ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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14話:ゆるキャラと信頼の証

 人に何の加護を持っているかを聞いてはいけない。

 何故なら加護はその人物を守る力であり、不用意に他人に知られれば自身の強みと弱みの両方をさらけ出してしまうからだ。

 加護の内容や強さは千差万別で個人差が激しいが、加護の名前である程度予想できてしまうのだ。

 

 ただし親しい間柄になると自分から加護の名前を教えることもある。

 この人になら弱点を晒しても大丈夫だという信頼の現れだ。

 

「私の加護は【狩猟神の加護】だ。剣をはじめとしたいくつかの武器と身体能力に恩恵がある。あと一度狙った獲物はどんなに離れていても居る方向と距離がわかる〈狩人の目〉という特殊能力を持っている」

 

 戦闘訓練を初めて三日目、つまり異世界に転生して一週間が経った頃、イレーヌが自身の加護について教えてくれた。

 信頼してくれるのは嬉しいが、少し早すぎる気がする。

 

 見たは目凛々しく戦士然とした、隙の無い佇まいの女性だが意外とちょろいのか?

 フレイヤ先生の説明だと家族と同等の信頼がないと打ち明けないはずなのだが。

 

「あのねトージ。わたしのは【風雷神の加護】だよ。どんな力があるかは知らないけど」

 

 フィンがイレーヌに張り合うように自分の加護を暴露した。

 ……こいつは信頼とかは何も考えてないな。

 

「ってフィンは自分の加護の内容を知らないのかよ」

「そういうトージはどんな加護なの?」

「そりゃあ俺の加護は……なんだろうな?」

「なによトージだってわかってないじゃない」

 

 鮮やかな蝶の翅を持つ妖精の少女は、頬を膨らませながら俺の周囲を抗議するかのようにぐるぐると飛び回る。

 というか俺だからいいけど、他人に加護を聞くのは御法度だぞフィンよ。

 

「フレイヤさん曰く俺は〈混沌の女神〉によって転生させられた可能性が高いらしいから、【混沌の女神の加護】持ちになるのかね?」

 

 俺の素性はイレーヌにも説明してあり、彼女は「そうか、わかった」と一応返事をしたが、頭上には大量の疑問符が浮かんでいた。

 どうやらイレーヌは脳筋……戦闘に特化した人物のようだ。

 

「確約はできませんが、ほぼ間違いなくトウジさんの加護は【混沌の女神の加護】だと思いますよ。他の誰の加護とも似通わない唯一無二な能力は、混沌を司る女神の加護に相応しいものですから」

 

 噂をすればなんとやらで、丁度広場にやってきたフレイヤ先生がそう答えた。

 飛び回っていたフィンが抱き付くと、フレイヤは相好を崩してその頭を優しく撫でた。

 普段は真っ赤なルージュが蠱惑的な美女だが、仕草のせいか今は不思議と母性を感じさせた。

 フレイヤの言う通りこんなへんてこな加護を与えるのは、混沌の支配者くらいなものか。

 

「はっきりさせたいのであれば、いずれお会いにある〈混沌の女神〉様に直接聞くか、〈加護石〉で調べると良いでしょう」

 

 〈加護石〉とは加護に反応して発光する石のことだ。

 〈加護石〉は神の数だけ種類があり、その神の加護を持つ者が触れると発光して、自身の加護を判別できるという仕組みだ。

 つまりイレーヌであれば〈狩猟神の加護石〉のみ光ることになる。

 

 中には複数の神の加護を持つ者もいるがそれは非常に稀で、英雄と呼ばれるようなごく一部の存在だけだそうだ。

 

 またその他に特殊能力(ギフト)から加護を判別することもできる。

 これもイレーヌで例えると、先程言っていた〈狩人の目〉というのが【狩猟神の加護】特有の特殊能力だ。

 身体能力強化や剣術などの技術の向上は、特定の神に限った恩恵ではないので判別には使えない。

 そしてこれらはあくまで判別手段であって、加護の強弱は自身で確認しなければならない。

 

「ですが〈混沌の女神の加護石〉はリージスの樹海にはありませんので、人里に出る必要がありますが」

「人里とは人間……人種の住む街ってことですか?」

「はい。人種が運営する冒険者ギルドには沢山の種類の加護石を集めた部屋があるそうです。私は樹海から出たことがありませんので伝聞になりますが」

 

 出ましたファンタジーの定番、冒険者ギルド。

 やっぱりこの世界にもあるのか。

 

 〈混沌の女神〉と思われる猫からは自由に生きろと言われているので、落ち着いたらリージスの樹海を出て旅をするのもいいだろう。

 しかし一つ懸念がある。

 

「この見た目で人里に降りたら騒ぎにならないかな?」

「………」

 

 無言で微笑んでないで何か言ってくださいフレイヤ先生。

 下手をすれば魔獣だと思われて討伐されかねん。

 

「大丈夫よトージ。わたしが一緒について行ってあげるから安心しなさい」

 

 保護者面したフィンが偉そうに言うが、こんな小さな妖精が屈強な男たちが集う(という勝手な偏見)冒険者ギルドに繰り出しても、捕獲されて瓶に入れられ売られてしまいそうだ。

 という俺の予想は的中していたようだ。

 

「あなたは駄目ですよフィン。妖精族は人里では珍しいので、すぐに攫われてしまいますから」

「だってよ」

「ええー、つまんなーい!」

「フィンを頼るくらいなら亜人種のイレーヌさんのほうが……どうかしたか?」

 

 そう言ってイレーヌに視線を向けると、彼女は妖精の里のはずれのある方向を、無言でじっと見つめていた。

 猫がよくやる一点を見つめるアレか?

 イレーヌは尻尾をピンと立てたまま険しい表情で呟いた。

 

「……奴が近づいてくる。予想よりも三日は早いな」

「やつ?やつってだれ?」

 

 人里行きを却下されて不貞腐れていたフィンが、イレーヌの肩に止まって猫目を覗き込む。

 

「フレイヤ様、〈森崩し〉が近づいています。私は部下を集めて迎え撃ちますので、妖精たちは里から出ないようにお願いします」

 

 イレーヌは視線を逸らさずにフェイを両手で包んで優しく下ろした後、俺に向き直った。

 豹人族の女戦士は〈樹海の試練〉の時のように獰猛な笑みを浮かべている。

 

「トウジ殿、そろそろ実戦経験を積むとしようか」

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