ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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180話:ゆるキャラと先輩(三回目)

『なんでいるって、この階層に漂う霧すべてが私なんだから。どこにでもいるに決まってるじゃない』

 

 倒したはずの白霧夜叉がゆるキャラの頭上に浮かんでいる。

 まるで水中を漂うかのように、長い髪の毛やローブの裾をゆらゆらと揺らしていた。

 随分と高い位置にいるのかその体は随分と小さく見える。

 

「いや縮んだのか。また随分と小さくなったな」

『戦闘体以外だと更に色々と制限があるのよ』

 

 遠くにいるのではなく、白霧夜叉は小さくなって目の前に浮かんでいたのだった。

 鬼の面は付けておらず、腕を胸の前で組みながら不機嫌そうに頬を膨らませている。

 相変わらず石膏でできた美術品のように美しいが顔は妙齢の女性であり、頬を膨らませるという行為はなんというかこう、ぶりっこ……。

 

『そうやってすぐ失礼なことを考えるっ』

 

 先の戦闘を思い出させる鋭い貫手を放ってくるが、どうやら実体が無いようだ。

 ゆるキャラの腹に当たった白霧夜叉の手は霧散し、そのあとすぐに元通りになっていた。

 

「で、俺に何か用か?」

『あんた一体何者?どうして私の言葉がわかるのよ』

 

「そりゃあ《意思伝達》があるからで、って今回も他の面子は聞き取れないんだっけか」

 

 闇の眷属であるグレムリンと時と同じで、《意思伝達》の魔術を通して白霧夜叉の言葉を理解できるのはゆるキャラだけだった。

 小柱の神である〈寛容と曖昧の女神〉もアトルランの住人たちも創造神に造られた存在のはずなのに、規格が違うというのも変な話だ。

 

 うーむ、ゆるキャラが闇の眷属と神々両方の規格と合うと言うよりは……白霧夜叉がすっごい睨んでくるからこの考察は控えておくか。

 フレックに席を外してもらうようお願いすると渋々応じてくれたので、白霧夜叉にゆるキャラ爆誕の経緯を簡潔に説明する。

 

『あー、レン姉さんの案件か。あんたが神気を纏っているのはそのせいなのね。それなら私が関わらないほうが、いや関わっとかいないとまずいことに……』

 

 何故か遠い目をしてぶつぶつと不穏なことを言い出す白霧夜叉。

 冷静になって考えると、神々に関する貴重な情報源なのでまたとない機会だ。

 

「レン?〈混沌の女神〉のことを知ってるなら色々教えて欲しいんだが」

 

『レンは〈混沌の女神〉の名前よ。正しくはローレンカレル。自分の親の名前くらい覚えておきなさい。ちなみに私はマージェルオタナ。これは神の真名だから口に出しては駄目よ。他人に教えるなんてもってのほかなんだから』

 

「じゃあ普段はなんて呼べばいいんだ?夜叉でいいか?」

『なんで鬼の部分を抜粋するのよ!』

 

「じゃあ〈名前を言ってはいけないあの人〉で」

『長いわよ!てか固有名詞ですらないじゃない!……夜叉って言葉の響きは嫌いじゃないから、少し変えてサシャにしておきますか』

 

 小気味よくツッコミを返してくるものだからつい調子に乗ってしまう。

 猫こと〈混沌の女神〉もそうだが、こちらの世界の神は神々しくないというか威厳を感じないというか、さして敬う気持ちにもなれないゆるキャラであった。

 いやまあ地球の神にも会ったことはないのだが。

 

 そしてゆるキャラ以外には〈寛容と曖昧の女神〉こと白霧夜叉改めサシャの言葉は理解できていなかったのを失念していた。

 小さくなったとはいえ神様と思われる存在が謎の言語で怒鳴り散らしている(ように見える)から、皆不安そうにこちらの様子を伺っている。

 

「あー、こちら〈寛容と曖昧の女神〉の残滓ことサシャさんだ。彼女は別に怒ってないから気にしなくていいぞ」

『あんたに対しては結構怒ってるけどね』

 

「それで情報はくれるのか?」

『そうねえ。教えても良い情報もあれば教えられない情報もあるわ。そもそも私は〈寛容と曖昧の女神〉のごく限られた一部分で蓄積している知識も少ないから、あんたが必要としている情報を持っているかしらねえ』

 

「あっそう。ならいいや」

『ちょっとあっさり引き下がらないでよ!まともに会話できる相手が初めてだから、ちょっと駆け引きを楽しんだだけじゃないの』

 

 サシャがフィンのようにゆるキャラの頭上を抗議して飛び回る。

 うーん面倒くさい。

 

 面倒くさいがさらっと悲しいことを言っていたな。

 この迷宮に閉じ込められて初めての会話ということは、下手したら千年近い年月を孤独に過ごしていたのだろうか。

 

『ああ別に寂しかったわけじゃないわよ。言葉は通じないけどそれなりの頻度で挑戦者は来るし、私の意識は複数に分割できるから私同士で会話もできるのよ……ちょっと怒らないでよ』

 

 まるでこちらの心を読んでいるかのようにサシャが答えた。

 

『言葉は分からないけど挑戦者の顔色や声音を観察し続けてたら、おおよその感情は分かるようになったのよね』

 

 そしてまたさらっと悲しみが深いエピソードが放り込まれる。

 

『それはともかく、色々可能な範囲で教えてもいいけど条件があるわ。私を連れて行きなさい!何か依代を用意してね』

「俺の今の感情を読んでみろよ」

 

『面倒くさい八割、同情二割かしら』

正解!(エサクタ)

 

『正解とかどうでもいいのよ!ねえねえ二割に免じて連れてってよ。寂しい気持ちが皆無ってわけでもないのよ。この際依代はなんでもいいからさ』

 

 そう言って空中で手足をばたつかせ、子どものように駄々をこね始めるサシャ。

 うちの子どもたちが真似するからやめて欲しいのだが。

 

「依代になりそうなものなんて持ってないぞ……どうしたシンク?」

「トウジ、依代ならあれがいい」

 

 依代という単語を聞いて思う所があったのか。

 ゆるキャラの赤いマフラーをくいくいと引っ張るシンクに要求されて、四次元頬袋から取り出したのは某ぬいぐるみである。

 それを見たサシャの反応はいまいちだった。

 

『えー、なにそのずんぐりした鳥?は。さすがに〈寛容と曖昧の女神〉の器としては不相応じゃないかしら』

 

 なんでもいいと言ったくせに難癖をつけるサシャであったが、結局この〈島袋さん〉ぬいぐるみで妥協するようだ。

 白霧夜叉としての霧の体がふくろうのぬいぐるみに吸い込まれると、〈島袋さん〉に変化が訪れる。

 まるで生きている鳥の様に黄色く丸い眼が瞬きをして、伸びをするように羽をはばたかせた。

 

「「「ふわあああああああああああああ」」」

 

 これに興奮したのはうちの子どもたち(と某お母さん一名)である。

 我先に抱きしめようと動き出すが、一番手は発案者であるシンクだった。

 

『おほっ。ちょっとどこに顔をうずめてるのよ。くすぐったいじゃないの』

 

 などと文句を言っているがサシャのその口調は満更でもない、というかゆるキャラでも分かるくらい嬉しそうにしている。

 基本的に構ってもらえることに喜びを感じているようだ。

 神のくせにかまってちゃん、神聖……いやなんでもない。

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