ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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226話:ゆるキャラとごちそう

「トウジさんおはよう!朝ごはんできたよー」

「ん、おはよう」

 

 ノックもせず扉を開けたハルナが、ベッドに寝ているゆるキャラの腹に飛び込んでくる。

 気持ちよさそうに灰褐色の毛皮へ頬擦りしてくるので、よしよしと頭を撫でると気持ちよさそうに目を細めた。

 

 ここは〈ナーシィのおせっかい〉亭二階の居住スペースにある客室だ。

 

「ユキヨちゃんもおはよう!」

(おはよー)

 

 ゆるキャラの毛皮に同化していたユキヨが、空中にふわふわと浮かんでハルナと挨拶を交わす。

 約束通り宿泊させてもらっているわけだが、昨晩は問題が解消されて張り切ったのか、リチャードが腕によりをかけた料理でもてなしてくれた。

 

 隠れた名店?と噂されるだけあって、大変美味しく頂きました。

 飾らない庶民的な料理ばかりだったので、ザ・庶民のゆるキャラの舌に良く馴染んだ。

 

 これでもし閑古鳥が鳴くような店だったら、ゆるキャラが現代知識を生かして新メニューを開発する羽目になっていたかもしれない。

 まあ万年フリーターだったゆるキャラの中の人に大した知識はないので、見様見真似で作った殺菌が不十分なマヨネーズで全員腹を壊してバッドエンド、とかにならなくてよかったよかった。

 

 最初はおっかなびっくりだったハルナも、昨晩ですっかり打ち解けて懐いている。

 止めないといつまでも頬擦りしているので、脇の下に手を差し入れ持ち上げてベッド横に降ろす。

 

 このくらいの子供に甘えられていると、ぐりぐりとした角の感触や顔周りを飛び回る気配を思い出してしまう。

 寂しいと思う気持ちはぶるぶると頭を振って霧散させた。

 

「兄貴!おはようございます!」

 

 一階に降りると〈トリストラム〉所属のチンピラ、ジキンが待ち構えていた。

 何故か中腰になって膝に手を付き頭を下げるという極道スタイルで挨拶をしてくる。

 この世界にも極道という概念があるのか…?

 

「いつから俺はお前の兄貴になったんだよ」

 

「いやだなあ、つれないことを言わんでくだせえよ。兄貴の依頼はちゃんとこなしますから協会の件、よろしく頼みますよ」

 

「お前を紹介するのは別にいいが……金や暴力になびいてすぐに裏切るやつが信用されると思うなよ?」

 そう、こいつはあれだけ報復を怖がっていた〈トリストラム〉を裏切って〈冬東協会〉に鞍替えしようとしていた。

 

「そこは逆にあれっす、金と暴力で支配されているうちは裏切らないから御しやすいってことでひとつ。あと古戦場跡で活動する組織は裏切り裏切られ、吸収消滅なんて当たり前ですからどうってことねえんですよ」

 

「ふうむ、そういうものかねえ」

 

 立場をわきまえているなら別にいいけどさ。

 リチャードの借金も元々は〈トリストラム〉ではない組織から借りていたものだが、その組織が抗争の結果〈トリストラム〉に吸収されたため貸し主が変わっていたのであった。

 

 上層部は無事だが末端が壊滅状態だというのに正体を明かさない。

 唯一正体の知れている幹部(リリン)は失踪。

 

 その幹部と互角にやり合い、更にはリチャードの借金を容易に肩代わりするゆるキャラの背後が〈冬東協会〉と分かってしまえば、ジキンが裏切りを決心するのも仕方ないかもしれない。

 

「面談は今晩だ。それまでに俺の依頼をこなしてくれよ?」

「へい、承知したっす。金額に見合った情報屋を紹介するっす」

「分かってるならさっさとどっかに行ってくれ。他の客が怖がるだろ」

 

 〈ナーシィのおせっかい〉亭は食堂なので準備時間を除いて朝から晩まで営業していた。

 つまり現在も食堂には他の客がいるわけで、柄の悪いチンピラと謎の亜人のやりとりにちらちらと訝し気な視線を送ってくる。

 

「兄貴も結構怖がられて……いや、なんでもないっす。それじゃあのちほど」

 

 再び極道スタイルの礼をしてからジキンは出て行った。

 話が終わるのを待っていたハルナがゆるキャラの腕を引っ張る。

 

「はい、トウジさんの朝ごはんはこっちだよ」

「……おおう、昨晩に負けないくらい豪勢だな」

(すごいね。どれもおいしそう)

 

 食堂の奥のテーブルには朝食とは思えない品数の料理がずらりと並んでいる。

 バイキング会場かと見間違えそうなくらいボリュームもあった。

 

 ユキヨも昨晩はゆるキャラと同様に、リチャードの料理に舌鼓を打っていた(ユキヨに舌は無いが)ので素直に喜んでいる。

 

 ユキヨって雪の精霊の割りに意外と雑食なんだよなあ、なんて言葉に出したら怒られそうだが。

 あと暑さにも特段弱くないみたいで、暖炉のある室内でも平気にしていた。

 

「おはようございます。昨晩はよく眠れましたか?」

「ああ、ぐっすりだったよ」

 

「ああトウジさん、おはようございます。さあどうぞどうぞ。おかわりが欲しかったらいくらでも言ってくださいね。すぐ作りますから」

 

 ミルラだけでなくリチャードもわざわざキッチンから出てきた。

 いやいや、流石におかわりはいらないぞ。

 

 看板娘だけでなく店主まで謎の亜人に接待を初めて、周囲の客の視線が困惑に変わり始めていた。

 まあ折角用意してもらったのだから、冷めないうちに頂こうじゃないか。

 ゆるキャラはこう見えても健啖家だからな。

 

 などと意気込んで食べ始めたが、途中でギブアップしたゆるキャラをよそにユキヨが料理の半分以上を食らいつくしてしまった。

 見た目は拳大の綿毛が料理に触れると、ゆるキャラが四次元頬袋に収納したかのうように消失するから面白い。

 

 妖精族のフィンも食べたら食べた分だけ魔力に変換して体全体に蓄えていたので、ユキヨも胃袋という概念は無いのかもしれないな。

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