グレムリンの長老は歓迎してくれるそうだが、体格的に大人は隠れ里に入れないので、今いる場所で寛がせてもらう。
見た目はゴブリンなグレムリンだが主食は果物だそうで、森で取れた様々な果物を振る舞ってくれた。
こちらもレジャーシートを広げつつ、本日二度目のピクニックと洒落込む。
「白竜様たちは迷宮探索中にこの隠れ里を見つけたのですじゃ」
ニール先輩たちもゆるキャラたちの遭遇の仕方と大体同じで、上空を飛んでいるハクアに発情した蝙蝠竜が突っ込んできた模様。
まあシンクを含めて生涯で二度しか繁殖可能な異性に出会っていないのなら、色々暴走するのも仕方ないのかもしれない。
「迷宮に入った目的は何か言ってなかったか?」
「〈創造神〉を探しに来た。と入っておりましたのじゃ」
「〈創造神〉がこの迷宮にいるのか?」
ゆるキャラの質問にはグレムリンの長老、蝙蝠竜、そして〈トレイルホライゾン〉のメンバー全員が首を傾げた。
シンクに抱きかかえられたままの、ダービーんとこのせがれ君も釣られて首を傾げている。
くっ可愛いじゃないか、ゆるキャラの次にだがな。
「〈残響する凱歌の迷宮〉は未攻略の迷宮ですが、攻略済みの他の迷宮を含めても神がいると聞いたことはありません」
「仮にそれが真実だとして、世界を作った〈創造神〉がこの迷宮だけに居るものかね?ここって特別な迷宮だったりする?」
「最大規模の迷宮ですが、特別というほどではないですねえ」
冒険者事情に明るいオーディリエとルリムも知らないようだし、戻ったら冒険者ギルドの支部長あたりに聞いてみようか。
迷宮の創造に神が関与しているのは間違いないし、色々と優秀なニール先輩のことなので見当違いというのも考えにくい。
「もっと迷宮の奥に行ったら、姉さんの手がかりがあるかもしれない」
「深層は誰も行ったことないんでしょ?そこに神様がいるんだったら会うのが楽しみね」
直接的な手掛かりではないものの、姉の痕跡を見つけてシンクが俄然やる気を出していた。
フィンも〈創造神〉に会えるかもしれないと聞いて好奇心を刺激されたのか、せがれ君の頭を撫でる手に力がこもる。
首の座らない赤ちゃんみたいに、頭がかっくんかっくんしてるからおやめなさい。
「恩があるというのは?」
「わしらが管理している氷室に魔獣が住み着いてしまったのだが、それを退治してれくれたのじゃよ」
「Kyowaaaaaaaaaaaa (僕の体じゃ氷室に入れないから、本当に助かったよ)」
氷室というのは隠れ里のはずれにある貯蔵庫で、《冷風》が付与された魔石を配置して冷蔵庫として使っているそうだ。
振る舞ってくれた果物類が冷えていて美味しかったのは、氷室のおかげだった。
もちろん《冷風》が付与された魔石というのは、グレムリン謹製の魔術具である。
人種の世界にも冷蔵庫の機能を果たす魔術具は存在するが、使っているのは貴族で平民には出回っていない。
酒場などでたまに提供される冷えた酒は、近くの川の流水に晒して冷ましたり、その都度魔術を使っていたりと手間がかかっている。
闇の眷属のグレムリンのほうがよっぽど文化的な生活をしていそうだな。
氷室はそこそこ大きいので(蝙蝠竜は流石に無理だが)案内してくれるという。
それは森林の地面に突如ぽっかりと空いた穴だった。
岩肌に囲まれた急勾配のトンネルが数メートル続いた先に、木製の扉が取り付けてある。
その扉を開けた先の光景には驚いた。
簡単に説明するなら、コンクリートの打ちっぱなしの地下室だ。
岩肌と同じ質感の壁や床、天井で囲まれているのだが、現代建築のように水平垂直が保たれている。
壁際には木製の棚が並び、先程頂いた果物や封をした瓶などが乗せてあった。
天井付近には拳くらいの大きさの青い魔石が数個取り付けられていて、これが例の《冷風》が付与された魔術具だろう。
その近くに採光及び換気用の穴が空いているが、気温は冷蔵庫に匹敵するくらいの涼しさを維持していた。
魔術具といえば帝都で出会ったブライト伯爵家の師匠と弟子を思い出す。
彼らの作る魔術具と比較してグレムリン産のそれは優れているのだろうか?
魔術具に詳しくないゆるキャラには分からない。
「この壁や天井は《土変化》で掘ったのか?」
「その通りですじゃ。そして奥にもう一つの出入口がある。そこに冷暗所を好む
迷宮蚯蚓とは直径一メートルを裕に越える巨大な蚯蚓(みみず)の魔獣だ。
巨大蚯蚓とか想像するだけでおぞましいので、出来れば一生お目にかかりたくはないな。
地下に生息する迷宮蚯蚓が掘り進んだトンネルが、この氷室に繋がってしまった。
グレムリンのサイズ程度なら迷宮蚯蚓は余裕で丸呑みにするため、氷室に近付くことすらままならないところをニール先輩たちが退治してくれたそうだ。
「退治した後は別の迷宮蚯蚓がやってこないようにと、ニール様が穴を埋め固めてくれたのじゃ」
「じいじ、おなかすいた~」
不意にシンクに抱きかかえられたまま、ぬいぐるみのようにじっとしていたせがれ君が声を上げた。
当初は緊張で硬直していた様子を見せていたが、次第に慣れてきたのだろう。
人見知りモードを発動したシンクに似ている。
「ちょっと待っておれ、お客様との話が終わったらスカプの実をやるからのう」
「腹が減ったのか。どれどれ、おじさんがいいものをあげよう」
四次元頬袋から包装を解いた〈コラン君饅頭〉を一個取り出し、せがれ君に手渡してやる。
彼はぺちゃっと潰れている鼻を饅頭に近付けて、くんくんと匂いを嗅いでから齧りつく。
その表情はすぐに喜色に包まれた。
「あま~い!おいしい~。ありがとうおじちゃん!」
そうだろう、そうだろう。
おじちゃん呼ばわりは地味に堪えるが、それなら冗談でも自称するなよという話だ。
微笑ましい光景に相好を崩していると、周囲の反応が異なることに気が付いた。
誰もがゆるキャラを見て驚きの表情を浮かべている。
「え、何。子どもに饅頭は何かまずかったか?……毒になるとか?」
乳児に蜂蜜、犬にチョコレートはNGみたいなことだろうか。
それなら饅頭を取り上げないと、と思ったが違うようだ。
「トウジ様、今の言葉が分かったのですか?」
「そりゃあ分かったけど。だって《意思伝達》があるからな」
ゆるキャラの言葉にルリムが横に首を振る。
「トウジ様、それはおかしいです。今その子と長老が話したのは大陸語ではなく、闇の眷属グレムリンの言語でした。そして闇の眷属の言語に《意思伝達》は適用されないのです」
ん?つまりゆるキャラは聞き取れないはずの闇の眷属の言語を理解したってコト?