ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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194話:ゆるキャラと生け贄(二回目)

 ゆるキャラがアトルランに転生してまだ間もない頃、竜族への生け贄にされそうになった狐人族の少女を助けたことがある。

 その時と現在目の前に広がっている光景は非常によく似ていた。

 

 黒いローブの集団と祭壇に寝かされた少女という状況がそっくりだし、それだけでなくローブや祭壇の造形も似ていて、前回のものと関連があるような気がする。

 前の造形をはっきりと覚えているわけではないし、黒いローブや祭壇というのはどれも似通ったものになるのかもしれない。

 つまり勘でしかないのだが……。

 

 皆で塔の天井に腹這いになってバルコニーの様子を伺っていると、黒いローブの集団のうちの一人が祭壇に横たわる猫耳少女の前に進み出た。

 その黒衣の人物は両手に持った何かを差し出すように掲げている。

 

 それは茨の塊だった。

 茨付きの蔦が幾重にも巻き付き球状に絡まり合い、歪な楕円を象っている。

 編み物で使う毛糸の玉を少し押しつぶしたような感じだ。

 

 更にそれは楕円を維持したまま蔦が回転するように蠢いていて、棘が掲げている人物の手の平を容赦なく傷付けていた。

 血が滴るほどに手の平が茨によって磨り下ろされ続けているにも関わらず、黒衣の人物は平然とした態度で何か祝詞のようなものを呟いている。

 上空百メートルの吹き(さら)しということもあり、風が強くてよく聞き取れない。

 

 茨の塊を見てサシャが反応。

 〈島袋さん〉のつぶらな瞳をもう一回り大きくさせて驚いていた。

 

『はあ!?なんでこんなところに外様の小柱の本体がいるのよ』

「外様ってことは〈闇の眷属〉の親玉で、この世界にとって敵か」

 

『そうよ!しかもあそこに寝かせてる猫人族の女の子に受肉させようとしているじゃない。地上で小柱の本体なんかが受肉したら、辺り一帯が大惨事になるわ。てかなんで本体が〈世界網〉を抜けてるのよ。〈時と扉の神〉は仕事してないの?馬鹿なの?私を迷宮に閉じ込める時は喜々としてやったくせにいいいいい』

 

「なあ受肉って、阻止しないとやばいんじゃないか?」

『……はっ、そうね。止めないとやばいわ。あの茨の心臓を女の子に近付けさせちゃ駄目』

 

 近づけさせるなってもう黒衣の人物は女の子、ティッシの目の前じゃないか!

 

「フィン、シンク。あの茨の塊をティッシに近づけたらやばいらしい。フォローしてくれ」

「まかせて!」

「ん!わかった」

 

 二人に声をかけつつ空中へ飛び出した。

 背後から吹く強風を利用して、天井の縁を蹴り付け黒衣の人物に向かって真っすぐ滑空する。

 

「狂い刳る外淵の星辰の一柱〈黒茨卿〉よ。恭順たる肉体と殉教たる魂をここに捧げ、御身の礎とせし―――」

 

 近付くと物騒な祝詞が聞こえてくる。

 黒ローブの集団は全員祭壇に向かって拝むように俯いているので、誰もゆるキャラの接近には気付いていない。

 

 黒衣の人物が頭上より高い位置に茨の塊を掲げた今がチャンスだ。

 空中で四次元頬袋から幅広の剣(ブロードソード)を取り出すと、躊躇わずに茨の塊に向かって突き出す。

 

 まるで金網を斬りつけたような鈍い感触と共に、幅広の剣が茨の蔦の間をすり抜けて串刺しにした。

 貫かれても茨の塊は蠢き続けていて、棘が幅広の剣の表面をぎりぎりと引っ掻く音がし続けている。

 黒衣の人物の頭上を通過してティッシを庇うように祭壇の前に降り立つと、黒ローブの集団が騒ぎ出す。

 

「な、なんと不敬なのでしょう……!突然現れて御身を貫くとは。何者かは知らないが今すぐに返しなさい」

 

 茨の塊が消失した血まみれの両手から視線をゆるキャラに移した黒衣の人物が、怒りに声を震わせる。

 怒っているのだが、何故かその表情は穏やかだ。

 

 どこにでもいそうな中年男性の顔で、目を細めて微笑んでいるように見えた。

 笑いながら怒る人みたいだな。

 

「外様の神の〈黒茨卿〉?を受肉させるんだろ。そんな迷惑なことは見過ごせないな。それに生け贄にされるティッシが可哀そうだろ」

 

 エゾモモンガの広視野を使って振り向かずに背後の祭壇を確認すると、ティッシは祭壇の上で眠るように横たわっている。

 着替えさせられたのかこの連中と同じ黒いローブ姿で、橙色の髪にモエと同じで白い垂れ耳がついていた。

 胸元はゆっくり上下しているからまだ無事のようだ。

 

「可哀そうですと?偉大なる御身の器になることほど崇高なことはないというのに」

 

「ティッシは〈創神教〉だろ?創造神の系列どころか外敵の外様の神に乗っ取られたらたまったものじゃないな。そんなに崇高ならこんな女の子を使わないであんたらの誰かが生け贄になれよ」

 

「無論そう神託が下れば、我々全員が喜んで器として身を捧げるでしょう。しかし神の思し召しはそれこそ外淵のように深く推し量ることが難しいのです」

 

「それっぽく言い訳しているけど、つまりあんたらは外様の神を信奉してるのに、肝心の神からは器にしてもらえないんだな。実は嫌われてるんじゃないの?その神もわざわざこんな子を選ぶなんてとんだ変態だな」

 

 自らが信奉する神をけなされて、黒ローブの集団から殺気が沸き立つ。

 そしてじりじりとゆるキャラを包囲する輪が小さくなる。

 

 その背後でシンクが両手を広げてこちらにアピールしていた。

 多分あれは「へーい、パスパス」だな。

 

 この蠢く茨の塊を串刺しにした幅広の剣を持ちつつ背後のティッシを抱きかかえると、両手が塞がってしまうためどうしたものかと考えていたのだが、シンクが茨の塊を受け持ってくれるようだ。

 しかしこんな気色の悪いものを渡して大丈夫だろうか、てかトゲトゲだし。

 

 包囲がどんどん狭まるため、考えている時間はもうほとんど無い。

 ……ええい、ままよ!

 

 決心して幅広の剣を振り抜くと、突き刺さっていた茨の塊が放物線を描いてシンクに飛んでいく。

 ファールフライを追いかけるように見上げる黒ローブたち。

 

 シンクは飛んできた茨の塊を素手でキャッチ。

 蔦の一部を思いっきり握り締めるとそれ以外の部分が蠢き、棘がシンクの小さくて柔らかそうな手を傷付け……ない。

 

 竜族であるシンクは《人化》で幼女の姿をしているが、その能力は竜の姿の時と代わらない。

 つまり柔らかそうに見えても、竜の鱗と同等の頑丈さを秘めているのだ。

 

 心配するほどでもなかったか。

 とにかく黒ローブの連中は全員シンクに気を取られているので、今のうちにティッシを抱えて逃げるとしよう。

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