ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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140話:ゆるキャラと仕様

「ところでこの惨状は放置でいいのか?」

 

 ゆるキャラの目の前には巨石兵の残骸がでかでかと横たわっていた。

 破壊された手足と頭部は大小様々なサイズの破片となり、周囲の至るところに散らばっている。

 他にも巨石兵が拳を叩きつけた部分の石畳は割れてるし、シンクの作ったクレーターに至っては地面が思いっきり陥没していた。

 

「はい、問題ありません。巨石兵は魔法生物ですからそろそろ……ほら」

 

 まるでルリムの言葉に反応したかのように、巨石兵の残骸に変化が現れる。

 巨石兵を構成している赤茶けた岩石の一つ一つが淡く発光し始めたのだ。

 

 何事かと足元に転がっていた破片を拾ってまじまじと観察してみる。

 破片はゆるキャラの手のひらの上でぐずぐずと形を崩すと、空気中に溶けるようにして消えてしまった。

 

 この現象は見たことがある。

 あれだ、《洗浄》の魔術で作った水が消える時と似ていた。

 

 魔術で生み出した水は純粋な魔素で構成されているため、役目を終えると空気中の魔素に溶け込むようにして消えるのだ。

 ゆるキャラの持つ《浄化》の水を生み出せる聖杯もこれと同じ仕様である。

 つまり巨石兵は純粋な魔素で構成された魔法生物なのであった。

 

 広い空間全体に広がる魔素の輝きは幻想的で、三姉妹からは安定のふわあああが飛び出している。

 空気中に漂う魔素の残滓をフィンとシンクが掴もうと手を伸ばしているが、掴めない。

 シャボン玉と戯れるキッズかな。

 

 アナは興奮しつつも大人しく綺麗な光景を見上げている。

 口はぽかんと開いているが。

 

「魔法生物?そこは魔術生物じゃないんだな……生物というのも違和感があるが」

「はい。ここは神々が造った迷宮で、巨石兵も同様です。どちらも人智を超えた力で成り立っている正真正銘の魔法です」

 

 このアトルランと呼ばれる世界では魔術と魔法は明確に区別されている。

 魔術とは人が魔素を用いて事象を操る術であり、事象に見合った労力と対価が必要だ。

 等価交換というやつである。

 

 対して魔法は世界の法則や事象そのものに干渉するもので、人には扱えない神々の御業だ。

 内容によっては魔法を魔術で再現出来るかもしれないが、その労力と対価は恐ろしいものとなるだろう。

 

「この迷宮も巨石兵も神がそこに在るべきものとして造られています。なので時間経過とともに元通りになります」

 

 へーまるでゲームだな。

 でもまあ階層守護者が一回きりじゃ迷宮として機能しないから、当たり前の仕様ではあるか。

 

 また先に述べた通りこの広いフロアの端を通れば、巨石兵とは戦わずに次の階層に行けるのも仕様である。

 守護者なのにスルーできるとか本当にゲームの攻略のようだな。

 

 ゲーム仕様はまだあった。

 巨石兵の残骸が消えると、そこに何かが転がっている。

 どうやらドロップアイテムがあるようだ。

 

「ん、ねえねえトージこれなあに?」

 

 フィンが半透明な結晶状のそれを目ざとくそれを発見すると、両手で抱えてゆるキャラの所まで持ってきた。

 もちろんゆるキャラにはさっぱり分からないので、隣のルリム先生を見てお伺いを立てる。

 

「これは……多分魔石の原石ですね。加工すれば魔力を貯められます。小ぶりなのでその量は少しだと思いますが」

 

 アナの持つ禍々しい杖に嵌っている魔石と比べると、原石の時点で既に一回り程小さい。

 上層のボスドロップなので、報酬内容もささやかであった。

 いや、巨石兵を狩る冒険者のレベルを考えれば適正か。

 

 巨石兵や石畳が元に戻るところを見たかったが、完全に元通りになるまで半日はかかるそうだ。

 さすがにずっと観察はしていられないので、諦めて次の階層へと進む。

 

 フロアの先にある出入り口と同じ暗い穴を潜ると、まず感じたのは木漏れ日だ。

 見上げると木々の隙間から太陽の光が降り注ぎ、ゆるキャラの顔にまだらになって当たった。

 

 五階層までの暗く黴臭い雰囲気が一変。

 周囲は森で木々が鬱蒼と生い茂り、エゾモモンガの鼻が新緑の匂いを嗅ぎ取っていた。

 

 どことなくリージスの樹海の、ゆるキャラが初めて目覚めた場所を思い出す風景だ。

 三姉妹はお約束のふわあああ中である。

 

「へーこれが迷宮の中とは思えないな。太陽とかどうなってるんだ?」

「疑似的なものなので、上空は見えない壁で覆われているそうですよ」

 

「よし私確かめてくる!」

「こらこら、安全が確認できるまで待ちなさい」

「ぐえっ」

 

 張り切って飛んでいきそうになったフィンを慌てて止める。

 フィンが肩からかけている〈コラン君パスケース(緑)〉の紐に指を引っ掛けたため首が締まり、女の子が出してはいけない声が漏れた。

 

「ちょっとなにするのよ!」

 

 抗議の髭引っ張りを受けつつ、ゆるキャラたちは六階層の探索を始めた。

 本当に外の森と変わらない環境で、風で木々は揺れて、虫が飛び交い、小動物の気配がする。

 

「まさか木々や虫や小動物まで魔法生物じゃないよな?」

「それらは外と同じで本物の生物です。なので事前に説明しました通り、環境に配慮した行動をお願いしますね」

「りょーかい」

 

 魔法生物はともかく、普通の生物は迷宮にいつ持ち込まれたのだろうか。

 細かいことが気になるゆるキャラであったが、前方からの物音を察知したので質問タイムは一旦終了。

 

 皆で警戒しながら暫く進むと開けた場所に出くわす。

 そこではとある冒険者のパーティーが、巨大な魔獣と戦闘を繰り広げていた。

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