ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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212話:ゆるキャラと夜の眷属

 吸血鬼といえば古今東西の様々な創作物に登場する架空の怪物だ。

 夜に祝福された不死身の存在で、怪力を振るい霧や蝙蝠に化け、自らの血を分け与えることで眷属を生み出すこともできる。

 

 一方で弱点も多く太陽光、十字架、聖水、銀の杭、ニンニク、流水を渡れない、家主の許可無しに家に入れないなど色々だ。

 能力及び弱点は作品毎にバラバラで統一感は無い。

 

 他のファンタジー生物より弱点が多いのは何故だろう?

 その分強かったりもするので、意外と制約と誓約みたいなノリだったりして。

 

 さてアトルランの吸血鬼だが、男共を屠ったこの少女は邪人と闇の眷属、どちらに分類されるのだろうか。

 邪人は生みの親である創造神を裏切り、外様の神を信奉した末に姿形が変貌した連中のことを指す。

 

 例えば森人(エルフ)が外様の神に鞍替えすると、闇森人(ダークエルフ)へと種族が変化する。

 トロールも邪人なのでゆるキャラは把握していないが、裏切る前の元の種族が存在しているはず。

 

 闇の眷属は外様の神がアトルラン侵略のために送り込んだ先兵であり、創造神が関与していない完全なる外来生物だ。

 

 吸血鬼に元となる善良な種族がいるとは考えにくいから、闇の眷属なのだろうか。

 でも吸血竜という吸血鬼とは無関係の亜竜もこの世界にはいるので、純粋に血を養分とする種族がいる可能性も捨てがたい。

 

 仮にそんな種族がいるならば、どういった過程で吸血という進化を遂げたのか、種の起源が気になるところだ。

 あれ、でもこの世界は創造神が作ったということは、そもそも進化論は適用されないのか?

 

 それともベースとなる種族を創造した後は進化するままにお任せなのか。

 もし創造神と会う機会があるならば、是非その辺りを聞いてみたいものだ。

 

(とうじ とうじってば)

「おおっと、すまない」

 

 ……なんてのんきに考察している場合ではない。

 器用にも小声のテレパシーで話かけてきたユキヨによって我に返る。

 

 侵攻側の連中は吸血鬼(と思われる)少女と明確に敵対して攻撃を仕掛けているが、全く通用していなかった。

 無事少女への接近を果たした男が得物の剣を振り下ろしたが、目標に到達する前にキンという乾いた音を立てて半ばからへし折られる。

 

 折れた切先は回転しながら地面に落ちると思いきや、空中で突然静止すると意志を持ったかのように、ある方向へ一直線に飛んでいく。

 

 ある方向とは持ち主の男の顔面だ。

 切先は銃弾のように男の右目へ飛来し、突き刺さり、貫通した。

 

 男の悲鳴が響き渡るが、切先が眼窩から頭蓋骨内部へ侵入し脳を破壊すると、叫ぶ機能が失われたのか断末魔はぷつりと途切れる。

 目から切先を生やした男は、糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

 その隙に背後から接近した別の男が、気合の雄叫びを上げながら両手斧を横に薙ぐ。

 勢いと重量が揃った一撃は、華奢な少女の腰など容易に斬り飛ばしてしまうだろう。

 

 ごう、と一陣の風を巻き起こして見事に両手斧を振り抜いた……かに見えたが、男の両腕は肘から先が消失していた。

 

 両手斧とそれを握る男の両腕が、少女の腰の数センチ手前の空中でぴたりと止まっている。

 肘の切断面は押し潰れていない綺麗な輪切りで、僅かな間を置いてから思い出したかのように血が噴き出した。

 

「うっせえですわ」

 

 痛みで絶叫する男の顔に向かって、少女がしっしと追い払うような仕草で手を動かす。

 すると男の首が刎ねられ強制的に絶叫が止まった。

 

 次に少女へ襲い掛かかったのは、全方位から飛来する大量の矢と魔術の《火球》だ。

 その多くが少女に着弾し、轟音と爆風を巻き起こしながら白銀世界を赤く染めた。

 

 タイミング的に両手斧の男を巻き込むことが前提の攻撃だが、先立った男二人は捨て駒だったのだろうか?

 矢と火球を同時に放っても、前者は後者の炎で焼けたり爆風で弾き飛ばされてしまうだろう。

 

 つまり侵攻側は相当に焦っているのかもしれない。

 

「――――!?」

 

 燃え上がる炎を見ながら《火球》の魔術を放っていたうちの一人が何かを叫んだ。

 やはりゆるキャラには理解できない言葉だったが、まさか「やったか!?」じゃないよな?

 

 本当にそう言ったかどうかは知らないが、残念ながら結果はフラグ通りであった。

 

 炎が消えると、そこには少女の代わりに黒い球体が浮かんでいる。

 死後、転送されたマンションの一室に浮かんでいそうなやつだ。

 

 その黒い球体は薄い膜状になっているようで、シャボン玉のように割れると中からは無傷の少女が現れた。

 炎の熱すらも遮断していたのか涼しい顔である。

 

「ったく、しゃらくせーですわね」

 

 乱暴な台詞とは裏腹に薄桃の唇を可愛く尖らせると、その場で優雅に一回転。

 フリルマシマシのゴスロリドレスのスカートの裾が、花弁のようにふわりと広がった。

 

 次の瞬間、少女を中心にして円形の衝撃波が放たれる。

 矢と火球の集中砲火が通用しなかったにも関わらず、侵攻側の連中は少女への攻撃の手を止めていない。

 

 決死の覚悟で少女に突撃する男共の結末は……覚悟した通りとなる。

 衝撃波が男共の膝上あたりを通過すると、先程の両手斧の男のようにそこからぱっくりと切断され、次々と地面に倒れ伏す。

 

 衝撃波の餌食になったのは侵攻側の連中だけではない。

 通過した木々、そして恐らく味方である防衛側の連中も平等に薙ぎ倒す。

 

 半径五十メートルほどの地帯が一瞬にして地獄へと成り果てた。

 聞こえてくるのは男共の絶え間ない悲鳴と倒壊する木々の轟音だ。

 

 ゆるキャラが登っていた木も切り倒されたため、完全に倒れる前に衝撃波の範囲外の木へと飛び移る。

 今の一撃で侵攻側が有利だった戦況が一気に覆ってしまった。

 

「え?なあに?貴方たちの言葉はわからないわ。ちゃんと私に理解できる言葉で止めてくださいまし」

 

 咄嗟に地面に転がって難を逃れた防衛側の男の一人が、少女に詰め寄り抗議したようだが、彼女はつんとすまし顔でそっぽを向いている。

 その言葉からは味方を巻き込むことを想定できていたことが明らかであった。

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