ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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218話:ゆるキャラと魅了

「あーあ、泣かせちゃったわね」

 

 仰向けのままわんわん泣いているティアネの側で、ゆるキャラが途方に暮れているとリリアがやってきた。

 ティアネはリリンの接近を察知すると素早く起き上がり、タックルする勢いでリリンに抱き付く。

 

 そして大泣きを再開。

 リリンはゆるキャラ以上に小柄なため、ティアネは器用に上半身だけで縋りつくようにして抱き付いている。

 

「よしよし、これで分かったでしょう?この鼠さんは私と対等に戦えるくらい強いから、きっとパパにも勝てるわ」

 

「何か勝手に話を進めてないか?あと説得が終わった扱いならユキヨを解放してくれ」

 

「あら、ごめんなさいね。こうでもしないと馬のお姉さまが抑えられなかったのよ」

 

 掌の檻から解放されたユキヨはふらふらとゆるキャラの元へ飛んできて、マフラーの中に潜り込むと……。

 

(ふわああああああああああん)

 

 恐怖から解放されて緊張の糸が切れたのか、こちらも負けじと泣き出してしまった。

 両名が落ち着くまでに数分を要したところで、野営地としていた焚火の前まで戻り話の続きをすることに。

 

「改めて紹介するわ。この子はティアネ。トロール族の娘よ」

 

 なんと彼女はトロールだったのか。

 ゆるキャラの思ってたやつと違う。

 もっと巨大で半裸で筋肉質で凶暴で不衛生で知能も低い感じの奴を想像していたのだが。

 

 ティアネは縮尺こそおかしいが、リリンの横で佇む姿は人族の少女と変わらない。

 しかもヴェールの下の顔は美少女と評しても問題無いほど整っているし、全身黒装束で分かりにくいが発育もかなり良さそうだ。

 

「ちょっとうちのティアネをいやらしい目で見ないでくれる?まだ子供なのよ。もしかしてトウジはそういう趣味なの?だから私の誘惑が効かなかったのね」

 

 その言葉を聞いてぎょっとしたティアネが、慌ててリリンの後ろに隠れる。

 まあ体が大きいので全然隠れていないのだが。

 先程までの好戦的な態度はどこへやらで、今の彼女はどこかおどおどしていて背中も丸まっている。

 

「待て待て、俺はティアネをいやらしい目でなんて見てないからな。トロールという種族を初めて見るからちょっと観察していただけだ……ん?ティアネはリリンの言葉がわかるのか?それに俺を誘惑ってどういうことだ」

 

「ティアネは私が〈魅了〉して隷属化させてるから、貴方の欲しがっている《意思伝達》とは違うしくみで意思を通わせることができるのよ。そして貴方にも〈魅了〉をかけたのにちっとも効かないんだから。私のような大人の魅力溢れるレディに欲情しないなんて、同性愛者か小児愛者を疑って当然じゃない」

 

「いや、種族の壁ってものを考えろよ。というか……」

「なによ」

 

 頬を膨らませて怒るゴスロリ少女のどこに、大人の魅力溢れるレディの要素があるんだろうか。

 実年齢はともかく、外見だけならティアネより幼いだろう。

 

 〈魅了〉というのは吸血鬼の能力のひとつで、対象を自身に心酔、隷属化させて意のままに操ることができ、独自の意志伝達効果まであるんだそうだ。

 そう言われるとリリンの碧眼が妖しく光ったタイミングがあったような、なかったような。

 

 ちなみに相手の血を吸って同族にするのが眷属化だが、隷属化とは色々仕様が違うんだとか。

 

「ティアネと会話できるなら俺はいらないだろう」

 

「〈魅了〉で隷属化させた上での意思伝達は会話よりも単純なの。例えば今のやりとりなら『トウジ』『見てる』『いやらしい』といった単語単位でしか伝わってないわ。それに隷属化はいわゆる洗脳だから、対等な会話は望めないの」

 

「ふうむ、なるほどな。ところでどうしてリリンは人族や邪人の言葉が分からないんだ?闇の眷属はみんなそうなのか?」

 

「さあ?私は寝起きだから覚える時間が無かったの。他の皆は見下していたりやる気が無くなっていなければ、学習しているかもしれないわね」

 

「寝起き?やる気?」

「まあその辺りはどうでもいいじゃない」

 

 むしろその辺りを探りたいから、闇の眷属であるリリンに協力する一面もあるんだけどな。

 

「ティアネは主である私に近付く貴方の実力を試したかったのよ。ちゃんとトロール一家相手に戦えるかを」

 

「やっぱり勝手によく分からない条件が付け足されているじゃないか」

「これは()()()()じゃないわ。ティアネが付けた条件ね」

 

 言葉遊びでマウントを取ったつもりなのか、どや顔で薄い胸を張るリリン。

 

「はいはい。じゃあさっさと詳しい事情を説明してくれよ」

 

「ちょ、ちょっとお簡単に流さないでったら。従者の問題は主の問題でもあるとか、反論の余地があるんだから少しは抵抗してよね」

 

 ぷりぷり怒りながらリリンはゆるキャラの側にやってくると、自らの首にかかっているペンダントを外す。

 そしてゆるキャラの首にかけよう……としたが、頭が大きすぎて通らなかったので手に握らせてきた。

 

「これで言葉が通じるはずね。ティアネ、自分のことなんだから自分で話なさい」

「えっ、あの、その……」

「おお、ちゃんとわかるな」

 

 大きな体を小さくしてもじもじしているティアネの言葉が、理解できるものとなってゆるキャラの耳に届いた。

 同時にゆるキャラの発言も、イルドとレキに理解できるものとして伝わり二人が驚いている。

 後でこれまでの情報のすり合わせをしておかないとな。

 

 皆に注目され緊張した様子のティアネだったが、意を決したのか自らのことをゆっくり語り始めた。

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