ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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179話:ゆるキャラと月光

 ゆるキャラの魔力を吸って隕鉄で造られた大剣(バスターソード)が淡く発光し始めた。

 その青白い光はどこか神聖な雰囲気を醸し出している。

 

『あら、大技を繰り出すのかしら』

「ああそうだ。溜めに三分くらいかかるから休憩にしてもいいぞって、なんで激しくなるんだ」

 

 右の貫手を体を傾けてやり過ごすと、間髪入れず左足が蹴り上げられる。

 仰け反って躱すとゆるキャラの眼前を石膏像のような白い生足が通過した。

 

 そしてその足がすぐさま折り返してくる。

 踵落としを後ろに下がって避けると、地面に突き刺さった足が石畳の破片を礫のように周囲に撒き散らす。

 

 その向こうで白霧夜叉のローブの裾がふわりと舞う。

 見たことのある挙動に危機感を覚えて咄嗟に腕を持ち上げると、大剣の腹を後ろまわし蹴りが打ち据える。

 

 大剣を足蹴にした白霧夜叉は地面に着地せずその位置から飛び上がり、今度はゆるキャラの後頭部を切り裂くように蹴りを繰り出してきた。

 いわゆる延髄蹴りを前方に転がって躱し、振り向き様にまだ空中にいる白霧夜叉へ大剣を振るう。

 

 大剣を白霧夜叉は左の手の平で受け止めた。

 硬いものを斬りつけたような感触で手応えは無かったが、衝撃により白霧夜叉の体を弾き飛ばすことに成功。

 十メートルほど離れた位置に、空中で華麗に一回転してから動く石膏像は着地した。

 

『だって階層の守護が私の仕事だもの』

「勝ち負けにはこだわってないように見えたぞ?手を抜いてくれると助かるんだが」

 

 大剣により薄く切り込みの入った手の平を、ひらひらと振りながら白霧夜叉がのたまった。

 ゆるキャラ以外を狙わないように配慮してくれてるんだし、もう少し忖度してくれると助かるのだが。

 

『だめよ。あんた以外狙わないと約束した以外はまじめにやるわ。私から仕事を取ったら何も残らないもの。私は仕事に生きるのよ。男神にも恵まれない私から仕事まで取る気?許せないいいいいい!』

 

 おおう、また突然キレ出した。

 沸点が低いというか何がNGワードか分からないというか、鬼の面の下も似た表情になっているに違いない。

 

 まあ他者を狙わないと約束してくれただけありがたいと思っておこう。

 ターゲットが他に移らなければ時間稼ぎだけならやりようはある。

 

『あ、こら待ちなさい』

 

 というわけで、ゆるキャラは大剣を肩に担いで逃げ出した。

 ……と言っても皆を置いてここから離れるのはさすがにまずいので、この開けている空間の外周に沿って走り出す。

 俗に言う(かどうかは知らないが)外周ダッシュである。

 

 限られた空間で効率よく逃げに徹する手段の一つで、ゆるキャラの中の人がやり込んでいた某ロボット対戦ゲームでも常套手段であった。

 懐かしいな、対戦相手に一発攻撃を当てて後は制限時間までひたすら逃げるという、何が楽しいのか分からない勝ち方。

 いや、当時は楽しかったのだろう。

 

『待ちなさいっての!』

 

 待てと言われて待つやつが云々。

 ゆるキャラが一度も立ち止まらないので、追いついても単発の攻撃しか出来ない白霧夜叉。

 

 それを屈んだり飛んだりして躱しつつ、ひたすら時間を稼ぐ。

 白霧夜叉が回り込もうとすれば、切り返して反対方向に外周ダッシュを再開するだけだ。

 

『きいいいいいいいいいいいいいい!』

 

 めっちゃキレてて怖いが好都合だ。

 冷静さを失えば失うほど攻撃は単調になり躱しやすくなる。

 

 九十秒ほど鬼ごっこをしていると、大剣が直視するのが辛いくらいの輝きを放つ。

 大量の魔力を吸われたがそれでもまだ充填量は六割程度といったところか。

 ちょっと試し切りしてみよう。

 

『ちょっ』

 

 ゆるキャラが急に踵を返して大剣を横に薙いだため、むきになって追いかけてきていた白霧夜叉は目に見えて驚いていた。

 それでも対応して左手を差し込んできたが、何の抵抗もなく大剣は白霧夜叉の手首を切り飛ばす。

 熱したナイフでバターを切るように容易いというやつで……あれって実際試したことないけど本当なのだろうかね。

 

『なっ』

 

 驚愕の呻き声を上げて、白霧夜叉が大剣の間合いから逃げようと後方に飛び退く。

 あ、これってチャンスなのでは?

 試し切りのつもりだったが、切れ味も確認できたしここで一気に決めてしまおう。

 

「はあっ!」

 

 返す刃で大剣を再び横に薙ぐ。

 間合いの外で何してるんだと白霧夜叉は思っているかもしれないが甘い。

 この大剣の斬撃は飛ぶのだ。

 

 大剣を纏っていた青白い輝きが、光の刃となって撃ち出される。

 飛び退いた直後でまだ空中にいる白霧夜叉に避ける術はなく、キンという乾いた音と共に横一文字の光刃が胴体を通過した。

 

『なにそれ……聞いてない』

 

 命を懸けた勝負なのだから、そりゃあ言うわけがない。

 文句のような捨て台詞を残して、腰の部分で両断された白霧夜叉の上半身がずるりと地面に落ちる。

 そしてその全身があっという間に白い霧へと戻っていった。

 

「ふう疲れた」

 

 散々走り回ったので疲れてその場にへたり込むと、観戦していたギャラリーが興奮した様子で群がってきた。

 そのうちの幾人かがタックルするように抱き付き、撫でまわしてきてきてもみくちゃにされる。

 

「何今のすごい!」

「おっそろしい切れ味だな」

 

「相当な魔力を籠めていたみたいですが、あれで全力ですか?」

「ん、すごい……すごい!」

 

「いやー、一時はどうなることかと思ったよお」

「リリエルめはトウジ様のことを信じていましたとも」

 

「ちょっとトージ、もっかいやって!」

「いや、連発は無理なんだ。熱暴走を起こしちゃうから」

 

 ちらりと地面に転がした大剣に目をやれば、輝きを失った刀身は真っ赤に発熱している。

 生卵を落とせば目玉焼きができそうだ。

 

『ふうん、連発できないなら躱せばいいわけね』

「まあ躱されないように予防線を引いて……ってなんでまだいるんだ!」

 

 思わずノリツッコミみたいになってしまう。

 ゆるキャラが見上げると、そこには倒したはずの白霧夜叉がふわふわと浮かんでいた。

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