ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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156話:ゆるキャラと猫竜と地域性

 竜の咆哮(ロア)のこうかはばつぐんだ。

 腐肉攫いどもは大恐慌に陥り、暗褐色の毛を逆立てながら散り散りに逃げていく。

 

 逃げたのは猿どもだけでない。

 周囲の他の魔獣や虫なども、シンクという竜の存在に恐れをなして逃亡。

 ゆるキャラたち以外の生物が一切居なくなり、森に不気味な静寂が訪れていた。

 

「「あわわわわわわわわわ」」

 

 初めてシンクの竜の姿を見たルリムとアナは、互いに抱きしめ合い震えている。

 褐色の肌の上からでも分かるくらいに青ざめていた。

 シンクが竜族だと頭では理解していても、いざ実物を見ると恐怖が勝ってしまったようだ。

 

 オーディリエは魔力枯渇による朦朧のせいで反応が鈍い。

 ただ顔色は闇森人の比じゃなく青ざめていて……というか真っ白だ。

 朦朧としていなかったなら、今にもこの場から逃げ出していたかもしれない。

 

 当のシンクは久しぶりに竜の姿に戻ったからか、両手両足をぴんと伸ばしたり、後足で顔を掻いたり、翼を広げてみたりとのびのびした様子だ。

 なんというか、仕草が全体的に猫っぽい。

 

 フィンは竜の姿にも慣れたもので、深紅の鱗をぺたぺた触ったり、ゆっくり羽ばたいた翼の風圧に巻かれてみたりと遊んでいる。

 

「なかなか元の姿に戻る機会がなくてすまないな」

「Gruuuuuuuuuuuuun(だいじょうぶ。ずっと《人化》してるのにもだいぶ慣れたから)」

 

「えー何々?なんて言ったの?」

「ああそうか、《意思伝達》がないと分からないのか」

 

 ゆるキャラの耳にはシンクの勇ましい竜の咆哮と幼女の声の両方が聞こえているが、後者が聞こえているのは《意思伝達》という魔術のおかげだ。

 フィンに毎朝かけてもらっている《意思伝達》により、ゆるキャラが受け取る言葉は日本語に自動翻訳され、逆に発する日本語は聞き手の理解できる言語に変換される。

 

 洋画の吹き替えみたいなもので、相手の口の動きと音が合っていない状態だ。

 竜の咆哮も自動翻訳されるのだが、咆哮には魔力が含まれているため《意思伝達》の効果を阻害。

 その結果吹き替えにならず、二重音声のように咆哮と幼女の声が同時に聞こえていたのだ。

 

「Gyaoooooooown(ちょっとだけ飛んでもいい?)」

「咆哮のおかげで周りに誰もいないし、この辺を少しならいいぞ」

「あっ、聞こえた聞こえた!飛ぶなら私も連れてって」

 

 自身に《意思伝達》をかけたフィンが会話に割り込み、シンクの背中へ飛んでいく。

 そして背中に生えている竜の棘を操縦桿のように握りしめた。

 

「Guruuuuuuuuuuu (それじゃあしゅっぱーつ)」

 

 シンクが深紅の翼を広げるとその巨体がふわりと浮かび上がり、ひと羽ばたきで十数メートル上空へ一気に上昇する。

 きゃっきゃとフィンの絶叫マシンを楽しむような声音を残して、深紅の竜は飛び去って行った。

 

 しまった、シンクとちゃんと「この辺」の定義を決めておくべきだったな。

 あっという間に見えなくなったシンクとフィンの姿を見送って、ゆるキャラは後悔するのであった。

 

 

 

 

「シンク様は竜族で普段は《人化》しているとわかっていたつもりでしたが、あそこまでの迫力だとは思いませんでした」

 

 暖かい紅茶をすすりながら、ルリムがしみじみと呟いた。

 その横ではアナとオーディリエが無言でこくこくと頷いている。

 

 シンクとフィンが戻ってくるまでの間、少なからず衝撃を受けた森人(エルフ)たちを慮って小休止を取ることにした。

 四次元頬袋からレジャーシートや湯沸かしセット、〈ハスカップティー(ティーパック十個入り)〉などを取り出して設置。

 

