ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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141話:ゆるキャラと石像

 そいつは青銅色の皮膚をした怪物だった。

 両手両足に鋭利な爪を生やし、丸めた背中では大きな蝙蝠の翼がはためき巨体を浮かせている。

 

 尖った鼻に根元まで裂けている口。

 毛のない頭頂部からは二本の捻じれた角が伸びていて、赤く輝く双眸が対峙する冒険者たちを睥睨していた。

 

 体長は三メートルくらいだろうか。

 尻尾も体長と同じくらい長くて、先端は両刃の斧のような形状をしている。

 右手には柄の長い戦斧を持ち、左腕には丸盾が括り付けられていた。

 

「ガーゴイル?」

「そのようですね」

 

 ゆるキャラの呟きを聞いてルリムが首肯した。

 ガーゴイルといえば迷宮や遺跡への侵入者を排除する動く石像といったイメージがある。

 

 しかし辺りは開けた草むらとそれを囲む木々だけで人工物は一つもなかった。

 なんだか場違いな気がしてならない。

 野生のガーゴイルなんているのか?

 

 こいつと戦っている冒険者は四名で見覚えがある。

 迷宮に入る順番待ちの時、ゆるキャラたちの前に並んでいた奴らだ。

 こちらの不思議な面子を気にして何度も振り返っていたので印象に残っていた。

 

 戦況は劣勢……というか全滅寸前だ。

 斥候風の男が草むらに倒れていて、神官風の男がその治療に当たっていた。

 

 戦士風の男がそれを庇うようにガーゴイルを引きつけているが、左手で持っている盾は上半分が失われている。

 盾で戦斧を受け止めきれなかったのだろう。

 

 右肩口に大きな裂傷があり血が流れ続け、垂れ下がった腕からは得物の剣を今にも取り落としそうだ。

 早く止血しなければ失血死は免れない。

 

 少し離れた位置には魔術師の女がいるが、魔力を使い果たしたのか顔面蒼白で意識も朦朧としていた。

 杖をついて辛うじて立っている状態で、軽く押しただけでそのまま倒れてしまいそうだ。

 

 事前に学習したルリム先生のマナー講座によれば、他パーティーに不用意に近づいてはならないことになっているが、助太刀する場合は話が別だ。

 ゆるキャラが他の面々に目配せしてから、遠巻きに冒険者へ声をかける。

 

「助けはいるか!」

「……!?ダメだ、逃げろ!こいつはヤバい!あんたたちも巻き込まれるぞ」

 

 こちらに唯一気が付いた神官風の男から返事があった。

 

「助太刀自体は拒否しなかったからいいよな?」

「ええ、加勢しましょう」

「よしフィンは負傷者の治療を手伝ってやってくれ。シンクとアナはその護衛だ。俺とルリムでガーゴイルの相手をするぞ」

 

 ゆるキャラの指示で各々が動き出した。

 ガーゴイルに向かって走りながら、四次元収納から両手剣(ツヴァイヘンダー)をぺいっと空中に向かって吐き出す。

 

 そしてくるくると縦回転しているその柄を飛び上がってキャッチ。

 戦士風の男を飛び越えてそのままガーゴイルへ飛びかかる。

 

 その時ガーゴイルは戦斧を横薙ぎに振るっていた。

 男は割れている盾で防ごうとしたが、失血でふらついて間に合わない。

 

 彼の首と胴が泣き別れるのを阻止したのは、ゆるキャラと一緒に走り込んでいたルリムだ。

 素早くガーゴイルと戦士風の男の間に割り込むと、彼女の構えた盾と戦斧が激突。

 ぎいんという鈍い衝撃音と共に火花が散る。

 

 背後の男を庇って真正面から斬撃を受け止めたため、衝撃を逃がし切れずルリムの盾が上方向に弾かれた。

 ガードが空いて揺れる豊かな胸元を狙って、ガーゴイルが戦斧を切り返したがそうはさせない。

 

 ゆるキャラの飛びかかりながら振り下ろした一撃が、ガーゴイルの左の翼を切り裂く。

 手応えは完全に石像のそれで、両手剣越しに硬いものを斬りつける鈍い感触が伝わってきた。

 

 本物の蝙蝠の羽のように滑らかに羽ばたいているのに硬いのかよ。

 見た目と手応えのギャップを無視して力任せに両手剣を振り抜くと、翼は真ん中辺りで切断された。

 

 体から切り離された翼は、日光を浴びた吸血鬼のようにあっという間に灰になって崩れ去る。

 片翼になりガーゴイルの体が制御を失い傾く。

 そのおかげで切り返した戦斧の軌道は大きく逸れてルリムの頭上を通過した。

 

 ガーゴイルの巨体とゆるキャラが地面に落ちる。

 飛ばれると厄介だったので、早々に翼を潰せて良かった。

 

 痛覚など無いのだろう。

 翼を切断されても動じた様子もなく、ガーゴイルは静かに標的をゆるキャラに切り替える。

 

 視界の隅で鞭のようにしなる尻尾が見えた。

 ゆるキャラの斜め後ろから飛来した尻尾を横に飛んで躱すと、斧状の先端が地面を抉って周囲に土を撒き散らす。

 視野角の広いエゾモモンガの目でなければ、完全に死角で反応できなかったかもな。

 

 ガーゴイルはゆるキャラを視線で追いかけながら戦斧を振るう。

 低めの軌道で振るわれた斬撃を飛んで躱すと、空中で無防備になったところへ追撃の尻尾が飛んてくる……ことはなかった。

 いつの間にかガーゴイルの背後に回り込んでいたルリムのおかげだ。

 

「はあっ!」

 

 気合一閃。

 ルリムが得物の片手斧をガーゴイルの尻尾に叩き込むと、根本の辺りに深々と切り込みが入る。

 切断には至らなかったが問題ない。

 

 ゆるキャラを攻撃するために勢い良くしならせた結果、自重と遠心力に耐えきれず尻尾は千切れてしまう。

 そしてあらぬ方向に飛んでいき空中で灰になって消えた。

 

 着地したゆるキャラはガーゴイルへ詰め寄り戦斧の間合いの内側に侵入。

 振り払うように放ってきたシールドバッシュも、スライディングで掻い潜る。

 

「おらあっ!」

 

 ゆるキャラも気合を入れて両手剣を切り上げる。

 切先はガーゴイルの逞しい二の腕に侵入し、見事切り飛ばすことに成功した。

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