ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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126話:ゆるキャラと達磨侯爵

「こいつがあの〈国拳〉とねえ。見た目は強そうに見えんがな」

 

 跪くゆるキャラを正面から見据えるのは、玉座に座った巨漢。

 こいつがデクシィ侯爵だ。

 

 巨漢といってもオグトやリックのような筋肉達磨ではなく贅肉達磨だが。

 仕立ての良いシャツとズボンの上から、金糸の刺繍の入った高そうなローブを羽織っていて、いかにも成金貴族といった出で立ちだ。

 

 身長はゆるキャラと同じくらいだが、横幅はマスコットのこの丸い体よりも二回り以上大きい。

 腹が玉座に収まりきらず横にはみ出している。

 

 金髪を後ろになで上げていてそこそこイケメンだが、顔にも付いている贅肉が台無しにしていた。

 しかも季節はもう冬に向かっているというのに、暑いのか汗がとめどなく溢れている。

 

 そして汗臭さを誤魔化すためか香水を使っているのだが、これがまた付け過ぎできつい。

 汗のにおいと混ざり合い、悪臭となってゆるキャラに襲い掛かる。

 

 左右の後方に控えている護衛騎士は主が臭くないのかね。

 跪き下を向いて顔が見えないこといいことに、エゾモモンガの鼻に思いっきり皺を寄せさせて頂く。

 

「面を上げよ」

 

 おいやめろ、真顔で臭いの我慢するの大変なんだぞ。

 必死に無表情を装いながらゆるキャラは顔を上げる。

 

「毛並はよさそうだな。我らが派閥の駒でなければ、剥いでコートにでもしてやったものを」

 

 デクシィ侯爵からしたらゆるキャラのような謎の亜人は、毛皮の材料にしか見えていない様子。

 毎度のように言われるが、良い毛皮を見たら剥ぎたくなるのは貴族の嗜みなのかね。

 

 家畜でも見るような目というやつなので、ゆるキャラ一人で来て正解だったな。

 フィンやシンクに同じ視線と罵倒が浴びせられていたなら、ブチ切れていただろう……本人たちが。

 

 これまでも様々な貴族や王族に出会ってきたが、初めて貴族らしい高慢な相手かもしれない。

 ああ、某馬鹿王子を入れるなら高慢二号だが、(へりくだ)る必要がある相手としてならば初めてである。

 礼儀作法なんて分からないので適当にそれっぽい対応をさせてもらおう。

 

「まあいい。貴様とその仲間を第一皇子派の〈騎士団付き〉に任命する。仔細はこの後騎士団長と詰めるがいい。まったくこのような亜人風情が騎士団の最大戦力の一端になるとはな。精進が足らんのではないか?」

「返すお言葉もございません。より一層訓練に励み、ご期待に沿えるよう尽力致します」

 

 デクシィ侯爵が背後の護衛騎士を振り返り厭味ったらしく言うと、その壮年の騎士は表情を変えずに淡々と答えた。

 真摯な返事というよりは、聞き慣れた嫌味に対するテンプレ回答に聞こえるのは気のせいだろうか。

 

「亜人。貴様には子爵相当の地位が与えられるが勘違いするなよ。あくまで相当だ。気に入らない話だが、貴様には我らが騎士団の片翼を担ってもらうことになる。無論騎士団は貴族で構成されているからして、表向きは上官になる貴様にも貴族の位がないと格好が付かんからな」

 

 完全にゆるキャラたちが第一皇子派に取り込まれる流れだが、今は黙って頷いておく。

 

「あともう一つ、貴様たちの世話は引き続きクルール男爵令嬢に任せる」

「!?……かしこまりました」

 

 ゆるキャラの隣にいるクルールが驚いたように身じろぎした。

 エゾモモンガの目は視野角が広いので視線を向けなくてもわかるわけだが、これは想定外の話だ。

 

「早々に出戻りできてよかったではないか。辺境伯はお前の兄に武勲を期待していたが、父親どころか女のお前にすら負ける優男らしいな。所詮は武勲で多少目立った一代だけの田舎貴族よ」

 

 デクシィ侯爵がクルールの反応を確かめるように、ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべている。

 最初こそ驚いていたものの、彼女は伏し目がちの姿勢を保ったまま黙っていた。

 

「家畜臭い亜人に誰も近寄りたがらなくてな。そいつの世話をしている間は帝都での生活を許可する」

 

 おいおい、臭いのはお前のほうだろ。

 汗と香水の匂いが混ざり合って酷いことになってるんだぞ。

 

「謹んで拝命致します。デクシィ侯爵のご期待に添えますよう努めてまいります」

「そうしてくれ。なんならそいつが逃げないように婚姻してもいいぞ。さすれば亜人の子爵相当に合わせて、シャウツ男爵家の陞爵も認めてやらんでもない」

 

 陞爵という言葉にクルールの肩がぴくりと震えた。

 

「ただしその場合、世継ぎに亜人の血は認めんから他に用意せよ。ただまあ生むのは自由だ。亜人でも人種に近ければ孕めるが、そいつとならどうだろうな。そもそも行為ができるのか、試したなら是非報告してくれ」

 

 これはひどい……ニヤニヤ達磨め。

 世が世なら様々なハラスメントで余裕で訴えられているな。

 しかし悲しいかな、ここは異世界で文明レベルも低いため、ハラスメントという概念すらなかった。

 

 更にクルールは亜人嫌いなのだが、知ってて言っているのなら本当に質が悪いな。

 特に反応するでもなく俯く彼女の姿が、罵倒にじっと耐えているかのように見えてきた。

 見かねて話題を変えようとゆるキャラがデクシィ侯爵に尋ねる。

 

「侯爵様、発言をお許しいただけないでしょうか」

「なんだ?言ってみろ」

 

「頂いた使命を全うすべく、迷宮の深層に潜りたいと思っています。つきましては許可と支援を賜りたく」

「そんなことは分かっている。貴様の役目は迷宮を探索して我らが陣営に富と栄誉を献上すること。そして第二皇女派の第一位階冒険者オグトへの牽制だ。だから先ほど仔細は騎士団長と詰めろと言ったのだ」

「承知しました」

 

 さいですか。

 こちらとしては迷宮に入れてくれるなら文句はない。

 

 というかオグトは第二皇女派だったのか。

 まあ第二皇女派というのがどの程度の勢力かは知らないし、わざわざ知る必要もないと思っている。

 

 何故なら帝都での用事が終わり次第、すべてを放置して逃げ出すつもりだからだ。

 

 この贅肉達磨はこちらを利用しているつもりだろうが、それはこっちも同じなのだよ。

 ただし一つ懸念があるとすれば……。

 

「話は以上だ。下がるがよい」

 

 案内だけでお役御免となるはずだったクルール男爵令嬢は、新たな使命に何を思っているのか。

 俯いたままの表情からは何も読み取ることができなかった。

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