ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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246話:ゆるキャラと巨・独楽

「まったくもう。私は石材屋じゃあないのだけれど」

 

 文句を言いつつもリリンはきっちりと手……ならぬ背中から生えた蝙蝠の翼を動かし続けている。

 彼女の正面にあるのは巨大な岩山で、頑丈そうな岩肌が壁のように(そび)え立っていた。

 

 岩山の幅は五十メートル、高さは二十メートルほどあるのだが、上部は不自然に欠けている。

 リリンが削ったからだ。

 

 本人は岩山の横でふわふわ浮かんでいるだけだが、背中の翼が無数の細かな糸となって岩肌を正方形の形に貫いていた。

 

「はい、できたわよ」

「ん」

 

 合図を受けて横で浮いて待機していたニールが【念動】を発動させる。

 するとリリンの目の前の岩肌が音も無く手前にスライドして、二メートル四方の立方体となった岩がせり出した。

 

 角砂糖のように整っているが、その体積も重量も当然比べ物にならない。

 もしそのまま落ちてきたら岩山の下にいるゆるキャラはぺしゃんこだが、超重量の巨石は見えないリフトに吊られているかのようにゆっくりと降りてきた。

 

 そして頭上に来たところでゆるキャラはそれを〈四次元頬袋〉に仕舞う。

 頑丈な巨石が萎んだ風船のようにすぼまり、ゆるキャラの口に吸い込まれて消えた。

 

 吸い込んだものはRPGのアイテムウィンドウ画面のような、ゆるキャラだけに見える空間に浮かんだ拡張視覚で確認できる。

 既に飲み込んでいたのも合わせて十数個の巨石が暗黒の四次元空間に整列していた。

 

 〈四次元頬袋〉内部は重量や上下の概念無くゆるキャラが自由に物を動かせられるのだが、巨石を整列させて驚いたのはその正確さだ。

 一通り詰めて並べてみると、幅も高さも均一なので隙間が一切無いではありませんか。

 

「これを敷き詰めたらセルゲームの会場にできそうだな」

 

「せるげ……なんですって?」

 

「なんでもない。それにしても質が良くて固い岩盤を豆腐みたいにサクサク切っちゃうんだな。耳を澄ますと低音の羽音みたいなのが聞こえるけど、切れ味に関係があるのか?」

 

「高速で振動しているのかもしれないな。いわゆる振動剣などと呼ばれているものだ」

 

 ゆるキャラがエゾモモンガの耳をピコピコと動かしていると、ニールが話に乗っかってきた。

 さすがにセルゲームという単語は二人とも知らなかったが、豆腐は知っているらしい。

 ニールはともかくリリンが豆腐を知っているのは何故だろう。

 

「あーSFによく出てくる高速振動した刃で分子レベルで切り裂くってやつね」

 

 どうやら正解に近かったようで、リリンは不貞腐れたように口をつぐみながら作業している。

 話し相手を欲している割に、リリンは自分の事についてはあまり語らない。

 

 もう少し闇の眷属について知識が深まるかと思ったのだが、現在は言動や行動の端々から推察するに留まっていた。

 情報量は少ないが推察すればするほど、一般的な吸血鬼像からは離れていく。

 闇の眷属とは外様の神がアトルラン侵略のために送り込んだ尖兵である。

 

 つまりアトルランの外の世界の住人であり、ゆるキャラやニールと同様に異邦人だと言えなくもない。

 そう考えると純ファンタジーなアトルランの世界観にそぐわないのも納得できるかも?

 

 半日ほどかけて大量の加工した岩石を大量に〈四次元頬袋〉に仕舞って三人で騎馬族の村へ帰還した。

 

 

 

 

「おかえりなさい」

 

 村の入口にある平たい岩場に背中を丸めて座り、ちくちくと編み物をしていたティアネが顔を上げて出迎えてくれる。

 攻撃的な種族性を持つトロールではあったが、彼女自身は暴力が嫌いで裁縫や編み物、料理が得意なのだ。

 

 その周りでは騎馬族と兎形族の子供たちがのびのびと遊んでいる。

 ティアネは子供たちの護衛兼子守りであった。

 

 一応ユキヨもそうなのだが、子供たちと一緒になって遊んでいるのでノーカウントだ。

 存在進化して戦えるようになったと豪語していたが、正直あてにはしていなかったので別に良いのだが。

 

 イルドの提案は受け入れられ、騎馬族の村と兎形族の村は合併することになった。

 兎形族の村は山間にあり平地が少なく、騎馬族としては暮らしにくかったので兎形族の皆が騎馬族の村へ移り住むことに。

 

 その際どちらの村を存続させるかで少し揉めた。

 兎形族としては平地が続き広い場所だと魔獣に襲われるのではと危惧したのだ。

 

 騎馬族の大人たちが健在なら戦力的に問題は無かったのだが、もう大人はイルドと弟のオルドしか残っていないので兎形族が心配するのは当然か。

 そんな兎形族を納得させたのがニールの言っていた「リリンが切って、トウジが運んで、私が積み上げればいいんだよ」というやつだ。

 

「なあ、こういうのって普通は先に整地するんじゃないのか?乗せただけだと後から傾いたりしそうだけど」

 

「まあまあ見てなよ。とりあえず一個出してくれる?」

 

 子供たちを退避させてから、ニールに促されるまま〈四次元頬袋〉から加工された巨石を取り出す。

 ゆるキャラの口から萎んだ風船が膨らむようにして現れた、二メートル四方の巨大人工物を目にして子供たち(とユキヨ)が歓声を上げていた。

 

 巨石の全貌が露わになると同時に質量も発生して、ずん、という振動と共に自重で地面にめり込んだ。

 そんな超重量の物体だが、ニールが手を翳し【念動】を発動させるとあっさり持ち上がる。

 

 ひとりでに持ち上がる巨石を見て子供たち(とユキヨ)が「ふわあああああ」と感嘆の声を上げた。

 歓声に気をよくしたニールは、立方体の頂点のひとつを支点にして独楽のように高速で回転させ始める。

 

「ちょ、その質量を回転させるのは危ないって!」

 

「大丈夫、大丈夫。誰かにぶつけたり飛ばしたりするようなヘマはしないから」

 

 そう言うけど間近にいると風切り音が凄いんですけど!

 きゃっきゃと喜ぶ子供たちを尻目に、結構ビビりなゆるキャラとしては急に巨石が飛んでこないかと冷や冷やものだ。

 

 子供たちに一通り堪能してもらったところでようやくニールが元の作業に戻る。

 村の入口の真横に巨石をゆっくり下ろすと、制御のために向けていた掌も少し下げた。

 

 すると下方向への力を受けた巨石が地面に更に沈む。

 自重だけの時より倍の、およそ一メートルくらいは埋もれただろうか。

 

「よし、これだけ押し付けておけばこれ以上沈み込むことはないだろう。あとはどんどん積み上げていこう。トウジ、次のを出してくれ」

 

 ピアノの鍵盤を押すように指先を細かく動かし、【念動】で調整しながらニールがゆるキャラに指示を出す。

 そう、ニールは巨石を地面に押し込んで整地しながら積み上げ、村の外壁を作ろうとしているのだ。

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