『あーずるい私もやる!』
出番が無くなると思い焦ったフィンが、相変わらず適当な詠唱で魔術を発動させる。
というかそれだともはや只の日常会話なのだが。
フィンが空中で体をくの字に曲げて、両の手のひらを真っ直ぐ突き出した。
すると不可視の突風が発生する。
それ自体を視認することは出来ないが、突風が通過すると荒れた地面の瓦礫や砂埃が巻き上げられる。
そして一筋の軌跡となって巨石兵へ向かって飛んでいく。
当の巨石兵は右腕と左足を失い、バランスが取れず左に傾いた体を左手で支えていた。
フィンの魔術を察知出来ているのかは知らないが、いずれにせよ身動きが取れず対応できる状況ではない。
《風刃》の一撃は巨石兵の胴体、ど真ん中に直撃した。
螺旋状に渦巻く風の刃が、巨石兵の胸板をガリガリと抉っていく。
その光景はまるでトンネルを掘る掘削機のようだ。
だがその進行速度は早回ししたかのようで、硬い岩石が豆腐のようにみるみると削れていく。
切削音も凝縮されて爆発音みたいになってゆるキャラの鼓膜を震わせた。
うるさっ。
思わず両手でエゾモモンガの耳を押さえつける。
その威力はアナの放った《闇槍》を遥かに上回っていて、ものの数秒で巨石兵の胸には丸い大穴が空く。
随分と風通しが良くなったが、巨石兵の胴体に重要器官は無かったようだ。
衝撃で体全体が後方にずり動いたが、機能が停止することはない。
巨石兵は頭を動かして足元にいるシンクを見下ろすと、赤い単眼が鈍く輝く。
そして残っている左腕を持ち上げると、シンク目掛けて振り下ろした。
体の支えを失い、前のめりに倒れながらの攻撃をシンクは逃げることなく迎え撃つ。
脇を閉めた状態で右拳を腰だめに構えて、自らに落ちてくる巨大質量を睨みつける。
「んっ!」
そして勢い良く拳を突き上げて垂直に飛び上がった。
赤いワンピースの残像が映像を逆再生した稲妻のように駆け上がる。
握りしめた小さなおててと、巨大な岩石の拳が激突。
直後に雷鳴のような轟音。
赤い稲妻となったシンクが、巨石兵の拳を粉々に打ち砕いた。
うむ、見事な昇○拳である。
シンクは竜族なので本家と言っても過言ではないかもしれないな。
ちなみに格闘ゲームのあの技は、アッパーカットの後に飛び膝蹴りも入れている。
ゆるキャラの中の人は割と最近まで知らなかったので、結構衝撃の事実だった。
何が多段ヒットしていたのかが判明した瞬間である。
巨石兵の拳を砕いてもシンクの勢いは衰えず、ドーム球場のように高い天井へ到達した。
水泳のターンのように体を翻して天井に着地。
そしてスカートが重力で捲れる前に天井を蹴りつける。
赤い稲妻が再び巨石兵を襲う。
今度は頭部だ。
左手も失った巨石兵は顔面から地面に倒れていて、その後頭部を拳を突き出した状態で落ちてたシンクが通過。
巨石兵の頭部はガラス細工のように打点から衝撃が伝播し粉々に砕け散った。
頭部を失った巨石兵は地面に倒れたまま動かないので、どうやら頭部が弱点だったようだ。
打撃時点には衝撃で地面にクレーターができていて、その中心地には膝立姿勢のまま蹲っているシンクの姿が。
未来から来た殺し屋アンドロイドかな?
「んーたのしかった」
立ち上がったシンクの表情は晴れ晴れとしていて、ワンピースについた埃を手ではたいている。
「話には聞いていましたが、シンク様もフィン様も相当お強いですね!」
ゆるキャラの横ではルリムが興奮した様子で声を上げ、小刻みに飛び跳ねていた。
相変わらず動きがきゃぴきゃぴ(死語)している。
そういえばフィンとシンクがまともに戦う姿を見るのは初めてか。
一方でアナは長女と次女の破壊の痕跡を見て唖然としている。
まあ普通はこういう反応になるよね。
「でもアナも巨石兵の腕を一撃で破壊して凄かったじゃないか」
「そうかな……杖の魔石ひとつ分の魔力を全部込めた全力の一撃だったけど、僕じゃあ胴体にあんな穴は空かないかな」
だとしても十分な威力だと思うけどなあ。
この巨石兵は〈残響する凱歌の迷宮〉の上層を守護する存在で、こいつを一つのパーティーで討伐できるようになって初めて、一端の冒険者と名乗れるくらいの強さなんだそうだ。
階級で言えば第四位階冒険者の熟練パーティーが相当する。
そう考えると巨石兵って意外と弱いんだよな。
当たれば即死級の質量攻撃ではあるが、いかんせん動きが遅いし単調だから余程の鈍足でもなければ当たらないか。
問題は岩石を破壊できる攻撃力があるかどうかだが、その強度もそこまでではない。
ちょっと堅めのレンガくらいだろうか。
試しにゆるキャラがその辺に落ちている岩石を鳥足の爪で蹴りつけると、深々と爪痕が付いた。
「ふむ、このくらいなら斧やハンマーなら十分いけるか」
「そうですね。攻撃が単調ですから動きに注意して時間をかけて削れば、誰でも倒せますね」
「誰でもねえ」
ルリムは意外とスパルタ思考、というかノリが体育会系だ。
娘のアナがおとなしいので余計に目立つ。
「あと魔術も十分効果的ですが魔力には限りがあるし、魔力回復用の霊薬や魔石は高価です。巨石兵と戦うような階級の冒険者には手が出ないでしょう。なので魔術師はアナがやったように全力で一発撃って、あとは応援してるか支援に専念するかですが……フィン様もシンク様もあの調子なら一人でも瞬殺でしたね」
「そうだなあ。俺が一番苦労しそうだよ」
というのがゆるキャラの素直な感想である。
正攻法の武器や爪でこつこつ削る手段しかなさそうだ。
竜族のシンクはともかくフィンは普通の妖精族のはずなのだが、火力だけなら余裕でチート転生したゆるキャラを上回っている。
でもまあフィンの高火力は妖精族の魔力を体内に溜め込む性質と、ゆるキャラの提供する高品質な魔力回復剤(饅頭や羊羹など)の
ある意味ゆるキャラ以上にチートの恩恵を受けているのかもしれないな。
ちなみにこの巨石兵だが、この広い空間の端を歩けばスルーして奥にある次の階層に下りることができる。
じゃあ何故わざわざ接近して起動させたかといえば、シンクのストレス発散とこのパーティーの戦力確認のためだ。
迷宮は外界と隔たれているためいくら暴れてもOKで、ゆるキャラたち以外の人影も無いのでのびのびと運動できた。
ストレス発散の具合はシンクのすっきりした顔を見れば明らかである。
巨石兵くん、君の死は無駄ではなかったよ……。