ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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148話:ゆるキャラと炎上

「ということはそのガーゴイルは遺跡仕様で有限なのか」

「いいや、ガーゴイル自体はこの迷宮に元からあるものだ。だから倒しても半日で勝手に復活する。遺跡の方を誰かが後から作ったんだろう」

 

 〈残響する凱歌の迷宮〉はこの場所に国が出来る以前から存在している。

 長い年月の中で神々が創造した迷宮そのもの以外にも、様々な生物や魔獣が生息し迷宮内で独自の生態系を築き上げていた。

 

 なので迷宮の構成物とそれ以外のものとの混在は、あらゆる箇所で見られる。

 この疑似太陽が照り付ける六階層に茂っている木々についても紛れなく本物の生木だ。

 

「遺跡が後付けなら、ガーゴイルは元々何を守っていたんだ?」

「さあな。そこまでのことは知らん。案外その辺に本物の迷宮が埋まってるかもな。ああ、そういえばガーゴイルの台座の裏に何か書いてあったな」

「えー何だろう」

 

 リーダーに対して溜飲が下がらない様子のフィンだったが、好奇心には負けて台座の方へ飛んでいく。

 ガーゴイルのいる台座、いない台座の両方の裏を見たあと、あれれと首を傾げた。

 

「ちょっとどこに書いてあるのよ。何も見当たらないけど」

 

『―――解放』

 

 決して油断はしていない。

 フィンの方へ視線を向けてはいたが、エゾモモンガの広い視野は常にリーダーを捉えている。

 

 だから呟くような詠唱に反応して、空中に何かが現れたのも見えていた。

 突然空中に現れる光景は非常に見慣れたもので、ゆるキャラが四次元頬袋から品物を取り出す時とそっくりだ。

 

 まず間違いなく四次元収納的な魔術だろう。

 事情聴取する都合、口を塞ぐわけにもいかなかったわけだが、詠唱がここまで短いのは想定外だ。

 

 とにかく現れた腕輪のようなものを取らせまいと、ゆるキャラは拾っていた幅広の剣を振るう。

 リーダーは両手両足を縛られ地面に転がされている状態から飛び上がり、腕輪と幅広の剣の間に割り込んだ。

 

 幅広の剣はリーダーの手元を通過。

 折角止血して元の方向に戻してやった右手首が切断されて宙を舞う。

 

 手首と一緒に両手を縛っていた縄が切れると、リーダーは自由になった左手で落下してきた腕輪を掴み、鮮血が噴き出している右手にはめた。

 

 抵抗するなら今すぐオーディリエの復讐を実行するしかない。

 そう思って追撃しようとしたゆるキャラだったが、腕輪に刻まれた()()()()()()()()が視界に入ると、思わずぎょっとして後ずさる。

 

「畜生舐めやがって!この腕輪は〈影の狩人〉から預かった魔術具で、強力な攻撃魔術が付与されているそうだ。これでてめえら全員ぶっ殺してやる!」

「いや、ちょっとまてそれは……」

 

 ゆるキャラの静止など聞くはずもなく、リーダーが腕輪に魔力を込め始めた。

 魔力に呼応した腕輪が淡く発光し、刻まれている茨模様が本物のように蠢きだす。

 そして映像を早回ししているかのように腕輪から茨が伸びて、リーダーの体に巻き付いていく。

 

「な、なんだこれは!」

 

 慌てふためくリーダーをよそに茨は成長を続け、すぐ後ろでまとめて縛り上げていた取り巻きたちにも茨が絡まり始めた。

 リーダーは足を縛られたままだったため、逃げることもできない。

 四人の姿が茨に完全に覆われたところで成長が止まった。

 

 次なる変化は炎を伴う。

 発生した茨が一気に燃え上がったのだ。

 中にいる男たちを巻き込んで。

 

 自身の体を焦がす激痛によって気絶していた取り巻きたちも目覚め、全員が絶叫、喉を震わせている。

 周囲への延焼を警戒したが、不思議な事に熱を全く感じない。

 だが対岸の火事のように、男たちだけは確実に焦がしていく。

 

 忍者男の時は死体が発火しただけだったが、この男たちは生きたまま焼かれている。

 オーディリエが暴露した悪行のことを考えれば自業自得だ。

 振り返らずともエゾモモンガの広い視野は、オーディリエの表情を伺うことができる。

 

 彼女は嗤いながら泣いていた。

 煤けた金髪も、翡翠色の瞳も炎を反射して紅くゆらめいている。

 

 復讐の意義については創作物の中でよく議論されるが、そんなものは当事者か否かで変わるだろう……というのがゆるキャラの持論だ。

 復讐は何も生まないとか、被害者は復讐を望んでいないとかは部外者だから言えることだろう。

 

 復讐を果たしたからといって被害者が生き返るわけではないのは当然だし、人生がマイナスからプラスはもちろん、ゼロに戻ることすら二度とない。

 それでもどん底のマイナスを多少マシなマイナスにするために、当事者が納得するために復讐は必要ではないだろうか。

 

 まあ今燃えている男たちに限っては同情の余地など無いのだが。

 ただ余罪や忍者男の情報についてはもう少し追求したかったな。

 

 一分しないうちに茨と男たちは燃え尽き、その場所には僅かな灰が残るだけとなる。

 その灰もオーディリエは進み出て踏みにじると、風に巻き上げられ消えて無くなった。

 

「亜人様。直接手を下すことは出来ませんでしたが、こいつらを死に至らしめてくださりありがとうございます。改めて感謝いたします。約束通り今後は貴方様の奴隷として尽くさせて頂きます」

 

 尽くすとは言っているが、オーディリエの瞳に宿る力は復讐前後でさして変わらない。

 むしろ生きる目的を失い余計に弱々しくなってしまったか。

 どん底のマイナスから多少マシになっていれば良いのだが……。

 

「うーん、とりあえず仲間たちと合流しようか」

「トウジ様」

 

 ゆるキャラがそう提案したタイミングで、ルリムとアナ、そしてシンクが森の中から現れた。

 

「あれ、助けた冒険者たちは?」

「治療して五階層の、巨石兵のフロアで休ませています。あそこなら暫く安全ですから」

 

 確かに半日程度は巨石兵が復活しないので、再び冒険者狩りにでも遭遇しない限り大丈夫か。

 それならばかくかくしかじかと、オーディリエの追跡を始めてからの経緯をルリムたちに説明するゆるキャラであった。

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