ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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210話:ゆるキャラと毛皮

(とうじやうな このわたしについてくゆとわ)

 

 ユキヨが代弁しているのはイルドの言葉だ。

 騎馬族の下半身は馬のそれで、サラブレッドのように逞しく美しい。

 上半身は人間のそれだが、こちらも下半身に負けないくらい逞しくて美しかった。

 

 出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいて(上半身限定だが)、そして全体的にムキムキだ。

 腕の太さなんてゆるキャラの中の人の腕の倍はありそうだ。

 頭の幅と同じくらい首も太く、その上には堀の深い凛々しい顔が乗っかっている。

 

 焦げ茶色の髪を三つ編みにして腰まで伸ばし、動物の毛皮を加工して作った民族衣装を羽織っていた。

 もし服装をボディスーツに変えたのなら、見た目は完全に女子プロレスラーだ。

 ダッダーンとか言いそうな感じである。

 

 そんな彼女がゆるキャラの走行能力を褒めてくれていた。

 下半身が馬であるイルドの走行速度は相応に早く、追走することおよそ四時間。

 正午を過ぎた時点で既に二つ目の山の山頂付近まで来ていた。

 

 イルドは遅れずついてくるゆるキャラを褒めてくれるが、こちらとしても彼女の走行能力には脱帽である。

 想像してみて欲しい。

 舗装されていないのは当然、獣道ですらない雪山の上を馬の蹄で走行したらどうなるだろうか。

 

 普通なら自らの重さで雪の中に脚が埋まってしまい、満足に走ることすらできないだろう。

 ところがイルドは雪の上を軽やかに走っているではありませんか。

 そう、まるで雪面の飛び魚のように……!

 

 どういう理屈か詳しく聞いてみると、どうやら加護の力によるもので、蹄を通してなら地面に伝える重量を軽減できるそうだ。

 ふむ、なるほど……。

 

(いま おもそうなのにとかおもったな)

「め、めっそうもない」

 

 言葉が通じないのに的確に心を読まれて焦る。

 イルドに睨まれて首を左右にぶんぶんと振った。

 

 加護は個人差が激しいはずなので、騎馬族全員が持っているわけではないはずだ。

 雪原に住むなら必須のように感じるが、雪深いのは今時期だけなのだろうか?

 それとも元々騎馬族は違う場所に住んでいたのだろうか?

 

 ユキヨ経由なのも含めて事情を簡単に聞けないのがもどかしい。

 辛うじて確認できたのは、弟のオルドの加護はもっと強くて数秒なら空を駆けることもできるということだ。

 翼はないがまるで天馬のようで格好いいな。

 

 あと当たり前だがイルドも雪の無い平地なら今よりもっと速く走れるとのこと。

 確かにプリティダービーに参加したら相当強そうだ……四足歩行だからレギュレーション違反か。

 

 レキはイルドの背中に跨っている。

 ゆるキャラの背中より広いし安定するから安心できるはずだが、急ぐ旅路なので山は迂回せず今回も山越えルートだ。

 結局高所が苦手なレキには怖い思いをさせてしまって申し訳ないが、後で饅頭をあげるので勘弁して欲しい。

 

 険しい岩肌が相手でも、イルドは山岳地域に生息する山羊のように軽々と登っていく。

 必死に追いかけること小一時間。

 遂に山頂に到着すると、そこからは人族の国が一望できた。

 

 まず手前に広がるのは雪化粧をした森林地帯だ。

 兎形族や騎馬族の村があった付近より積雪量は少ないようで、白と緑のコントラストがよく映える。

 そしてその森林地帯をオジロワシの遠目でじっくり観察してみると、朽ちた石造りの建造物がちらほらと見えた。

 

 どうやらこの森林地帯が古戦場跡のようだ。

 長い年月が経過した結果、かつての戦場は森に覆われてしまったのだろう。

 

 いったい何と何が戦った戦場だったんだ?

 人族の国の歴史に興味は無いようで、イルドに訊ねてみたがその辺りの情報は得られなかった。

 いずれにせよ生い茂る木々と朽ちた砦……犯罪者たちが隠れ潜むには丁度良いのかもしれない。

 

 森林地帯の奥には多少開けた平野があり、更にその向こう側に小さく街が見えた。

 

「なんて名前の国なんだ?」

(おれすたーおうこく だって)

 

 なるほどオレスター王国か。

 まあ国の名前を知った所で何もピンと来ないのだが。

 

 今後の予定は山を下りて麓で野宿し、その際にイルドがトロールの関与を疑っている新参組織の偵察を慣行。

 手に入れた情報を持って翌朝オレスター王国に向けて出発し、街の中にある冒険者ギルドに駆け込む予定だ。

 

「雪の精霊のユキヨは人前に出ても大丈夫なのか?妖精なんかは一人でうろちょろしてると攫われると聞いたことがあるが」

 

(え そうなの?)

 

 ゆるキャラがこのアトルランという異世界に訪れて、初めて知り合った妖精のことを思い出す。

 最初は灰色狼に襲われていたか弱い存在だったが、ゆるキャラが与えた濃厚な魔力が含まれた食品をもりもり食べて体に取り込み、いつのまにかとんでもない威力の魔術を放つようになってしまっていた。

 

 さすがにユキヨは自衛できるような魔術は使えないようなので、もし攫われるおそれがあるなら古戦場跡や街には入らず、山の麓で待機していてもらう必要があるかもしれない。

 

「―――――」

(とうじにくっついてれば だいじょうぶだって むしろれきのほうがあぶないって)

 

「レキのほうが?」

(とけいぞくのけがわはたかくうれるんだって)

 

 はい出ました人族の毛皮への異常な執着。

 確かにレキの純白の毛並みはビロードのように光沢があり、剥げば高級品として通用するのは間違いない。

 しかしイルドが着ているような動物の毛皮ならまだしも、知的生命体、広義には同じ種族の毛皮を剥いで身に着けようとするとか、忌避感はないのだろうか。

 

 ゆるキャラの視線に気が付いたレキが、怯えた表情でイルドの背中に隠れた。

 ちょ、待ってくれ、そういう目で見たわけじゃないから。

 むしろゆるキャラも剥がれる側の立場だから。

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