ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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133話:ゆるキャラと先輩(二回目)

「続きましてこちらは〈幻影の帽子〉という魔術具です」

 

 シンプルな名称と共に出てきたのは、見た目もシンプルな紺色で無地のハンチング帽子である。

 これには《幻影》の魔術が付与可能で、《幻影》の内容を一度登録してしまえば少ない魔力で発動、維持できるそうだ。

 

「実際に試してみましょう」

 

 《幻影》とはその名の通り幻影を生み出す魔術である。

 ハロルドが立ち上がり少し離れてから帽子を被ると、その姿が一瞬で小太りで平凡な顔つきの女性メイドの姿に変化した。

 

「おおっ、凄いな。見た目は完全に別人だな」

「ですが欠点もあります。ある適度体の動きに追従しますが、細かい動きは出来ませんし、素早い動きにも……」

 

 メイドが素早く手を動かすと、《幻影》はその動きに付いてこれずはみ出したハロルドの腕が見え隠れする。

 まるで残像だ。

 

 またよく見れば瞬きはしていないし、ハロルドが喋っても口は閉じたままだった。

 もちろん声や体臭も変わらないがそれ以外は完璧ではないだろうか。

 

「黙ってじっとしていれば、あと暗がりなら幻影だと気付かないなあ」

「そうでもないですよ。《幻影》は魔力で生み出しています。なので私が纏った魔力で邪人と気付かれるように、《幻影》も比較的気付かれやすいです」

 

 ふむ、魔力に鈍感なゆるキャラが引っ掛かりやすいだけか。

 《幻影》は騙し続けるというよりは目の前に炎の壁を出したり、顔面目掛けて鳥を飛ばしたりと瞬間的に相手の気を逸らす使い方が多いそうだ。

 

「それならさっきの〈紆余魔折〉と組み合わせたら、騙し続けられるんじゃないか?」

「残念ながらこの二つは相性が悪いのです」

 

 ハロルドがルリムがつけていない方の〈紆余魔折〉を指に嵌めると、メイドの姿にノイズが走る。

 アナログテレビの電波状況が悪い時みたいにちらついていた。

 むう、残念だ。

 

 試しにゆるキャラも帽子を被ってみると、サイズが合わなくてメイドの姿が〈コラン君〉の巨大な頭と体に埋もれてしまった。

 一昔前のポリゴンの荒いゲームのバグかな?

 

 この帽子でシンクに一回り大きい幻影を被せてしまえば、竜族の角や尻尾を隠すことができる。

 ルリムの言うとおり《幻影》と見破られはするかもしれないが、要は竜族と分からなければ良いのだ。

 

 ゆるキャラにはこれらの魔術具の相場などさっぱり分からないので、言い値で買い取ろうとしたのだが……。

 

「私たち夫婦と娘を救って頂いたお礼です。お代はいりません。お父様はこの帽子を使って仕事をしょっちゅう抜け出しているみたいなので、むしろ貰って頂けると助かりますわ」

 

 冗談交じりにアレッサが言うが、目が笑ってない気がする。

 そういえば前にもそんなことを言っていたな。

 ちらりとハロルドを見れば頷きながらも悲しい目をしている気がする。

 

「わたしもかぶってみたい」

「お、いいぞ」

 

 シンクに帽子を被せると、当然だか身長が足りないのでメイドの下半身は床に埋まる。

 その辺を歩き回ると、無表情のメイドの上半身がスライド移動するのでなかなかにホラーだ。

 

「いいなー、それ。私もやってみたい!」

 

 〈幻影の帽子〉はシンクでも大きめだったが、フィンだと頭から巨大な布袋を被っているみたいだ。

 そして《幻影》を発動させると、無表情なメイドが空中を縦横無尽に飛び回る。

 いやだから怖いって。

 

「細かいところまで再現できる《幻影》を唱えられる魔術師を呼びますので、登録する姿をお考えください」

「シンク、何か希望はあるか?」

「んー、じゃああれがいい」

 

 シンクは少し考えたのち、ゆるキャラになりたい姿を伝えた。

 

 

 

 その日の夜はルーナイト商会で夕食をご馳走になり翌日、ゆるキャラたちは冒険者ギルドに訪れていた。

 目的はルリムとアナの冒険者登録とパーティー名の申請だ。

 

 普段からゆるキャラやら妖精やら竜族やら邪人やらと個性的な面々だが、今日は一段と個性的なのがいる。

 

 そいつは純白の羽毛で覆われていて、黒褐色の縦縞と細い横縞がいいアクセントになっている。

 頭には耳介状の長くて幅広い羽毛が角のように伸びていて、三角形にデフォルメされた嘴は灰黒色だ。

 

 〈コラン君〉と同じでゆるキャラと呼ばれる存在。

 シマフクロウの〈島袋さん〉だ。

 

 〈島袋さん〉は旧大翼町のマスコットである。

 〈コラン君〉は旧胡蘭町と隣の旧大翼町が合併してできた胡蘭市のマスコットなので、〈島袋さん〉はゆるキャラの先輩と言えるだろう。

 

 その〈島袋さん〉がデフォルメされた丸くて大きい目をぱちくりさせなががら、冒険者ギルド内をぐるりと見回していると、あちこちらから黄色い悲鳴が上がる。

 可愛らしい見た目と仕草が、女性冒険者やギルドの受付嬢たちの琴線に触れたようだ。

 

「むう、かこまれた」

 

 あっという間に包囲されて〈島袋さん〉が後ずさって呻く。

 そう、この可愛い存在の正体は〈幻影の帽子〉で〈島袋さん〉の幻影を被っているシンクだ。

 

 何故かシンクは竜族の角と尻尾の隠れ蓑に〈島袋さん〉を選択した。

 確かに姿を完全に覆うには〈島袋さん〉のずんぐりむっくりした体型はぴったりだ。

 

 だが同じマスコットなら〈コラン君〉でもいいわけで。

 シンクが〈島袋さん〉を選んだことに、ゆるキャラは勝手にショックを受けていた。

 

「トウジは唯一無二。だからわたしはシマブクロサンでいいの」

 

 そんなに顔に出ていたのだろうか。

 すぐさまシンクがフォローしてくれたので、ゆるキャラのアイデンティティーは守られたのであった。

 

 《幻影》を登録しなおすために呼ばれた魔術師は、取り出した〈シマフクロウの島袋さんぬいぐるみ(大)〉に戸惑いつつも、しっかりと仕事を果たしてくれた。

 メイドの幻影は瞬きをしなかったが、〈島袋さん〉は無理を言って瞬きにリソースを割いてもらっている。

 

 細かいこだわりというやつだ。

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