ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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143話:ゆるキャラと大自然

 ゆるキャラは森林での隠密行動が得意だ。

 その理由は〈コラン君〉のモチーフとなった動物にある。

 

 エゾモモンガの手足は素早く木をよじ登ることができるし、オジロワシの翼は音もなく木々の間を滑空することができた。

 どちらも北海道の大自然の中で生きているものなので得意なのも頷ける。

 

 当然だが生前の益子藤治 (三十歳フリーター)には無い能力で……というか、どんなに自然に慣れ親しんでいたとしても人間には無理な動きか。

 

 ちなみにゆるキャラの中の人は、生まれも育ちも北海道で生粋の道産子である。

 なら北海道の大自然に慣れ親しんでいるか?といえばそうでもない。

 

 住んでいた胡蘭市は北海道の地方都市の中では大きい方で、身近な自然といえば河川敷や整備された森林公園くらいなもの。

 そこですることなんて精々BBQかキャンプだ。

 

 これが田舎で家の裏がすぐ山とかなら、野生児のように木登りが得意になっていたか?と言われれば、そもそもインドア派なのでならなかっただろうな。

 故にウィンタースポーツもしなかったので、折角北海道に住んでいたのに勿体なかったかもしれない。

 

 まあ現在進行形で北海道並みか、それ以上の大自然を堪能しているのだが。

 などと雑念しつつも謎の気配の追跡は継続中だ。

 

 気取られないように距離を取っているので、相手の姿は見えない。

 途中一度だけ気配が立ち止まることがあったが、その後は真っ直ぐある方向に進み続けている。

 

 暫くして再び気配が止まる。

 気配が増えたことから、どうやら誰かと合流したようだ。

 

 そこから動く気配は感じられないので、慎重に木々の間を縫い接近を試みる。

 話し声が聞こえるくらい近づいたところで、大木に隠れてひょっこり顔だけ出して様子を覗う。

 

「どうした手ぶらで帰ってきて。あいつらをガーゴイルで始末できなかったのか?」

「他のパーティーが鉢合わせまして……」

 

 四人の男が一人の女を囲んでいた。

 その冒険者風の男たちは端的に言ってガラが悪い。

 装備の下の衣服は着崩されシワも寄っている。

 清潔感もなく近寄ると臭ってきそうだ。

 

 リーダー格と思われる男に報告している背を向けた女が、ゆるキャラが追跡していた人物だろう。

 長い金髪が腰まで伸びているが、手入れがされておらず煤けていた。

 

 服装はずたぼろの貫頭衣のみで、靴も履いていない状態で森を移動したため足は泥で汚れている。

 そして彼女の首に奴隷の証である〈隷属の円環〉が付いているのがちらりと見えた。

 

「ああん?ガーゴイルなら並のパーティー程度が一つ増えても余裕で皆殺しにできるだろ」

「それがあっさり倒されてしまいました」

「ちっ、ついてねぇな。折角あそこまで引っ張らせたのによ」

 

 陣取っている男たちな背後には、石造りの迷宮の入り口があった。

 迷宮内に迷宮の入り口とはこれいかに。

 

 左右には同じ材質の台座があり、片方にガーゴイルの石像が鎮座している。

 もう片方の台座は空なので、ゆるキャラたちが戦ったあいつがいたのだろう。

 

 ふうむ、ガーゴイルは結構危険な相手だったようだ。

 確かに攻撃は鋭かったし、こちらが攻撃を当てても怯まないので厄介か。

 実際に先に遭遇していたパーティーは全滅しかけていたしな。

 

 ゆるキャラ的には巨石兵のほうが削るのが面倒だが、攻撃が鋭いガーゴイルのほうが一般冒険者にとっては強敵になるようだ。

 そして何の目的か分からないが、こいつらが奴隷の女を使ってMPK (モンスタープレイヤーキル)をけしかけたと。

 

「そんなに強いパーティーだったのか?」

「昨日皆様が話題にされていた亜人の……」

 

「ああ、宿にいたあの変な畜生のパーティーか。噂では〈国拳〉と互角にやりあったらしいが、どうせハッタリだろ。大して強く見えなかったからな。オグトの野郎があんなのと互角なら、第二位階の俺様なら余裕で勝てるっての」

 

 この〈残響する凱歌の迷宮〉があるラーナムの街に、ゆるキャラたちのパーティー〈トレイルホライゾン〉が到着したのはつい昨日のことだ。

 当日に捕捉されていたとは……こんな奴ら宿にいたか?

 

 普段から注目を浴びているせいか、不用意に周囲を見渡すと視線が合うことが多い。

 なので無駄に因縁をつけられても面倒なので、あまり周囲を見ないようにする癖がついていたから気付かなかったか。

 というか帝国入りしてまだ数日なのに、噂になるのが早いぞ。

 

「面倒くせえな。上手いことあの畜生を仕留められれば、上玉の邪人奴隷が手に入るんだがな。あの肉付きの良い体がたまんねえぜ。元は同じ種族だろうに、貧層なお前とは全然違うなあ?」

 

 リーダーの蔑んだような言葉に釣られて周囲の男たちが笑い出す。

 やっぱりルリムは周りからはそういう目で見られていたのか。

 しかも邪人と見抜かれていた。

 

 奴隷の女は俯いて男たちの嘲笑を黙って聞いている。

 いや、僅かに肩が震えたのをゆるキャラは見逃さない。

 手入れのされていない金髪の左右からは、森人(エルフ)の証である尖った耳が飛び出していた。

 

「まあいい。冒険者狩りも失敗したし今日はお開きだ。お前らは先に帰っていいぞ。俺はいつも通りこいつで愉しんでから帰る」

 

 奴隷の肩を抱いて迷宮に入ろうとするリーダーに他の男たちは素直に従い、女も抵抗する様子はない。

 

 さてこれからどうしたものか。

 冒険者狩りとやらの被害にあった冒険者たちは助けたわけだし、面倒事を避けるならこのまま外に戻り、こいつらのことをギルドに通報して終わりだ。

 

 奴隷の彼女には悪いが、ゆるキャラ単独で戦闘力が未知数の男どもに挑むのは避けたい。

 これまでの経験から勝てなくはなさそうだが……慢心は身を滅ぼす。

 

 自称だがリーダーの男は第二位階らしいし、体に流れる魔力を偽装しているルリムを邪人と見抜いていた。

 性格は下衆だが侮れん。

 

 誰も彼も助けられるほどゆるキャラは万能ではない。

 危ない橋は渡れないとゆるキャラが戦術的撤退を選択した時、奴隷の女が不意に振り向く。

 

 初めてしっかりと見る彼女の顔は、種族の起源が同じルリムの童顔と比較すると大人びていた。

 だがすっきりとした切れ目の下には隈ができていて、翡翠色の瞳からは希望の光が消えている。

 

 そんな彼女の瞳が、縋るようにゆるキャラの方を見つめていた。

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