ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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221話:ゆるキャラと宿泊

「ふむ、それでは協定は結べないか。冒険者ギルドの手配する討伐部隊に期待するしかないのう。なんでも第一位階冒険者の〈神の手〉を招集するそうじゃ」

 

 これまた随分と格好良い二つ名の冒険者が呼ばれるようだ。

 別名守護天使かな?

 

 第一位階ということはヨルドラン帝国の〈国拳〉オグトと同等の実力者か。

 それだけの強者が来るならトロールにも対抗できるかもしれないが、問題はいつ到着するのかだ。

 

「イスロトの街までは早くても二週間、遅ければ一ヶ月はかかるかのう」

 

「トロールたちは今いないって話だが、いつ帰ってくるんだ?」

 

「さあ?明確な予定があるわけじゃないから分からないわ。ここを拠点にしてからの日数のうち、半分は砦を空けているわね」

 

 砦を空けている理由は勿論、創造神の生み出した人種の虐殺のためである。

 ここ数日の間にレキとイルドの村がその犠牲になった。

 今もどこかの村が襲撃されているのかもしれない。

 

「私たちは北東の山脈を越えてやってきたの。向こうでは大層な通り名で呼ばれてたみたいよ……なんだったっけ?」

「〈絶滅をもたらすもの〉、です」

 

 リリンの問いにティアネが言いたくなさそうにか細い声で答えた。

 こちらもまた負けず劣らず格好良い通り名だな。

 たった二日で亜人の村を二つ壊滅状態にしているのだから、その名に偽りは無いと言えるだろう。

 

 亜人の村の顛末を聞いてダンデルが顏を曇らせた。

 

「イルドよ、生き残った騎馬族をここに連れてくるつもりはないか?わしらなら亜人だからといって差別せずに迎え入れられるぞ」

 

「申し出はありがたいが、亜人のことは亜人たちだけでなんとかする。ダンデルのことは信用しているが、それ以外は信用できない。レキもそうだろう?」

 

「……うん」

 

 兎形族の少女はリリンたちと遭遇してからずっとイルドの背に乗っていて、周囲の警戒を解いていない。

 常に緊張感を漂わせていて、見ているこっちまで肩に力が入りそうだ。

 

 情報交換が終わり次第、お暇したほうが良いだろう……と思っていたのだが結局今晩は〈冬東協会〉の部屋を借りることになった。

 ダンデルが食い下がったのと、リリンが屋根のあるところで寝たいとゴネたからだ。

 

 〈トリストラム〉から離脱したのでリリンもティアネも現在は宿無しとなっている。

 え、もしかして協力関係にある間はその辺の面倒も見ないと駄目なのか?

 

 リリンはお嬢様感が凄いし、ティアネも神経質で潔癖症っぽい。

 清潔さは四次元頬袋に仕舞ってある〈聖杯〉から生み出した聖水で浄化すればいいが……って吸血鬼のリリンに使ったら大変な事になるな。

 まあ普通に対リリンの奥の手で、昨晩使いかけたわけだが。

 

 ダンデルが食い下がったのも只の老婆心のようで、落ち着かないレキのために部屋も二部屋用意してくれた。

 今頃イルドと一緒に仲良く寝ていることだろう。

 ゆるキャラも本当はそこに混ざっているはずだったが……。

 

「かんぱーい!」

 

 リリンがグラスに入った赤い液体を傾ける。

 小さい喉をこくこくと鳴らしながら一気に飲み干すと、口の端から垂れた雫を舌で舐め取った。

 その仕草は様になっていて、幼い姿に似合わない蠱惑的な笑みを浮かべながらゆるキャラに顔を近づける。

 

「とっても美味しいわ。なんていったかしら、この……ハース?」

「ハスカップワインな。ハスカップというのは俺の故郷で取れる酸味の強い果物だ」

 

 リリンが飲んでいるのは生き血ではなく、ゆるキャラが進呈した〈ハスカップワイン〉だ。

 ティアネは未成年なのでワインではなく〈ハスカップジュース〉を渡してある。

 

 彼女は大きな背中を丸めて、両手でコップを包み込むように持ってちびちびと飲んでいた。

 ヴェールの下の唇が弧を描いているので、どうやら気に入ってくれたようだ。

 

 これらは四次元頬袋の機能のうちのひとつを使って取り出した〈商品〉である。

 どれも北海道胡蘭市に実在する特産品で、パッケージが完全再現されるだけでなく表示されている消費期限は常に最新のものになっていた。

 

 これは地球とアトルランが遠く離れてはいるが、空間としては繋がっている可能性を示唆している、のかもしれない。

 商品が取り寄せられているのか、複製されたものなのかは分からない。

 前者なら元職場に多大なる迷惑をかけていそうだが、知る術はないのでゆるキャラは考えるのをやめた。

 

「ふうん。手品みたいに剣を取り出していたと思ったけど〈次元収納〉だったのね。マルズお兄ちゃんの加護とどっちが収納力があるかしらね」

 

「マルズお兄ちゃん?」

 

「ええ。ティアネのお兄ちゃんよ。〈空虚神の加護〉持ちで、あなたと似た次元収納を扱えるわ」

 

 リリンがゆるキャラの灰褐色の毛並みをまさぐりながら教えてくれる。

 目の前の上気した顔から零れる吐息は甘くて微かに酒気を帯びていた。

 

 空虚神とは邪人であるトロールが信仰している神で、つまり外様の神である。

 名前のとおり空間にまつわる権能を有しているようだ。

 

 ゆるキャラかリリンたちの部屋に訪れて商品を振る舞う理由は、ひとえに情報収集のためだ。

 トロールたちとの戦闘は冒険者ギルドが招集している討伐部隊に任せるつもりだが、相手戦力情報の収集くらいはしておいたほうが良いだろう。

 

 というかリリン相手の情報収集は規格違いの《意思伝達》を何故か受信できるゆるキャラしかできないし、彼女たちと行動を共にしている限りトロールたちと遭遇、戦闘になる可能性も大いにある。

 だからゆるキャラ自身が知っておく必要もあった。

 

 意外なのはこの場にユキヨがいることだ。

 少し前までリリンに突かれてウニのように毛をぴんとそばだてていたのに、今は目の前にいても気にせずハスカップジュースを飲んでいた。

 白い球体がグラスに入ったジュースに浮かんでいる光景はコーラフロートにしか見えないが。

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