ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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193話:ゆるキャラと絶景

 〈茨棘(しきょく)教団〉は少数ながらも最近〈試練教〉内で勢力を伸ばしている、新進気鋭の宗派だそうだ。

 その〈試練教〉は二十階建ての〈嘆きの塔〉の十七階から二十階を拠点にしていていた。

 

 最大規模である〈地神教〉がてっきり最上階付近を占拠しているかと思いきや、地上一階から十階までを占拠している。

 権力者や最大勢力なら頂上にいそうなものだが……。

 

「お偉いさんに二十階分の階段を登らせるのか?変なことを言うんだな旦那は」

 

 ああそうか、エレベーターなんて無いから高層へのアクセスは自らの足のみである。

 なのでこちらの世界だと高層は格下にあてがわれるのが一般的だそうだ。

 言われてみればそうである。

 

 二十階建てなので全長は百メートルくらいだろうか。

 塔は一階から最上階まで真っすぐ吹き抜けになっていた。

 

 ゆるキャラたちはその吹き抜けに沿って付いている螺旋階段をこっそり静かに登っていく。

 材質は石造りで〈残響する凱歌の迷宮〉の内部と似ているが、魔法で保護されているあちらと違ってあちらこちらに経年変化が見られる。

 耐震性とか大丈夫なのだろうかと、元地震列島の住人としては気になるところだ。

 

 吹き抜けの屋根の無い天井からは月明かりが差し込み、周囲を照らし厳かな雰囲気を出していた。

 深夜ということもありどの階も静まり返っているし、夜間警備をしているような存在もいない。

 

 随分と不用心だが宗教施設に盗みに入るような罰当たりはいないということなのかね?

 最上階を目指すゆるキャラたちとしては好都合だが。

 

 〈試練教〉の拠点である十七階に差し掛かったところで、先頭を進んでいたフレックが立ち止まる。

 

「偵察してくる」

 

 小声で短く呟くと同時に月に薄雲がかかり、数秒間だけ辺りが暗くなる。

 その間にフレックは自らが持つ【暗影神の加護】の力を使って文字通り姿を消した。

 

 隊列の二番目には道案内役のモエがいたのだが、フレックが忽然と姿を消したことに驚いてしまったようだ。

 思わず声が出そうになったのを慌てて両手で抑え込んだ……がちょっと間に合わず、少女のか細い悲鳴が一瞬だけ吹き抜けに響いた。

 

 天井が開いているため、モエの悲鳴は反響することなくそのまま消えていく。

 この程度ならちょっと強めの風音くらいにしか聞こえなかっただろう。

 暫く皆で緊張しながら周囲の様子を伺っていたが、誰かが起きて様子を見に来るようなことはなかった。

 

「ご、ごめんなさいです」

「いや大丈夫だ。急に消えたら驚くよな」

 

 犬人族なら人族より耳も鼻も優れているだろうから、気配が丸々消えて驚くのも無理はない。

 モエのもふもふの白い尻尾が、怒られて怯えた犬のように垂れ下がっている。

 もし衣類が足首まで裾のあるローブではなくズボンだったなら、間違いなく股下に巻き付いていたな。

 

 よしよしと頭を撫でて宥めてあげると、垂れ下がった尻尾も次第に元気を取り戻す。

 そして上向きになったところでフレックが戻ってきた。

 

「すまんすまん、次から消える前に言うわ。それで〈試練教〉の奴らだが、最上階以外はもぬけの殻だ。こんな夜中に皆さん集まって何かやってるらしい」

 

「〈茨棘教団〉以外もか?」

 

「そこまでは分からないな。最上階の扉は全部閉まっていて、窓も雨戸で塞がっているから侵入できなかったんだ」

 

 【暗影神の加護】の能力である〈影潜み〉は物理的にこの世から姿を隠すことができるが、さすがに壁をすり抜けたりはできないようだ。

 まあそんなことができたら能力のコントロールが大変か。

 

 自分の衣服も透過して素っ裸になったり、地下のマントルまで真っ逆さまに落ちていったり。

 このアトルランと呼ばれる異世界にマントルがあるかは知らない。

 もしかしたら世界を支える巨大な象や亀に出くわしたりするかも。

 

「それじゃあ幸いにも吹き抜けで上が開いているから、飛べる面子で天井側から最上階の様子を探ってみるか。シンクすまないが俺を運んでくれないか」

「ん、まかせて」

 

 恥ずかしながらゆるキャラは短時間しか飛べないのでシンクの手を借りることになる。

 頼られて嬉しいのか、シンクがふんすと鼻息を荒くしながら答えた。

 

「サシャはどうする?」

「もちろんついていくわ。戦闘に参加する力は無いけど助言はできるかもしれないし」

「なら残るのはフレックとモエだな。戦力的にそうそう負けるとは思わないが、もしやばそうな雰囲気を察知したら、モエを連れて逃げてくれ」

 

「ねえねえ私にはどうするか聞かないの?」

「聞くまでもなくついてくるんだろ?」

「まーね。でも何か仲間外れみたいで嫌だから聞いてよー」

 

 面倒くさいこと言い出すフィンをあやしつつ、四名が吹き抜けを登っていく。

 ゆるキャラはシンクの赤いワンピースから生えている竜の尻尾に掴まっている。

 見た目は幼女なシンクだが竜族故に人の姿でも自由に空を飛べるし、ゆるキャラ程度の重りが付いても苦にはならない。

 

 月明かりを全身に浴びつつ塔の上に到着。

 吹き抜けを出ると遮るものがなくなり、強風に煽られゆるキャラの赤いマフラーが大きくたなびいた。

 マフラーを空いた手で押さえつけながらそこに広がる風景を見下ろす。

 

 〈嘆きの塔〉を中心に都市群が広がっていてなかなかの絶景だ。

 深夜なので明かりは皆無だが、逆に月明かりのみに照らされて神秘的な風景とも言える。

 

 街の明かりがあるならそれはそれで、北海道の某山の百万ドルの夜景みたいに綺麗だったかもしれないな。

 ゆるキャラ以外の面々も声は出さないものの、風景に感動を覚えているようで感嘆の表情を浮かべている。

 

 風景鑑賞もそこそこに〈嘆きの塔〉の平坦な天井に降り立つ。

 塔自体の形状は円筒で、例えるならトイレットペーパーを縦に置いたような感じか。

 つまり芯の部分が吹き抜けとなる。

 

 そのまま円筒の外側に向かって歩いて行くと天井は途中で終わっていて、その先は広いバルコニーのようになっていた。

 そしてそこには大量の黒ずくめの集団がいて、祭壇を囲って怪しい儀式のようなものを行なっている光景が。

 

「うーん?なんか見覚えのある連中だな。しかもあの祭壇……」

 

 やっぱり見覚えのある祭壇には、猫耳の少女が寝かされていた。

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