ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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158話:ゆるキャラと蝙蝠竜

 真紅の竜はゆるキャラたちの頭上まで飛んでくると《人化》を発動。

 閃光と共に赤いワンピース姿の幼女が現れた。

 

 その幼女ことシンクが、真っ直ぐゆるキャラに向かって落ちてくるので抱きとめる。

 彼女は素早く腕の中から飛び降りて背中に張り付いた。

 最近はすっかり人馴れしたため御無沙汰だった、人見知りモードの動きだ。

 

 ゆるキャラの灰褐色の毛皮に埋もれるくらいぴったりと抱き付いているので、子ども特有の高めの体温が懐炉のようで心地よい。

 などと久しぶりの感覚にほっこりしている場合ではないか。

 

「おいフィン、これは一体どういうことだ?」

「ちょっと聞いてよトージ。あのね―――」

 

 空からゆっくり降りてきたフィンが喋ろうとした時、シンクを追跡してきた漆黒の竜が上空に到着する。

 そいつはシンクに似て細身の飛竜タイプのフォルムをしているが、細かい造形は蝙蝠に似ていた。

 羽ばたいている翼も蝙蝠のような薄い皮膜状だし、全体的に骨ばっていて装甲が薄そうだ。

 

 そしてやっぱり蝙蝠っぽい(あくまでイメージだが)、甲高い咆哮が周囲に響き渡った。

 

「Kyowaaaaaaaaaaaaaaa!(待っておくれよ愛しのマイハニー)」

 

 頭の芯に響くような金切り咆哮に、思わずエゾモモンガの鼻に皺を寄せつつ耳を両手で塞ぐ。

 森人系の三人は新たに登場した竜の咆哮に圧倒され、金縛りにあったかのように硬直している。

 青ざめた顔で見上げるばかりだったが、そのうちの一人が慄きつつも呟いた。

 

「ま、まさかあれは……」

 

 知っているのかオーディリエ。

 

「この六層の森は広大で、端に辿り着いた者は誰一人としていません。過去に端を目指した冒険者もいましたが、〈端の番人〉と呼ばれる黒い竜に遭遇して全滅した、という噂話を聞いたことがあります」

 

 端で何の番人してるのかとか、全滅してるのに誰が噂として広げたのかとか、突っ込みどころが多いな。

 あとこの辺をちょっと飛んでいいぞと言ったのに、端まで行ってしまったのかシンクよ。

 

「Kyoweeeeeeeeeeeeeee!(隠れないで出ておいでよ。君と僕でこの限りあるも美しい青空をランデブーしようじゃないか)」

「なあフィン。あいつさっきから何か変なこと言ってないか?」

 

 《意思伝達》のおかげでゆるキャラとフィンは蝙蝠竜の咆哮の意味が読み取れている。

 もしルリムたちにもへんてこな意味が伝わっていれば、ここまで怯えていなかったかもしれない。

 

「そう、そーなのよ!空を飛んでたら下に村みたいなのが見えたから、近付いてみたらあいつが出てきたの。そしてシンクに番いになろうとか卵を産んでくれとか、しつこく言ってくるのよ」

 

「………あ”?」

 

 ゆるキャラから漏れ出た怒気に、背後の森人系の三人がびくりと肩を震わせた気配が伝わってくる。

 正面にいるフィンに至っては「ぴゃっ」と変な声を出して半泣きになっていた。

 

 いかんいかん、〈コラン君〉が怖がられてはいけない。

 怖い系のゆるキャラも中にはいるが(ホッキ貝のあの方とか)、〈コラン君〉は違うのだよ。

 深く息を吐いて心を落ち着かせてからシンクに訊ねる。

 

「本当にそんなことを言われたのか?」

「……うん。あいつ気色悪くてきらい」

 

 そう言って更にぎゅっと抱き付くシンクのなんと痛ましいことか。

 折角人見知りしなくなったのに、ぶり返したらどうしてくれるんだ。

 

「おい、年端もいかない女の子に変なこと言うなよ」

「Kyauuuuuuuuuuuuuuun!(亜人風情が僕とハニーの逢瀬に口を挟まないでくれるかい。てか僕の言葉が理解できるのか君は)」

 

 蝙蝠竜は目の前の開けた場所にふわりと着地する。

 細身とはいえ五メートルはある巨大質量なのだが、それを感じさせない軽やかな動きだ。

 長い首をもたげ、赤い眼でゆるキャラを睥睨してくる。

 

「俺はこの子の保護者みたいなものだ」

「Kyueeeeeeeeeeeeeeee!(ハニーは君より遥かに強い存在なのに、保護者面とは笑えるね。いや、その方が都合が良いか……)」

 

 咆哮より《意思伝達》の翻訳の方がどんどん長くなり、後半は優男風の声だけ聞こえてきた。

 咆哮と人語なら後者の方が長くなるのか。

 連続で咆えられたら人語が渋滞して重なりそうだな。

 

「Kyoreeeeeeeeeeeeeeee!(保護者と言うのなら、君から許可を得ようじゃないか。娘さんをください、お義父さんってね)」

 

 気持ち悪い咆哮と気色悪い翻訳を撒き散らすと、視界に収めていた蝙蝠竜の姿がブレる。

 それは空気の流れを一切感じさせない、前脚による無音の斬撃だった。

 

 ゆるキャラの鳥足に生えているそれに似た、漆黒の三本爪が眼前に迫る。

 体格差からして直撃したならば、首と胴と足でバラバラにされるであろう一撃を、シンクを庇って背後に押しやりながら飛んで躱した。

 

 足元を通過する横薙ぎの斬撃をゆるキャラの鳥足で蹴りつけると、黒曜石のように輝く爪が蝙蝠竜の前脚に食い込んだ。

 それは痛痒を与える程のものではなかったが、ゆるキャラの体を前脚に固定させ強制的に追従した。

 強烈な横への重力が体に襲い掛かるが堪える。

 

 真横に振るうった前脚の終点がどこかといえば、蝙蝠竜の顔面付近だ。

 前脚を振り抜いた手首のスナップに合わせて、食い込ませた爪を抜いて前脚から飛び立つ。

 

 さながらカタパルトから射出された戦闘機だ。

 ゆるキャラの体は真っすぐ蝙蝠竜の顔面に飛んでいき、尖った下顎を握った拳で思い切り殴りつけた。

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