 まだシンクの咆哮の影響も残っていて周りは平和なので、気分はピクニックである。

 ただし、すっかりわからされてしまった森人三人のテンションは低い。

 

「あまり怖がらないでやってくれよ。シンクが傷ついちゃうからな」

「大丈夫です。さっきので慣れたので、戻ってきたらあの綺麗な鱗をなでてみたいです。アナもそうよね?」

 

「う、うん。僕もフィン様みたいにシンク様の背中に乗ってみたい……かな」

「いい加減、様付け無しにも慣れて欲しいんだけどな」

 

 闇森人(ダークエルフ)の母子は大分緊張が和らいできたが、オーディリエの表情は堅いままだ。

 手にしたハスカップティー入りのコップをぼんやり見つめている。

 まだ〈トレイルホライゾン〉の一員になって二日目だから仕方がないか。

 

 〈幻突〉たちの一件が片付き、ゆるキャラたちは〈残響する凱歌の迷宮〉六階層の探索を再開。

 新戦力であるオーディリエの戦力チェックを兼ねて腐肉攫いと交戦したのであった。

 射手としての凄腕を遺憾なく発揮してくれたのではなかろうか。

 

「なあオーディリエ。あの猿って腐肉攫いでいいんだよな?」

「はい。腐肉攫いは単独だと臆病な魔獣ですが、群れを成すと増長して凶暴化します。どのくらい凶暴かは御覧頂いた通りとなります」

 

 赤信号みんなで渡れば怖くない、を地で行くような奴らだな。

 その結果は大惨事なので良い子のみんなは絶対に真似しないように。

 

「リージスの樹海にも腐肉攫いがいたんだが、そこの奴らは群れてても自ら攻撃はしてこなかったんだが」

 

「恐らくですが同じ魔獣でも生息域に合わせて、習性も変わるのではないでしょうか。リージスの樹海といえば強力な魔獣が跋扈し、その頂点にはシンク様のような竜族が君臨しているような場所です。そこでは腐肉攫いが臆病で慎重になるのも頷けるかと」

 

「あー、確かにこの六階層のノリで腐肉攫いが樹海で暴れていたら、あっという間に絶滅しそうだ。環境に合わせて生き方を変えるとは、なかなか賢いじゃないか」

 

 魔獣の性質にも地域性があるということか。

 地域性でふと思い出す。

 

 ゆるキャラの中の人は若い頃、地元の胡蘭市のゲームセンターに通っていた。

 お目当てはロボットを操作して対戦する某ゲームで、新品の乗用車が一台買えるほどの金額を突っ込むくらい入れ込んでいたのだ。

 

 そのゲームは北海道の大きい都市(と言っても三都市くらいだが)のゲームセンターに設置されていて、都市毎にゲームの上手い地元の常連たちがホームグラウンドにしていた。

 そして都市単位でチームを組んで、他の都市に遠征に行くこともあった。

 

 ちょっとしたマイナースポーツみたいなノリだろうか。

 面白かったのが都市毎にロボットでの戦い方に差異があって、特に異彩を放っていたのが我らが胡蘭市勢だ。

 

 他の都市の連中は回避重視で、遠距離から射撃攻撃で対戦相手を削るような戦い方が主流だった。

 それに対して胡蘭市勢は隙あらば近付いて、近接攻撃を当てようとする武闘派が多かった。

 

 近接攻撃は射撃攻撃より威力はあるが敵に近づく必要があるし、そもそも当てにくい。

 ちまちま射撃で削るより、近接で伸るか反るかの大勝負をけしかけたい、というのが胡蘭市勢の地域性だったのだ。

 

 胡蘭市は地方都市で他の都市よりも競技人口も少なく、常連の数も少ない。

 よって同じ相手との対戦が増え相手の癖も分かるようになり、隙を狙っての大技を駆使する戦闘スタイルが増えたのではなかろうか、というのがゆるキャラの中の人の考察である。

 

 自身は胡蘭市勢の中でも弱い方だったが友人は真の猛者で、相手の攻撃後の硬直を射撃ではなくあえてダッシュ近接で……いかん、どうでもいい回想が長くなった。

 閑話休題としよう。

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