ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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238話:ゆるキャラと予想外

 突如現れた絶世の美女に〈冬東協会〉の連中が色めき立つ。

 廊下をすれ違う男連中だけでなく、女も振り返りその美貌に見惚れていた。

 

 足元まである長い黒髪はまるで濡れているように艷やかで、身に纏っている純白のローブとのコントラストが栄える。

 ローブは地母神を信仰する〈地神教〉の信者たちが着ているものに似ているのだが、腰の左右や両脇の下などにスリットが入っていて肌が露出していたり、布地が幾重か重なっていたりと雰囲気は踊り子に近い。

 

 厳かでもあり煽情的でもあるという、絶妙なさじ加減だ。

 

「しかも裸足って寒くないのか?」

「大丈夫だ。ちょっと浮かしているから」

 

 ……浮いている?それは当然地面に対してってことだよな?

 そんな未来の世界の猫型ロボットじゃあるまいし、歩いたり飛び跳ねると特徴的なあの効果音がするとでもいうのか。

 エゾモモンガの耳をすましてみるが、ローブの絹ずれの音しか聞こえなかった。

 

「寒さもこの《温暖》のアンクレットがあるから問題無い」

 

 続けてニールはそう言うといきなり立ち止まり、片足をバレエダンサーのように持ち上げる。

 ローブに負けない色白の素足が大きく露出すると、厳かさが一気に扇情へ傾き周囲の野次馬がざわついた。

 確かに足首に文字のようなものが刻まれたリングが付いている。

 

「普通に厚着も靴も履きたいんだけど、勿体ないとか言って着させてくれないんだよ」

「ああ、うん。分かった。分かったから足を降ろしてくれ」

 

 ゆるキャラには効かないが、他の連中にはこうかはばつぐんだから。

 特に唯一正面にいたゆるキャラからは色々と丸見えだったが、見なかったことにする。

 

「〈神の手〉殿は意外と饒舌なのですね。その調子で我々ともコミュニケーションを取って頂きたいのですが。突然一人でやってきて要望だけ言われても、すぐに対応はできかねます」

 

 我々に同行してきたギルドマスター、ウェルズが渋い顔をしている。

 当初ニールだけ〈冬東協会〉に連れて行く予定だったが、ウェルズが彼女を一人にできないと固持した。

 

 古戦場跡はイスロトの街の外という扱いで法の埒外にあり、無法者の巣窟だ。

 ここで見聞きした余計なことは忘れるのを条件に仕方なく同行を許可した。

 

 国家やそれに準じる組織専属である第一位階冒険者を運用する場合、各方面に報告が必要なんだそうだ。

 ギルドマスターといえど国家規模相手では中間管理職もいいところで、第一位階冒険者を野放しにして行方不明にさせたり死亡させたりしたものなら、物理的に首が飛びかねないらしい。

 

 単身でいきなり乗り込んできたニールの相手をさせられて、ナイスミドルなウェルズの表情は疲れ果てている。

 さすがにちょっと可哀そうなので、後で饅頭でも進呈して労うとしよう。

 

 ウェルズに饒舌だと指摘されたニールは自覚が無かったようで、言われて急に恥ずかしくなったのか頬を赤らめさせながら指で掻いていた。

 

『久しぶりに故郷の言葉で会話できたんだから、嬉しくなっても仕方ないじゃん』

 

 なんとも少年然とした口調だったが日本語だったため、ゆるキャラ以外には伝わらなかった。

 ただ恥じらう仕草だけでギャラリーはざわつくというか盛り上がったが。

 

(んとね こきょうのことばではなせたから むぎゅ)

 

 おおっと、ユキヨも理解できていたか。

 多分聞かれたくないから日本語で言ったのだろうと、空気を読んだゆるキャラはユキヨを掌で包み込むように軽く押さえ込んで黙らせた。

 

 

 

「やっと来たわね。遅かったじゃないの」

 

 前にも来たことのある会議室に到着すると、リリンが優雅に紅茶を飲んで待っていた。

 隣にはティアネもいて普段通り大きい背中を小さく丸めているが、思ったよりは落ち込んではいない……と思いたい。

 

「な!?邪人トロールに闇の眷属だと!」

「はい、約束通り黙っててね」

 

 ひとり驚き慄いたウェルズが何かしらの動きを見せようとしたが、ニールの一言によってその動きがぴたりと止まる。

 まるで見えない手に押さえつけられているかのようだ。

 一目見ただけで看破するとは、伊達にギルドマスターは務めていないわけか。

 

「兎形族の子たちは?」

「別室で眠っているわ。貴方の饅頭を食べたから傷は癒えているけど、心はそうもいかないでしょうね」

 

 特にマルズに鎖で繋がれ引きずられていた子の心的外傷は計り知れない。

 早くレキたち同胞に会わせてあげたいものだ。

 

 少し遅れて〈冬東協会〉の長であるダンデル爺さんと幹部のオズワルドがやってきたが、ニールは端正な顔を露骨に歪ませて嫌がった。

 早くお互いの情報を交換したかったのはゆるキャラも同じなので、戦後処理の続きは明日ということでダンデルたちには退席してもらった。

 

『それじゃあ改めて自己紹介をしよう。俺は野中ニール。約三年前にこの世界にやってきた異邦人だ』

『俺は益子藤治。こっちに来てまだ二か月も経ってないな』

 

 改めて思い起こしてみても濃密な二か月間である。

 日本語で話してリラックスしているのか、ニールの一人称が「俺」に戻っていた。

 

『なんでそんな変な姿なんだ?日本人の男?でいいんだよな?』 

 

『これは俺の住んでた北海道胡蘭市のゆるキャラ〈コラン君〉の姿だ。〈コラン君〉の着ぐるみを来てバイトしてたんだが、トラックに轢かれて死んじゃってさ。で、轢かれた原因を作ったのがこの世界の神なんだが、そいつの計らいでこの姿で転生させられたんだ』

 

『へえ……聞いたことないキャラクターだが、それはまた随分へんてこな姿で生まれ変わったもんだな』

『ニールはどうやってこっちに来たんだ?どの神からどんな力をもらったんだ?』

 

 〈神の手〉と呼ばれているくらいなので、相当に強力な力をもらって転生したに違いない。

 実際に不可視の力でクローグを圧倒し、ゆるキャラも竜族の放つ殺気に負けないプレッシャーを感じていた。

 

『ん?いや俺は神なんかには一度も会ってないぞ。この力は元々持っていた超能力、【念動(サイコキネシス)】だ。軍事機密だから詳しくは言えないが、俺は日本連邦国北海道第七師団特攻連隊所属の人造人間だ。階級は大尉だったんだが、今は色々あってこの女の体を動かしている』

 

 …。

 ……あー、うん。

 

『ちょっと待って。思ってたやつと違う!』

 

 急に猛烈な頭痛と眩暈に襲われた気がするゆるキャラである。

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