ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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253話:ゆるキャラと気まずさと

「ひぃっ、もうおしまいだああああ」

 

「ふっ、僕の活躍もここまでか。だがたとえ僕の肉体が朽ちようとも、この頑丈な鎧は後世まで受継がれるだろう」

 

「だーれがこんな山奥まで拾いに来るのよっ」

 

「あんたはトウジさん、だよな?その後ろの氷熊は……」

 

 冒険者たちも全員無事だった。

 衝撃で気を失っていたものの、ゆるキャラと同様に柔らかい雪と土がクッションになり軽傷で済んでいたからだ。

 

 ゆるキャラが四人を掘り起こしてあげたのだが、舎弟になった氷熊がついてきちゃったものだから大騒ぎ。

 起きしなに自分たちを襲っていた氷熊が目の前にいれば、そりゃまあ驚くか。

 

 十分予見できることなので氷熊にはその場で待っていろと、ユキヨ経由で指示したのだが結局断念した。

 だってついてくるなと拒絶したら、悲しそうな目をしながら鳴くんだもん。

 すっかり牙を抜かれた虎のように大人しくなった氷熊である。

 

「この氷熊だが俺たちが手懐けた?から大丈夫だ、問題ない」

 

「そんな馬鹿なことがあってたまるか。きっとさっきみたいに俺たちを弄んでいるんだ。今にも齧りついてくるに違いない!」

 

「安心したまえ、僕のこの鎧なら氷熊の牙なんてものともしないさ」

 

「よしじゃあわたしらの代わりに食われて犠牲になりな!」

 

 斥候風の中年男は終始怯えていて、全身金属鎧の優男とローブ姿のツインテール少女はずっと漫才のようなボケとツッコミの応酬を繰り返してた。

 二人の顔色は真っ青なので、決して余裕があるわけでもないようだ。

 彼らなりの空元気の出し方なのだろう。

 

「いやいや本当にもう大丈夫だから。……伏せとかできる?」

 

(はい伏せて~)

 

「Vufuuuuuuuu」

 

 少しでも無害アピールになればと言ってみると、ユキヨの号令ひとつで氷熊がさっと地面に伏せる。

 巨体を感じさせない素早くしなやかな動きで、振動どころか周囲の雪を舞い散らすことすらなかった。

 

「ほ、本当に手懐けたんだな。さすが〈混沌の女神〉に仕える〈神獣〉殿。〈神の手〉殿と強力してトロールを倒しただけのことはある」

 

 神官服の女が頬をひくつかせながら、ゆるキャラの背後で伏せている氷熊を見上げていた。

 伏せていても小山のようにでかいからね。

 

「俺たちの事を知っているのか?」

 

「知っているも何もあたしらはギルドマスターに頼まれて〈神の手〉殿を連れ戻しに来たんだからね。そっちのどでかい氷の塊を出した精霊様のことは知らないが、他にトロールの生き残りや闇の眷属がいることは把握してるよ。自己紹介…の前に礼を言うのが先だね。ありがとう、助かったよ。ほらあんたたちも礼を言いな」

 

 神官服の女の言葉でようやく落ち着きを取り戻した他の面々も、ゆるキャラたちに向かって頭を下げた。

 この人たちはギルドマスターの使いだったのか。

 

 ゆるキャラたちが騎馬族の村に滞在してから、間もなく一週間が経とうとしている。

 ニールは〈トリストラム〉に鞍替えしたチンピラのジキン経由で、ギルドマスターのウェルズに伝言を託していたがその詳細をゆるキャラは知らない。

 

 知らないがこうやって迎えを寄越したということは、少なくともウェルズは納得していないのだろう。

 

「あたしらはトロール討伐部隊の一員で、〈神の手〉殿が一人で先行したのを追いかけてきたのさ。追い付いてみれば全部終わってるうえに、探さないでくださいなんて伝言を残して居なくなるもんだから、ギルドマスターはカンカンさ」

 

 改めて自己紹介を終えた後に、やれやれといった感じで神官服姿のアウラが肩をすくめる。

 臆病そうな斥候風の中年男がマットで鎧ボケ担当の優男がルーファス、ツッコミ担当のツインテール少女がナスターシャという名前だ。

 彼らは全員が第三位階冒険者のパーティーで実力はそこそこ、知名度もそこそこなんだとか。

 

「それにしても驚いた。少し前にここいらへ来た時は氷熊の縄張りはもっと山奥だったはずなんだけどねえ。この先にあるはずの岩場も無いんだろ?短い間に随分と様変わりしたもんだ」

 

 大人しく伏せている氷熊に視線を送りながらのアウラの発言に、内心ギクリなゆるキャラである。

 岩場が更地になっているのは当然として、縄張りの変化についても心当たりがなきにしもあらず。

 というか周辺の魔獣の縄張りをゆるキャラが荒らしているので、氷熊が麓まで下りてきた一因である可能性は十分ある。

 

「雪蜥蜴くらいならなんとかなるが氷熊は絶対に無理だ。助けてくれてありがとう……本当にありがとう!」

 

「ま、まあ皆が無事でよかったよ」

 

 感極まったマットが涙をだばだばと流しながらゆるキャラの手を握ってくる。

 きょうび大の大人が大泣きする光景など見ないし、その原因の一端を担っているかもしれないと思うと非常に気まずく落ち着かない。

 

「ニールはこの近くにあるコラ……亜人の村にいるから案内するよ。ついてきてくれ。さてこいつはどうしようか」

 

「Vruuuuuum」

 

(ついてくるって)

 

「えー、暴れないって誓えるか?もし誰かを傷付けたらユキヨが許さないぞ」

 

(うんうん、許さないんだからね~)

 

 特大の《氷弾》でとっちめられたのが堪えたのか、氷熊は怯えた様子で激しく何度も頭を縦に振ると、ユキヨから逃げるようにゆるキャラの後ろに回り込んだ。

 まあ小山のような巨体なので微塵も隠れていないのだが。

 

「あの凶暴な氷熊がここまで怯えるなんて」

 

 そう言いつつもアウラたちは氷熊に近付かない。

 つい先程まで執拗に追い回され、命を取られそうになっていたのだからそれもそうか。

 

 こうして冒険者たちと氷熊を引き連れて、ゆるキャラとユキヨは騎馬族の村改めコラン村へと戻ることとなった。

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