ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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219話:ゆるキャラとリング

「つまり内気なティアネは人種ぶっころ上等で戦闘民族な同族に嫌気が差していて逃げたいけど、スパルタな実父がそれを許してくれないと」

 

「ええと、はいそうです……」

「もうちょっと言い方はないのかしら」

 

 ゆるキャラの簡潔なまとめにティアネとリリンは何故か不満そうだが、内容自体は合っているようで二人とも首肯する。

 

 ティアネの態度を見ていて感じたのは、確かに彼女は内気なのだろうということだ。

 恵まれた肢体を小さく丸めて、目線を合わせずか細い声で必死に自分の事情を説明してくれていた。

 

「ティアネが争いを好まない性格なのはよく分かった。その割に実力を試すために俺を襲った時は鬼気迫るものがあったけどな」

 

「それはトウジさんがリリン様と仲良く話していたのを見ていたら悔しくなって……。だって私はリリン様と流暢にお話できないのにずるいじゃないですか」

 

 そう言うとゆるキャラを見つめるティアネの目に昏い炎が宿った気がする。

 ……どうやらティアネはヤンデレ気質のようなので、彼女の主人であるリリンとは適切な距離を保っておいたほうがよさそうだ。

 

 ゆるキャラのもこもこの毛皮を撫でまわそうと、その主人がゆるキャラににじり寄って来ていたが焚火を挟んで反対側に移動してブロックする。

 

「トウジ、本気で邪人や闇の眷属と慣れ合うつもりなのか?そいつらは我やレキの同胞を殺した連中かもしれないのだぞ」

 

 結構フレンドリーな闇の眷属に対して憎悪を滲ませているのはイルドだ。

 ようやく彼女たちの言葉を直接聞き取れるようになって、感慨もひとしおだが今は置いておく。

 イルドは少しでも隙があればリリンとティアネを貫いてやる、と言わんばかりに得物の槍を握りしめていた。

 

「その件だけど……本当に二人は亜人の村襲撃とは無関係なんだな?」

「そうよ」

「そしてもしティアナの父親たちが犯人だった場合でも、敵討ちの邪魔はしないと」

 

「ええ約束するわ。そもそも私たちはいつも留守番だから、この子のパパたちが外で何をしているかなんて知らないの。何かしていたとしても荒事を嫌う私たちが養護する義理もないわ。身内であろうが関係無くね。それに彼らも襲う以上、逆襲される覚悟はとっくにしてるでしょう」

 

 ティアネ以外のトロールたちは、どこかのギャングスターみたいなスゴ味のある連中のようだ。

 

 荒事を嫌う、ねえ。

 昨晩汚いお嬢様言葉で独り言をしつつ、ノリノリで人族相手に無双していたのは誰だったのだろう。

 

「二人はこちらの邪魔をしないそうだから、無理に敵対して敵を増やすようなことはしない方がいいだろう。思う所はあるかもしれないが、ここは堪えてくれないか」

 

 リリンの言葉が理解できないイルドとレキに内容を補足しつつ説得する。

 《意思伝達》の効果がある魔術具のペンダントを借りているおかげで、ゆるキャラの会話は全種族、双方向にクリアーになったがイルドたちは違うからだ。

 

 ややこしいし手間だが、今までに比べればなんということはない。

 ユキヨの通訳は有難かったが情報の解像度が低いのが難点であった。

 

 まともにコミュニケーションできるとゆるキャラが喜ぶ一方で、不貞腐れているのがそのユキヨだ。

 ゆるキャラが自分の通訳無しで会話しているのが不服のようで、白いふわふわの綿毛をパーマをあてたみたいに縮らせて主張している。

 

 その姿は宙に浮かぶ小さくて白いアフロだ。

 ウニになったりアフロになったりと感情表現の手段が豊富でほっこりするが、当人は至って真剣に怒っていた。

 後で〈商品〉の饅頭かプリンを進呈して機嫌を取っておこう。

 

「養護しないのは確約してもらうとして、敵対……つまりこっちに協力はしてくれないのか?」

「ティアネはいいけど私は無理ね」

「え、それは逆じゃないのか?」

 

 戦力的にリリンが加勢してくれるなら助かると思っての質問だったが、何故かリリンはNGで逆に身内のティアネはOKらしい。

 

「言ったでしょうスパルタだって。トロール族は常に強さを求めているの。だから家族であっても己の強さの糧になるなら容赦しないし、弱ければ鍛えようとするわ。そこで加減なんてしないから修行中に死ぬこともよくあるの。だから内気で弱いティアネが歯向かうのは喜ばれるでしょうね」

 

 性格はともかく、ティアネはあれで弱い基準なのか。

 あとトロール族の脳筋具合が酷い。

 

「私はトロール族に色々と借りがあるから表立って敵対はできないわ。ちなみにそのペンダントも借りに含まれていて、ある人の形見みたいなものだから大切にしてね」

 

 リリンがゆるキャラの掌の上にあるペンダントを指差してそう言った。

 そのペンダントのトップはリングを三つ重ねたように絡み合っていて、それぞれ違う金属なのか輝き方が違っていた。

 アクセサリーには疎いゆるキャラの中の人だが結構お洒落だとは思う。

 

 四次元頬袋には今も沢山の竜族の財宝が眠っていて、その中にはアクセサリー類もあるがそれらより洗練されている気がする。

 現代のブティック(死語)に並んでいそうだ。

 

 これがどうトロールやリリンと関わっているのだろうか。

 敵方に由来する魔術具のようだが、道具に罪はないので有難く大切に使わせてもらおう。

 

「ところで今晩はここで野宿なの?折角ならうちの拠点に来ない?歓迎するわよ」

「うちの拠点って、思いっきり敵地じゃないか。さすがにそれは……」

 

 ちらりとイルドとレキのほうを見ると、視線の意味が分からず二人は首を傾げた。

 さすがにゆるキャラも敵地で歓迎されても落ち着かないなあ。

 

 なので断わろうとした時、焚火に近付く何者かの気配を察知してエゾモモンガの耳がぴんと立った。

 

「ちょっと話をさせてもらってもいいかい」

 

 両手を上げて敵意が無いことを示しながら現れたのは、軽装の皮鎧姿の中年男だった。

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