ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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220話:ゆるキャラと情勢

「へー、中は結構しっかりしてるんだな」

「そうだろう?夜でもうっすら明るいし、空気の流れもあるんだ」

 

 得意そうにオズワルドがゆるキャラに説明する。

 彼は古戦場跡の東部を支配する〈冬東(とうとう)協会〉の幹部で、焚火を囲んでいたゆるキャラたちに接触してきた。

 

 なんでもこちらと協力関係を築きたいのだとか。

 イルドとは旧知の仲で信用できる男だというので、素直にご招待に応じることにした。

 

 案内された砦は外観は朽ち果てる寸前といった雰囲気だったが、内部は多少古びていはいるが石造りのしっかりした建物だ。

 

「自動修復が働いているわけでないみたいだから、迷宮というよりは遺跡に近いのかね」

「トウジさんはなかなか詳しいようで。この辺では大昔に闇の眷属と人種が戦争してたらしい。その頃の遺産が結構残っていて、俺たちが住み着いているというわけさ。昔の人種は今より文明が進んでたようだな」

 

 砦の内部を進んでいくと、他のすれ違う構成員たちは驚きの表情を浮かべながら道を開ける。

 彼らの視線は巨大な少女とゴスロリ少女に釘付けだ。

 

 それぞれ天敵である邪人と闇の眷属なんだから、そりゃそうだろう。

 何かと注目されるゆるキャラがここまで目立たないのは珍しいな。

 

 目的の部屋に到着するとそこは会議室のような広い場所で、数名の男たちと老人が一人が待ち構えていた。

 

「皆様方ようこそおいでくださいました。〈冬東協会〉の長を務めるダンデルといいますじゃ」

「ダンデル爺、久しぶりだな」

「イルドも元気そうでなによりじゃ」

 

 ゆったりとしたローブ姿のダンデルは、蓄えた白髭を撫でながらふぉふぉふぉと笑っていた。

 他の男たちはオズワルド同様に幹部だと紹介される。

 

 誰もが邪人と闇の眷属の存在に怯えを隠せないでいるが、ダンデルとオズワルドだけは違った。

 内心はどうであれ表面上おくびにも出さないのは、なかなか肝が据わっているのではないだろうか。

 

「〈冬東協会〉には色々と世話になってるんだ。前に話した通り亜人が人族と取引しようとすると、面倒事が多いからな」

「あー、足元を見られるってやつか」

 

「亜人だからといって第三位階冒険者の不興を買うような態度を取るなんて、街の連中は愚かな奴らだよ」

「というわけでこいつらは人族の中ではまともな方だから安心しな」

 

 オズワルドの言葉に便乗してイルドがレキに話を振る。

 レキは人族(だけでなく邪人と闇の眷属もだが)を警戒してイルドの背中にしがみ付いたままじっとしていた。

 

 オズワルドが安全性をアピールして手を振るが、まだ信用しきれないのかレキの眼差しは胡乱げだ。

 兎形族の女の子と打ち解けられず、オズワルドおじさんはがっくりと肩を落としていた。

 

「お呼び立てしたのは他でもない、そちらのお二方についてですじゃ」

「あら?私たちになにか用かしら」

 

 ダンデルが視線を向けると、それまで大人しく付いてきていたリリンが小首を傾げた。

 リリンはゆるキャラ以外とは言葉が通じないので、通訳を買って出るついでに現在の状況も説明してもらう。

 

 まず古戦場跡には〈冬東協会〉、〈ノーザンナイツ〉、〈シュド連盟〉という三つの勢力が存在した。

 名前から察せる通りそれぞれが古戦場跡の東部、北部、南部を縄張りにしている。

 

 残された西部は大きな組織の存在しない空白地帯だったのだが、そこに現れたのが新興組織の〈トリストラム〉だ。

 

 ちなみに各組織の名前が漢字、英語、フランス語混じりなのは《意思伝達》が翻訳を頑張っているからである。

 当然この世界にそれらの言語は無いので、《意思伝達》がゆるキャラに理解できる言語に置き換えているのだ。

 他の面子にはこの土地の異なる三言語が合わさった組織名として認識されているのだろう。

 

 さて〈トリストラム〉だが、ここ一ヶ月ほどで西部の大手に所属していない犯罪者たちをまとめ上げ、第四の勢力としてあっという間に成長した。

 そしてリリンとティアネは〈トリストラム〉所属の留守番要員で、昨晩は〈ノーザンナイツ〉と〈シュド連盟〉の襲撃に応戦していたのであった。

 

「〈冬東協会〉は参加していなかったのか」

「うちは穏健派じゃからの。他の二陣営は〈トリストラム〉の上層部の不在を察知して攻め込んだようだが、その結果が昨晩の有様じゃ」

 

 昨晩の戦闘は〈トリストラム〉が防衛に成功したので、襲撃は失敗に終わっている。

 もしゆるキャラがリリンと交戦して途中退場させていなければ、〈ノーザンナイツ〉と〈シュド連盟〉の構成員にはもっと酷い被害が出ていただろう。

 

「我々としてはこれまで通り三すくみの関係が理想なのじゃ。力関係が崩れてしまうと、それぞれに所属している人々の暮らしも危うくなるからの。〈トリストラム〉は表向きは人族の組織だが、背後に邪人と闇の眷属がいることはわかっておる。その中でも話ができそうなそちらのお嬢さんがたと〈協定〉の相談をしたかったのじゃよ」

 

「街の連中は邪人たちの存在すら知らなかったぞ」

 

 ゆるキャラが冒険者ギルドがトロールの討伐部隊を編成中だと伝えると、ダンデルはさもありなんと首肯した。

 

「あやつらは都合の悪い事をこちらに押し付ける一方だからの。臭いものには蓋というやつじゃな」

 

 臭いものには蓋……こういった慣用句やことわざも翻訳されているわけだが、現地語で似たような言い回しがあるのだろう。

 現地語を勉強する機会があれば翻訳無しで聞いてみたいものだ。

 

「逆にこちらは街に間者を送っているから、討伐部隊のことも把握済みじゃて」

 

「トウジには既に言ってあったけど、私たちは〈トリストラム〉から抜けるわ。だから砦でのお留守番も昨日で終わり。でも〈トリストラム〉討伐には協力しないからそのつもりでね」

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