めて冒険者という職業の過酷さを思い知らされる。
細かいことを言えば一日ではなく数日かかる馬車の護衛でもカウントは一回だろうし、採取といった比較的安全な依頼もこなしているだろう。
頻度についてもあくまでのこの青年の主観での話だ。
だとしても冒険者稼業の殉職率が高いのは紛れもない事実である。
ルーキーイヤーである最初の一年を乗り切れるかどうかが鍵なんだとか。
「トウジ様、これで全員です」
ゴミ出し終わりました、みたいな仕草で手を叩いて埃を払いながらルリムが報告してくる。
街道の端に並べられた月華団の団員たちは漏れなく重症で、気絶している者もいれば痛みに悶えている者もいた。
ぱっと見、野戦病院みたいな有様になっている。
ゆるキャラが直接手を下した首領のザーツが一番軽傷で、手足を拘束された状態で地面に座り込み項垂れている。
「ちくしょう……折角南部で再起できる目途が立ったってのによ。いきなりこんなバケモンに当たるとはついてないぜ」
こんなにラブリーな〈コラン君〉をバケモン呼ばわりとは失敬な。
他の団員みたく人間パチンコの刑に処すぞ。
「南部で再起?」
「ああそうだ。俺たち月華団は帝都での抗争に負けて都落ちしてきたんだよ」
すっかり観念したザーツは、意気消沈した様子で聞いてもいないのに身の上を語りだした。
五年前に貴族を手にかけて第三位階冒険者の資格は剥奪。
犯罪者となったザーツは似たような境遇の元冒険者のごろつきを集めて月華団を結成する。
本人曰く冒険者ギルドの受付嬢に手を出そうとした貴族を痛めつけたのが発端らしいが、当時はそんな正義感に溢れた奴だったのか?
今となっては見る影もない悪人面である……五年前程度なら人相は当時と変わらないか。
最初は義賊めいた活動をしていたそうだが、団員が増えるにつれて食い扶持を稼がなくてはならなくなり、いつしか悪事に手を染める盗賊団へと変貌した。
月華団というのはその義賊めいた活動に合わせた名称だったようだ。
盗賊団になった当初は帝都近郊を根城にして順調に勢力を伸ばしたが、ザーツが脳筋なこともあって他の盗賊団や闇組織の奸計にはめられる。
団員を引き抜かれたり帝都の騎士団を差し向けられたりして月華団が半壊。
這う這うの体で帝都から逃げ出したのだった。
「そうだったのか。こんなところで月華団にでくわすなんて変だと思ったんだ」
ゆるキャラの横で一緒に話を聞いていた冒険者の青年が納得顔で頷いていた。
本来は五十人規模の盗賊団だったが、今はこの場にいる十六人で全員である。
気配に敏感なゆるキャラに気取られずに襲撃するとは、なかなか優秀じゃないか月華団は。
決して馬車の揺れが心地よくて居眠りして油断していたわけじゃないぞ、うん。
この話が真実であれば、冒険者から義賊、義賊から盗賊へとザーツは転落人生を歩んできたと言えるのかもしれない。
「別に今更善人面はしねえ。盗賊団になってからは抵抗する奴は容赦なく殺したからな。団員も減ってここにいるので全員だ。こいつらも俺と同じでどこにも行くあてが無い悪人どもだ。全員まとめて煮るなり焼くなり好きにしやがれ」
「そう言われてもなあ。道端で犯罪者を捕まえたら普通はどうするんだ?」
「有名な犯罪者であれば、近くの街まで連れて行って兵士のいる詰所に突き出せば報奨金がもらえます。そうでなければその場で殺すか、木に貼り付けて放置ですね。運が良ければ巡回の兵士が見つけて回収するでしょう」
「回収したあとは?」
「犯罪奴隷送りか斬首刑が普通ですね。私も若い頃、路銀稼ぎに盗賊を狩っていた時期がありました。懐かしいです」
とりあえず皆の意見を聞いてみようか。
なんかしみじみと言い出したルリムは置いておく。
見た目が若いのに「若い頃」なんて言ってると年上の女性の不興を買うぞ。
実際にタイミング悪くこちらへやってきてルリムの言葉を偶然聞いた、冒険者の魔術師風の妙齢の女が微妙な顔をしている。
こういう時、闇森人は森人族と同じ長命種で本当に「若い頃」があったと正論を言っても通用しない。
見た目が若ければ十分嫉妬の対象となるのだ。
さて冒険者たちと乗客に意見を聞いたところ、実際に月華団を倒したゆるキャラたちに委ねるそうだ。
つまり忍者女と結界師の時と同じパターンじゃないですか。
だから他人の生殺与奪の権を与えられても責任持てないんだって。
「さっきの話に嘘はないか?」
「ねえよ。死ぬ間際に嘘ついたって意味ねえ。そもそも嘘は嫌いだがな」
先程まであんなにぶちキレていたのに、今は憑き物が落ちたかのように静かにしている。
諦めの境地というやつか。
ゆるキャラの勘でも嘘は言っていないと思う。
《意思伝達》の魔術により言葉に含まれた意思も、ある程度読み取ることができている。
ザーツが感情や意思を完璧にコントロールできる、演技派の大嘘つきなら話は別だがそれはないだろう。
……同情の余地があると言ったら、これまでに襲われて死んでいった人たちはゆるキャラを恨むだろうか。