ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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118話:ゆるキャラと行列

「「「ふわああああああ」」」

 

 はい、三ふわああを頂きました。

 大口を開けてそびえ立つ外壁を見上げる三姉妹。

 ルリムも危うく声を出しそうになっていたが、ふわああを聞いて慌てて口元を押さえている。

 

 ゆるキャラたちは八日間の馬車の旅を終えて、ようやく帝都に到着した。

 帝都を守る外壁は王国のものと同じく高さ十メートルほどで、左右に視界の限りどこまでも伸びていた。

 

 二メートルほどの均一の石材が使われているところまでそっくりだが、色は王国と同じ白ではなく青銅色だ。

 アナはともかくフィンとシンクは王国でも似たような光景を目の当たりにしているはずだが、初めて見たような良いリアクションをしている。

 

 外壁は魔術で建造されたもののはずだが、色は術者が自由に選べるのかね?

 その気になれば子どものおもちゃのブロックみたいに、カラフルな配色もできたりして。

 

「できるかできないかで言えばできるけど、構成は複雑になって魔力消費も跳ね上がるだけで無意味だから誰もやらないわ」

 

 というのが魔術に明るいサンドラの言である。

 つまり頑張れば夢の国〈コランランド〉みたいなのは作れるということか。

 作る予定などないけどね。

 

 まだ外壁と門しか見ていないが、帝都の雰囲気はレヴァニア王国の王都エルセルよりも、城塞都市ガスターに近い気がした。

 入都を待つ人々で長蛇の列ができているのだが、その間を帝国兵士が頻繁に巡回している。

 無骨な外壁と物々しい帝国兵士の存在が、軍都の印象を強くさせているのだ。

 

 人口や経済規模は王国の王都よりもあるため、多種多様な種族も列に並んでいるのだが、帝国は人族以外の亜人への差別意識が強く残る土地である。

 故に人族が亜人に向ける視線には明らかな侮蔑が混ざっていた。

 

 ゆるキャラとフィンに向けられる視線がそうだから良くわかる。

 竜族のシンクと邪人親子のルリムとアナには外套(マント)を羽織り、付属のフードを目深に被ってもらっているので視線を集めてはいない。

 

 本当はフィンにも外套を着せたかったが、妖精族に合うサイズが調達できなかったので諦めた。

 ゆるキャラとフィンは体の形と大きさが人族からかけ離れているため、外套を着ても無駄かもしれないが。

 

 侮蔑の視線なんてどこ吹く風で、バラエティに富んだ行列や外壁をフィンは落ち着きなく見回している。

 帝国兵士の巡回が多いのは無用なトラブルを起こさせないためなのだろう。

 

 ただしトラブル時の仲裁が公平に行なわれるかは甚だ怪しい。

 何故なら帝国兵士は人族のみで構成されていて、亜人を見る目は列に並ぶ人族と全く同じだからだ。

 

 大人しく並んでいる限りは問題も起こらないので列は順調に進む。

 普段なら周囲を縦横無尽に飛び回るフィンも、今は空気を読んで控えている。

 

 フィンの行動にはいつもハラハラさせられるのだが、相手を怒らせない絶妙の加減を攻めているので意外とトラブルは少ない。

 妖精族共通のものなのか、フィン独自の能力かは知らないが器用なことだ。

 

 子どもの多いゆるキャラ御一行だが、シンクもアナも聞き分けの良い性格なので、普通の同年代(外見基準)の子どもよりは手が掛かっていないだろう。

 とはいえ子どもには違いないので、頻度は少なくてもうっかりや不注意はあるものだ。

 

 入都用の門は複数あり等間隔に並んでいて、それぞれに列ができている。

 物珍しくてきょろきょろしていたアナは、右隣の列に自分とよく似た褐色の肌の子どもを発見した。

 さすがに同じ邪人だとは思わないまでも、気になったようで座っていた御者台の上から視線で追いかける。

 

 その子どもは二列の並びの奥側に立っていて、手前の列が動く度に姿が見え隠れしていた。

 手前に並ぶ恰幅の良い商人の体で子どもの姿が完全に隠れてしまうと、アナは角度を変えて見ようと御者台から飛び降りる。

 そして列からはみ出したところを偶然通りがかった男とぶつかってしまった。

 

「おっと、悪りいな坊主」

 

 一方的に弾かれたアナだったが、ぶつかった男が素早く手を掴んでくれたため転ばずに済んだ。

 

 その男を一言で表現するなら古代ローマの剣闘士だろうか。

 全身古傷だらけの素肌の上から胸部だけを守る皮鎧を付けていて、露出している上腕は筋肉で盛り上がり、腹筋は綺麗に六つに割れている。

 

 下半身は黒革のズボンとグラディエーターサンダルを履いている。

 グラディエーターサンダルは現代の地球だと女性向けファッションだが、もちろんこの世界では本来の用途である剣闘士用の装備だ。

 

 背丈は月華団のザーツ並で二メートル弱あるが、彼よりは細身に見える。

 では筋肉量がザーツより劣っているかといえばそうではない。

 巨斧を振り回すために腕周りが特に太いザーツとは違って、全身に万遍無く付いている感じだ。

 

 見た目もそうだが立ち振る舞いからしてただ者ではなく、もし冒険者なら少なく見積もっても第三位階以上だろう。

 武器は持っておらず年齢は二十代半ばくらいだろうか、精悍な面構えと刈り上げられた茶髪が様になっている。

 いかつい外見だがアナを見つめる表情は穏やかだ。

 

「ちょっと気つけないと駄目じゃないのオグト。あなたに蹴られたらこんな小さい子はひとたまりもないわよ」

 

 オグトと呼ばれた男の背後から、こちらを覗き込むようにして神官服姿の若い女が現れた。

 青い髪を肩口で切りそろえている、涼しげな瞳をした美女だ。

 

「直前で止まったから蹴ってねえよ」

「あとこの子、女の子だと思うけど」

 

「まじか、それはすまなかったなお嬢ちゃん」

「あ、いえ……」

 

 フードの上から手荒く頭を撫でられアナが戸惑う。

 母親のルリムが助け船を出そうとした時、オグトがあることに気が付いた。

 

「ん?その肌の色、南方諸島の出身か?」

「あっ」

 

 屈んだオグトによってフードを脱がされるとアナの薄紫の髪と褐色の肌、そして尖った耳が露わになった。

 ……これはまずい気がする。

 

「!?尖った耳に褐色の肌。更にこの怖気が走る魔力の流れは……その子、邪人の闇森人よ!」

「そうか。なら殺すか」

 

 神官服の女の言葉を聞いて、オグトの穏やかな顔つきから途端に表情が抜け落ちる。

 その後の動きは迷いの一切ない素早いもので、危険を感じ取ってルリムが飛び出すが―――間に合わない。

 

「アナ!!!」

 

 オグトは屈んだ姿勢のまま右の拳を握りつつ上半身を捻る。

 そして目の前で事態について行けず呆然としているアナに振り下ろした。

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