ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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208話:ゆるキャラと今後の方針

(おいたん……ねえおいたんってば!)

「……はっ、なんだユキヨ?」

 

 テレパシーで脳内をダイレクトに怒鳴り付けられて、ゆるキャラの意識が現実に戻ってくる。

 

(なんだじゃないわよ おいたんまでへんになったら わたいはどうちたらいいのよ ふえええええええええええん)

 

 騎馬族の姉弟とレキは泣き崩れてゆるキャラは放心状態と、ひとり取り残されてしまったユキヨまで泣き出してしまった。

 ケサランパサランのような丸い綿毛が肺のように伸縮を繰り返し、下部からは涙?が水滴となって零れている。

 え、その汁どこから出てるんだ?

 

「ごめんごめん、俺はもう大丈夫だ。他に生存者がいるかもしれない。周囲を探してみよう」

 

 薄情かもしれないがゆるキャラからしたら所詮は他人事である。

 鬼畜の所業に憤りを覚えるし同情はするが、そこまでだ。

 

 もし《意志伝達》で直接姉弟やレキの言葉を聞いてしまえば、また違ったかもしれないが。

 それに冷静なのが一人でも居たほうが、不測の事態が起きても対処しやすいだろう。

 その割に先程から頭の中で謎の言葉が反響しているが、頭をぶんぶんと振って意識の外に追いやる。

 

 打ちひしがれている三人をその場に残して、ゆるキャラとユキヨはその場から逃げるように生存者の捜索を始める。

 村をぐるりと一周してみたが、どこも酷い惨状が続くばかりだった。

 

「うーん」

(どうちたの?)

「建物の数に対して被害者が少ない気がする。あと子供も少ないな」

 

 現代日本の限界集落じゃあるまいし、子供がほとんどいない村だったとは考えにくい。

 アトルランという中世ファンタジーな世界背景から察するに、子は宝であり貴重な労働力だろう。

 

 そんな子供たちの姿が少ないということは……。

 顎に手を当てて考え込んでいると、エゾモモンガの耳が何かが振動するような音を捉える。

 

(ねーねーどうちたの?)

 

 ピコピコと耳を動かして音の出所を探っていると、ユキヨがその耳に纏わりついてくる。

 やんわりと払いのけて耳を澄ませば、振動は村の裏手の方から聞こえてくるようだ。

 

「これは……ユキヨ、みんなを呼んできてくれ。俺だけだとまた敵と思われて逃げられるかもしれないからな」

 

 音の正体はずばり騎馬族が走る蹄の音であった。

 やはり子供たちは大人たちによって村の外に逃がされていたのだ。

 

 ユキヨが連れてきた姉弟と子供たち十数名が、無事再会できて喜び抱き合っている。

 先程まで悲しみの涙を流していた姉弟であったが、今度は子供たちの無事を喜び涙を流していた。

 最悪の事態は回避できて良かった……のだろう。

 

 ユキヨの通訳によると、子供たちは大人たちのおかげで無事に村から逃げ出せたものの、何時まで経っても迎えが来ないので心配になって戻ってきてしまったそうだ。

 子供たちに村の惨状は見せられないため、村の裏手で破壊の被害にあっていない数件の家屋に避難してもらう。

 

 姉が皆の面倒を見ている間に弟は被害者たちを埋葬するそうだが、とても一人でこなせる量ではない。

 ゆるキャラが手伝いを名乗り出たがそれでも遅々として進まず、結局子供たちの中から年長の三名を追加した合計五名で、村の外れに遺体を集めるだけで日が暮れてしまった。

 

 その日はゆるキャラたちも騎馬族の村に泊めさせてもらうことに。

 片付けた大きめの屋敷で姉……名前をイルドというそうだ、と年中組の子供たちが用意した簡単な夕食を皆で摂る。

 

 下半身が馬ということもあり、騎馬族の屋敷の室内は全て段差の無い土間という造りになっていた。

 囲炉裏の火で照らされる皆の顔は暗く、至る所から子供たちのすすり泣く声が聞こえる。

 

 同胞の死体を運んだ年長組の顔色は悪い、というか食事に手も付けていない……さもありなん。

 食後のデザートに〈商品〉を提供して少しでも元気づけようと思ったが、今日はやめておいたほうが良さそうだ。

 

 イルドと弟のオルド、そこにレキが混ざって今後について話し合っている。

 ゆるキャラたちは騎馬族の村に助けを求めにやってきたわけだが、もちろんそれどころではなかった。

 被害の規模は兎形族の村と同程度、いやもっと酷いかもしれない。

 

 逃げる時に目撃した子供たちの証言から下手人はトロールだと判明する。

 騎馬族は武に秀でた種族のはずだったが、トロールに一方的に虐殺されてしまった。

 結果論だが、レキの救援要請は最初から破綻していたのだ。

 

 疑問はたくさんある。

 何故急に兎形族と騎馬族の村が襲われたのか?知らないだけで他の亜人の村も襲われているのか?

 兎形族は死体が一つも残されていなかったのに、何故騎馬族は残されたままだったのか?

 今後再度襲来する可能性はあるのか?トロールへの対抗策はあるのか?

 

 姉弟とレキらの会話(ユキヨの同時通訳)で分かったことと言えば、トロールは〈外様の神〉を崇拝する邪悪な邪人で、創造神の創造物である亜人たちとは敵対関係にある。

 なのでもし生き残りがいると分かれば根絶やしにしようとするに違いない、ということくらいだろうか。

 

 つまり襲撃された村に残っているのは危険なのだが、迂闊に他所へ避難すれば避難先に被害をもたらす可能性があった。

 では他にトロールを討伐できるような亜人の村があるかといえば否だ。

 

 これはもう、万事休すのように思われたが……。

 

(しょうがないから ひとぞくにたすけてもらゆって)

 

 ユキヨのテレパシーはゆるキャラ以外の亜人たちにも、ゆるキャラが聞き取った通りの意味で伝わっている。

 そのユキヨのテレパシーを聞いたみんな、レキだけでなくすすり泣いていた子供たちも含めて全員が顔を(しか)めていた。

 

 どうやら人族はめっちゃ嫌われているようだ。

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