ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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152話:ゆるキャラと故郷の思い出

 広い洞窟の奥には細い通路と複数の小部屋があった。

 内部はどれもがらんどうで、金目のものは一切無い。

 新雪のように堆積した埃に足跡といった痕跡もないので、長い年月の間誰も侵入していないのだろう。

 

 唯一気になることといえば、突き当りの部屋にある祭壇のようなものだろうか。

 石造りの壁を彫りこんで、捧げ物ができそうな台座があった。

 こんな迷宮の奥底に、後付けで遺跡を造り祭るものとは……邪教かな?

 

「よし、これ以上は何もないし撤収するか。色々あったから冒険者ギルドに報告しないと。オーディリエさんの今後についても要相談だなあ」

「私は既に貴方様の物です。必要なければ、売るなり捨てるなり如何様にして頂いても構いません」

 

「いやいや、そうじゃなくてね。そもそも所有してないしな」

「オーディリエさんはとっくにトウジ様の所有物ですよ。元の持ち主の冒険者が死んでいますから」

 

 はい出ました異世界特有の奴隷システム。

 奴隷の持ち主が何らかの理由で死んだ場合、所有権は個人から奴隷登録した国へ移るそうだ。

 持ち主が死んだから奴隷から解放される、なんて甘い話はなかった。

 

「ならオーディリエさんは帝国所有の奴隷になるんじゃないのか?」

「ところが罪を犯した冒険者が絡むと話が変わってきます。〈幻突〉たちは冒険者狩りを行なっていた罪人で、彼らの所有物はすべて討伐した者の物になるんです」

 

 というわけでルリム曰く、とっくにオーディリエはとっくにゆるキャラの所有物なんだそうだ。

 ぐぬぬ、ならばそのまま奴隷として所有し続けるかを後程相談させて頂こう。

 

「罪人といえば、オーディリエさんも冒険者狩りに加担しちゃってるけど」

「あくまで所有者からの命令ですから、罪に問われることはありません。奴隷は道具です。殺人に使われた剣が罰せられないのと同じですね」

 

「無理強いさせられた挙句罪に問われなくて良かったけど、道具扱いってのが引っ掛かるなあ」

「トウジ様は優しいですね」

 

 優しいというよりは人権が無いことへの違和感なのだが、文化の違いと割り切るしかないだろう。

 ゆるキャラ以外は当たり前と受け取っている。

 一部のキッズ、具体的に言うと長女と次女は単に何も考えていないだけっぽいが。

 

 闇蜘蛛が巣食っていた広い空間まで戻ってくると、オーディリエが何かを探すように辺りを見回している。

 

「何か気になるのか?」

「いえ……」

 

 そう言いつつもオーディリエは視線を彷徨わせ続けている。

 もしかして他にも闇蜘蛛がいるのか?と気配を探したが何も感じ取れなかった。

 

 疑問に思いつつも天井に突き刺さったままの、《持続光》がかかった両手剣を回収する。

 地面を蹴って飛び上がる……だけでは足りなかったので、オジロワシの翼を必死に羽ばたかせてなんとか天井に到達。

 

 両手剣を引き抜き光輝くゆるキャラが自由落下を始めると、視界の端で何かがきらりと光った。

 

「ん?」

 

 気になったので光った場所まで滑空して接近。

 光ったと思われる辺りを張り巡らされている闇蜘蛛の糸ごと両手剣で斬り飛ばす。

 

 ゆるキャラと一緒に落下したそれは、シンプルで小振りなペンダントだった。

 光源である両手剣が移動したことによって偶然光が当たり反射したようだ。

 

「!?それは!」

 

 オーディリエが慌てて駆け寄ってきてペンダントを拾うと、絡みつく蜘蛛の糸を払いのける。

 そして恐る恐るペンダントのロケットを開けると、そこには小枝のようなものが入っていた。

 

 中身を確認したオーディリエは俯き、肩を震わせながら嗚咽を漏らす。

 止めどなく溢れる涙が、両手で掬うようにして持っているペンダントを濡らしていた。

 

「もしかしてそれって」

「はい……娘の、ティエラの形見です」

 

「言ってくれれば一緒に探したのに」

「いいえ、先程から探していましたが見つけられなかったので、もう何も残っていないだろうと半分諦めていたのです」

 

 そんなところにティエラの形見があるということは……つまり()()()()()()だ。

 

 〈幻突〉及び〈影の狩人〉どもはどれだけ罪深いのだろう。

 地獄すら生ぬるいとはこのことだ。

 もし黒幕まで辿り着くことができたなら、完膚なきまでに壊滅させることをここに誓おう。

 

「この小枝は〈鉱石樹〉といって、私と娘の故郷に生えている木です。名前の通り鉱石と樹木、両方の性質を持っています。子どもが生まれた年に〈鉱石樹〉の苗を植えて、成人する年にその〈鉱石樹〉の枝の一部をもぎ取り身に着けるという風習があるのです。故郷は人族に焼かれてもうありませんが」

 

「また人族かよ……」

 

「ペンダントも〈鉱石樹〉も値打ちものではありませんので、あいつらに奪われずに済んだのでしょう。もしくは飲み込んで隠したのかもしれません」

 

 洞窟内にはこのペンダント以外にも、衣類の切れ端のようなものが落ちていた。

 人骨の類は一切見当たらなかったので、被害者たちの肉体はすべて闇蜘蛛が消化してしまったのだろうか。

 

 蜘蛛ってそんな強力な消化液を持っていたっけ?

 シンクが闇蜘蛛の脚先の外骨格を潰すと体液が流れ出てきていたし、地球上の蜘蛛と同列には扱えないか。

 

「貴方様のおかげで娘の形見も見つけることができました。これで本当に思い残すことはありません。残りの生涯を貴方様に捧げます」

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