「ほーーー」
ぽかんと開けた口から気の抜けた声を漏らして、シンクが目の前にそびえ立つ巨石群を見上げている。
直径が五十センチから一メートルほどの赤茶けた岩石が、いくつも山のように積み上げられていた。
そこに山があるからだ、と登山家思考になったのかどうかは知らないが、シンクがおもむろによじ登り始める。
山といっても高さは十数メートルほど。
サイズ的には巨大なジャングルジムといった程度なので、登山というよりはアスレチックか。
自身の身長と同じくらいの岩をよいしょよいしょと、赤いワンピース姿の幼女が登る。
年相応の体力なら岩を一つ登るだけで一苦労だが、その正体は絶対強者フィジカルエリートである竜族。
なので疲れる様子もなく順調に登っていくが……七合目くらいで異変が起こる。
地響きとともに巨石群が震えだした。
振動で巨石と巨石の間に挟まった小石ぱらぱらと落ちて、登っていたシンクの頭に降りかかる。
「んーーー?」
何事かとシンクが顔を上げた瞬間、突き上げるような衝撃に襲われる。
登っていた巨石群が突然、噴火したかのように打ち上げられたのだ。
「おーーー」
シンクの足元の巨石も打ち上げられたため、一緒になって空中に放り出された。
無数の巨石が石の雨となって降り注ぐと、迷宮の石畳が破壊され土煙が立ち上る。
人体に当たれば容易く破壊されそうな威力だが、シンク以外の面子は避難しているので問題ない。
地響きは依然続いている。
弾け飛んだのは山の中腹から上の表面だけで、内部に潜んでいたものの上半身が露わになった。
人型をしたそいつは巨石群と同じ赤茶けた色の装甲を身に纏っている。
頭部のスリット部分にある赤い単眼が鈍く光ると、両腕を振り回し残った巨石の山を破壊。
再び巨石の雨を降らせつつ巨石の山から出てきた。
五階層の
一階層から五階層はいわゆる上層と呼ばれていて、初心者向けの階層だった。
迷宮の構造が単純なら出現する敵も手応えがない。
というわけでアナのマッパーの練習が一段落付いたところで、さくっと中層へ向かうことにした。
「「ふわあああああ」」
巨大ロボ登場に興奮しているのはシンクとフィンだ。
アナはロボに興奮する余裕がないようで、緊張した面持ちで禍々しい杖を構えている。
この杖はアナとゆるキャラが初めて出会ったときに持っていたもので、攻撃に参加してもらうため装備してもらっていた。
五階層も石畳に覆われた迷宮だったが、巨石兵のいるフロアはドーム球場並に広い。
その中央にあからさまな巨石の山があり、シンクが代表して巨石兵を起動させたというわけだ。
巨石兵の全長は巨石の山より一回り小さく十メートル弱。
頭身は低めで国民的RPGに出てきそうなデフォルメ気味の姿をしている。
巨石兵の単眼が足元で目をきらきらさせて見上げているシンクを捉えると、軽自動車くらいはありそうな大きな右腕を真っ直ぐ振り下ろした。
サイズは軽自動車程度だが、中身はびっしり岩が詰まっているわけで質量はその比ではない。
幼女を巻き込みつつ巨石兵の拳が地面を叩く。
堅いものがぶつかり合う轟音と共に地面が大きく陥没。
その地点を中心に石畳に衝撃が伝わり円形に罅が入った。
巨石兵は遠巻きに見ていたゆるキャラたちを捕捉し、こちらに向かってこようとしたが……振り下ろした拳が動かせない。
「よし、アナいいぞ」
『狂い刳る外淵の星辰よ 無像の影を有象の槍へと変貌させ 彼の敵を縫え』
アナの掲げた禍々しい杖の先端には、何の生物かわからない角の生えた頭蓋骨がくっ付いている。
生前は目が収まっていたであろう双眸の窪みには、黒く輝く宝石が埋め込まれていた。
その片目が魔力を吸われ輝きを失うと同時に、杖の先端に漆黒の結晶が生まれる。
細長い円錐の形をしたそれは黒曜石のように輝いていて、ゆるキャラの黄色い鳥脚に付いている爪に似ていた。
アナが杖を巨石兵目がけて振るうと、円錐の結晶が射出される。
水平に撃ち出されたそれは、巨石兵が振り下ろしたまま動かせないでいる右腕の付け根に着弾。
肩口を抉るように貫通したため、腕と体が切り離された。
巨石兵が衝撃でよろめき後ずさるが、不思議と分離した腕はその場で浮いたままである。
「シンク、いいぞ!」
「ん!」
ゆるキャラが叫ぶと浮いた腕の下から元気な声が聞こえる。
そう、シンクは叩き付けられた腕を受け止めていて、分離した今も持ち上げていたのだ。
シンクが軽自動車サイズの腕を両手で持って振り回す。
幼女が巨大な腕を振るう姿はなかなかにシュールだ。
ギャクマンガかな?
ギャグ時空のノリで放たれたスイングだがその威力は本物だ。
先ほどの巨石兵の攻撃より断然早いし破壊力もある。
ごうと周囲の風を巻き込みながら振るわれた巨石兵の右腕は相手の左足に直撃。
地面に腕を叩きつけた時よりも激しい衝撃波が巻き起こり、ゆるキャラの鼓膜を震わせる。
激突に耐えられなかった腕と足は互いに自壊して、最初にシンクが登っていたサイズくらいの岩が大量に生成。
つぶてとなって飛散した。