ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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224話:ゆるキャラと尋問

「うう、ここは……ひいいいいいいいいっ」

 

 チンピラは目を覚ますと、正面で腕を組み仁王立ちしていたゆるキャラを見て恐慌状態に陥る。

 慌てて逃げようとするが椅子にロープで縛り付けられているため、その場に倒れるだけで逃げられない。

 

 ここはチンピラが脅していた女性、ミルラさんの父親が営む食堂〈ナーシィのおせっかい〉亭である。

 イスロトの街の中通りにひっそりと佇む店舗で、料理の美味さと安さが売りの隠れた名店……だったのは一昔前までのことなんだそうだ。

 

 倒れたままじたばたと暴れるチンピラを眺めるゆるキャラの背後で、気弱そうな中年男性がこちらの様子を伺っている。

 彼は店主でミルラの父親のリチャードだ。

 その傍では長女のミルラと活発そうな少女、次女のハルナもいてこちらをじっと見つめている。

 

 袋小路でチンピラが気絶してしまい困り果てたゆるキャラに、ミルラは気丈にも礼を述べたあと店へ運ぼうと提案してきた。

 なんでも父親の借金の真偽について確認したいとのこと。

 

 他に連れて行く当てもないので、ゆるキャラは承諾したのであった。

 活きのいいチンピラは五分ほどしてようやく大人しくなってきたので尋問を開始する。

 

「まずはリチャードさんの借金の話からしようか。結構な金額を毎月支払ってるらしいが、本当に利息分だけなのか?」

 

「ったりめえだろ。あんなはした金で元本が減るわけねえだろ」

 

「そ、そんな。借りる時に半年で返済できるって言っていたじゃないですか」

 

 背後でリチャードが悲痛な声を上げている。

 ゆるキャラはこの世界の金銭感覚には疎いので、利息額が妥当かどうかの判断はつかないがそれ以前の問題か。

 

「返済額は借り入れ時の店の売上の三割分って約束だ。売上が落ちたからって返済額も落としたら予定が狂うのは当たり前だろうが」

 

 ゆるキャラと姉妹が振り向くと、リチャードは気まずそうに目を反らす。

 父親が利息分しか返せていないことを理解してゴネていると悟ったようで、ミルラは柳眉を逆立てて激高した。

 リチャードの胸倉をつかんで激しく揺さぶる。

 

「父さん!なんでそんな勝手な借金をするのっ。売上から三割も取られたら日々の生活すらままならないじゃない」

 

「そ、そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。土地代の支払い期日が迫っていたんだ。払わなければこの母さんとの思い出が詰まった、大事なこの店を手放さなければならなかったんだぞ」

 

 つまり借金を返すための借金だったわけか。

 普通にあかんやつだな。

 

「そして今月分の支払いがまだだ。金が無いなら何かを売らないとな。店が売れないなら娘しかないだろうが。ああん?」

 

 倒れた椅子に縛り付けられたままチンピラが凄むが、ゆるキャラが視線を送ると「ひっ」と短く悲鳴を上げた。

 

「……父さん、私決めたわ。この身を売るわ」

「ミルラ!?何を言うんだ」

「だってしょうがないじゃない。お店も妹も売るわけにはいかないんだから、私しかいないじゃない」

 

「おねーちゃんどっか行っちゃうの?」

「ごめんねハルナ。お店とあなたを守るに仕方ないの」

 

 いまいちピンときていないのか、首を傾げているハルナをミルラが強く抱きしめる。

 

 長女が売られるという悲しい展開だが、しょうがないじゃないかを連呼されるものだから、ゆるキャラの脳内では某BGMが再生されてしまっていた。

 頭を振って鬼ばかりなBGMを消し去ると、チンピラへ問いかける。

 

「借用書はあるのか?」

「たりめえよ。娘を売るための売買契約書も懐に仕舞ってある」

「用意周到だな」

 

 チンピラの懐をまさぐると二枚の羊皮紙が出てきた。

 当たり前だがどちらもこの世界の文字が並んでいて、《意思伝達》に頼りっきりのゆるキャラには読むことはできない。

 

 多少古ぼけているほうが借用書で、真新しいほうが売買契約書なのだろう。

 ミルラに引き渡すと両方の羊皮紙を確認し始めたので、その間にこちらの要件を済ませるとしよう。

 

「次に他の白い毛皮ってなんのことだ?詳しく話せ」

「誰がてめえなんかに話すかよ……ひいいいい、わかった、わかったって」

 

 指先の鋭い爪をにゅっと伸ばし、鼻頭に皺を寄せ、多少殺気を漏らしながら威嚇するとチンピラはあっさりと白状した。

 

「つっても俺も詳しくは知らねえ。ただ二日後に裏ルートで流す品物が入るから、その準備をしろってボスに言われただけだ。その品物が白い毛皮だとしか聞いてねえ」

 

「ふむ、ならそのボスとやらに合わせろ」

「居場所はわからねえ。どこかに出かけちまってる。ただ二日後にアジトに戻ってくるはずだ。品物を持ってな」

 

「連絡手段はないのか?」

「ねえよ。正直に言うと連絡手段どころか、ボスの顔すら俺たちは知らねえんだ。だから探しようがねえ。アジトでも部屋を仕切ったカーテン越しに、幹部の姐さんが俺たちに指示を出すだけだ」

 

「リリンが闇の眷属だって知らなかったのか?」

「何で姐さんの名前を知ってるんだ!?……まさかてめえが姐さんとやりあった亜人か!」

 

 白い毛皮と聞いて大量の血痕を残して消えた兎形族を連想したわけだが、状況証拠からして間違いないだろう。

 どういうつもりか分からないが、トロールたちは捕らえた兎形族を毛皮にして売るつもりのようだ。

 大量の血痕から察してはいたが、彼らの命はもう……。

 

「ああそうだ。で、知らなかったのか?」

「姐さんとも最低限の接触しかないから気が付かなかった。もしかしたら魔力を隠す魔術具を身に着けていたのかもな」

 

 邪人や闇の眷属は体に纏わせている魔力が異質で、感覚的に分かるんだそうだ。

 ゆるキャラはその魔力の感知が苦手なので分からなかった。

 既存の感覚で例えるなら変なにおいがするとか、どす黒いオーラを纏っているとかだろうか。

 

「それで相手が闇の眷属だと分かっても〈トリストラム〉を抜けないのか?」

「逆に報復が怖くて抜けれねえよ。組織として瓦解していない以上、仕事はこなさねえとどんな目に遭うかわからねえ」

 

 非合法な組織故に、その統率には暴力による恐怖が効率的に使われる。

 報復を想像したチンピラの瞳には、ゆるキャラを見る時以上の怯えの色が浮かんでいた。

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