ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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205話:ゆるキャラとからあげとザンギ

 雪んこの通訳の翻訳は難航を極めた……というほどではなかったが、そこそこ大変だった。

 

(あんね とけーのみんなはとろうにつれてかれたの)

「時計……?徒労……?」

 

 聞いたままをそのまま伝えてくれれば良いのだが、雪んこのアレンジが入った言葉で通訳されてしまっていた。

 これはおそらくだが《意思伝達》の魔術と同様に、受け手の理解できる言葉に変換されているからだと思われる。

 

 雪んこはごらんの通り未就学児くらいの知能なので、ゆるキャラやレキの言葉を聞き取る時点で、自らが理解できる情報に置き換えられているのだろう。

 雪んこの発言自体にも《意思伝達》の効果があるので、お互いの発言が相手にどう伝わったかは確認可能だ。

 

「とけーってなんだ?」

(れきたちよ)

 

 とけーとはレキたちのこと……もしかして兎形か?

 レキの言葉は雪んこが理解できる言葉に変換され、更に雪んこの言葉がゆるキャラが理解できるものに変換される。

 言葉通りの単語と言えばそうかもしれないが、情報量が減っていてある意味伝言ゲームみたいだ。

 

 確か兎の分類を兎形目と言ったはずなので、レキたちは兎形族ということになるだろうか。

 兎人族じゃないのか……種族の呼称に統一感が無くてもやもやするが、ここは別大陸だから呼び名も違うのかもしれない。

 

 しかし同じ大陸内でもリージスの樹海に住んでいた二足歩行の熊たちは、何故か熊人族ではなくてウルスス族と呼ばれていたなあ。

 まあ何をもって正式名称とするのか、というのはある。

 

 仮に偉い学者が種族名を決めたところで、現場へ周知徹底されるわけでもないだろうし。

 からあげをザンギと呼んでいるようなもので……いや、一応からあげとザンギは別物扱いだったか。

 

 からあげは下味を付けないのが一般的で、ザンギはその逆だ。

 ただこれも絶対ではないので、やっぱり名称が違うだけとも言える。

 

 ってザンギの話はどうでもいいんだ。

 仔細を想像して食べたくなるだけ損である。

 

 「とろう」という単語についても追加情報を求めると、人型で大きくて強いそうなので「トロール」のことだろうか。

 つまり兎形族はトロールに連れ去られたのか。

 連れ去られたなら、隠れていた連中以外は無人だったのも頷ける。

 

 飛び散っていた血の量から想像するに、連れ去られた兎形族たちが存命かどうかは不安が残るが……。

 収集した情報をまとめるとこうだ。

 

 本日未明、山間でひっそりと暮らしている兎形族の村を、邪人であるトロールの一団が襲撃した。

 見かけによらず好戦的な兎形族は応戦したが惨敗。

 村はずれのボロ屋の地下収納に隠れ居ていた人々以外は全員連れ去られてしまった。

 

 レキも逃げ隠れたうちの一人で、トロールが一通り暴れまわり去った後、助けを呼びに村を出た所で運悪く雪蜥蜴に遭遇。

 逃げている時にゆるキャラと鉢合わせしたのであった。

 

 なんでもこの周辺は少数種族の亜人たちが種族毎に纏まって住んでいて、近くに(といっても山を二つ越えるらしいが)住んでいる騎馬族に助けを求めるつもりだったそうだ。

 騎馬族とは字面的にはかなり強そうな種族である。

 

 レキが遭遇した雪蜥蜴は並の亜人程度なら一方的に食われるくらい手強い魔獣らしい。

 北海道でいうところの(ひぐま)ポジションかな?

 

 それをあっさり撃退したゆるキャラに出会ったため、レキは一旦村に戻ることにした。

 またいつトロールが襲撃してくるか分からないので、ゆるキャラを即席の防衛戦力として抜擢したわけだ。

 

 そして引き続き隠れていた大人たちと相談した結果、ゆるキャラは騎馬族の村へ向かうレキの御供に内定した。

 これはレキがまた雪蜥蜴などに襲われてしまえば、救援要請自体が立ち消えてしまうからだ。

 今後の方針が決まったところで、騎馬族の村へ向かう前に意思疎通が出来るようにと、雪んこがいるこの山に誘導されたのであった。

 

「――――」

(なんでもすゆから たすけてって)

 

 村で大人たちと一緒にしていたように、レキは再びその場で跪き頭を垂れる。

 

「なんでもするは色々な意味でNGワードだぞ」

(なんでもすゆは いろんな いけないことばなの?)

 

 「NGワード」という単語を見事に意訳した雪んこであったが、「なんでもする」が何故いけない言葉なのか、文章としては理解できなくて語尾上がりになっている。

 説明は……ちょっと憚れるのでスルーさせてもらう。

 

「乗りかかった船だからな。俺の出来る範囲で手助けしてやるさ」

 

 そう言ってレキの両脇の下に手を差し込み持ち上げてから地面に立たせた。

 見上げた瞳が不安そうに揺れているので、頭をぽんぽんと撫でてやる。

 

(おふねが えーと たすけてくえゆって)

 

 今度の翻訳は半ば放棄されたものであったが、重要な後半部分は伝わっているので良しとする。

 さすがに慣用句の意訳までは無理があったか。

 ゆるキャラの手の下でレキは目尻に涙を溜めて、嬉しそうに微笑んでいた。

 

 夜も更けてきたので、今晩はこの場で一泊することに。

 レキもゆるキャラも今日は色々な事がありすぎたので、明日に備えて寝た方が良い。

 

 たまたま天気が良いだけなのか、それとも精霊がいるような場所だから特別そうなのか分からないが、山頂は無風で過ごしやすかった。

 

 ゆるキャラもレキも自前の毛皮があるので寒さに凍えるようなことはない。

 だから岩場に無造作に寝っ転がっても問題無いのだが、少しでも快適になるようにと四次元頬袋から柔らかそうな絨毯を取り出して地面に敷く。

 

 この絨毯はリージスの樹海で頂戴した竜族の財宝のひとつだ。

 武具や金銭が目立つ財宝の中では珍しい一品で、ペルシア絨毯のように複雑な図案が施されている。

 

 明らかな高級品にレキは乗るどころか触るのも躊躇っていたが、ゆるキャラが絨毯の上に強引に招き入れると、その柔らかい感触に驚いていた。

 そして指先で感触を確かめているうちに電池が切れたかのように、こてりと倒れ込み眠ってしまった。

 

 色々あって疲れただろう。

 涎を垂らしても聖水で洗えばいいから、好きなだけ堪能してくれ。

 

 雪んこもまず四次元頬袋の存在に驚き飛び回っていたが、今はレキ同様に絨毯の上で眠っているようだ。

 見た目は絨毯についたゴミ……毛玉だが。

 

 ゆるキャラも仰向けに寝転がると、透き通った空に星々が輝いていた。

 なんとなくアトルランに転生した初日の夜を思い出すなあ。

 

 出会ったばかりのフィンと一緒に森で野宿したっけか。

 なんて感傷的になっていたのも僅か数分で、ゆるキャラも疲れていたのかすぐに眠りに落ちた。

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