ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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257話:ゆるキャラと肉食

 ニールは夜になっても帰ってこなかった。

 何か問題が発生したのだろうか?

 

 気にしても現時点でゆるキャラたちにできることはないので、明日の朝まで様子を見てそれでも帰ってこなければイスロトの街に戻ることにした。

 

 アウラたちも落ち着かないようだが気にしても仕方がない。

 夕食時に酒を振る舞って気を紛らわせてあげよう。

 

「それで〈エリステイル〉って何なんだ?」

「ぶっ」

 

 ゆるキャラの発言を聞いてリリンが盛大に吹いた。

 丁度口に含んでいた赤い液体が悪役レスラーが放った毒霧のように噴射され、正面に座っていたルーファスに直撃する。

 

「ご、ごめんなさい」

 

「ふむ、新鮮な酸味の後に優しい甘味がゆっくりと広がり、そこに乙女の雫が合わさり―――」

「おいこら舐めるな変態。変な感想を言うな変態」

 

 顔全体にかかり口元に垂れてきた〈ハスカップワイン〉を舐めとりながら変なことを言い出すルーファス。

 ナスターシャは素早く手近にあった布巾を取り、優男の顔面に押し付けて黙らせていた。

 

「知っているのかリリン」

「さ、さあ?なんのことかしらね」

 

 流暢な解説を期待したが、リリンはわざとらしくゆるキャラから顔をそむけた。

 アウラたちの歓迎会も兼ねた食事会には、ゆるキャラ一行以外に騎馬族代表のイルドとオルド、兎形族からはレキとミーナ、ドヴェルグ族からは元村長のグノバというお爺さんも参加していた。

 

 ゆるキャラが提供したワインや大吟醸の効果もあり、非常に和気あいあいとした雰囲気でテーブルを囲っている。

 

 亜人と人族もそうだが、そこに闇の眷属(ミディアン)と邪人が混ざって仲良くしているというのは相当に珍しい光景に違いない。

 亜人たちに関してはひとえにニールの【精神感応(テレパシー)】でお互いの心の内をオープンにしたおかげである。

 

 天敵同士という概念に囚われることなく、互いの心が通じ合えば仲良くなれるというわけだ。

 もちろんどちらも敵意がないことが前提になるのだが。

 

 そういう意味では【精神感応】を介さず闇の眷属や邪人に友好的に接しているアウラたちは凄いのかもしれない。

 

 事前にゆるキャラとユキヨが魔獣の氷熊を手懐けるという、これまた通常では考えられない光景を目の当たりにしていたからだろうか?

 それとも状況にすぐさま対応しないと命に係わる冒険者ならではの適応力だろうか?

 しかし冒険者なら余計に脅威となりえる相手を容易に信用してはいけない気もする。

 

 打ち解けた一因としてルーファスのリリンに対して物怖じしない、軟派な態度も大きかったか。

 まさか打ち解けるためにわざと軟派や変態じみた行動を取っていたり……はないか。

 あれは本気だったな。

 

「エリなんだって?」

「ミーナお姉ちゃん知ってる?」

「さぁ?」

「聞いたことがないのう」

 

 〈エリステイル〉という知らない単語を聞いて亜人たちが一様に首を傾げている。

 リリンの横でちびちびと〈ハスカップジュース〉を飲んでいるティアネにも視線を向けてみたが、彼女も首を左右に振った。

 

「あたしたちも詳しい事はなにも聞いてないんだよ」

「この中で知っているのはリリンだけみたいだな」

 

「……言いたくても言えないのよ」

 

 いつも余裕たっぷりな彼女にしては珍しく俯き加減になり、隣りのゆるキャラに辛うじて聞こえるくらいの小声で呟いた。

 まるで誰かに聞かれまいとするように。

 さらさらと流れる銀髪の向こう側では、宝石のように綺麗な碧眼が動揺で揺れていた。

 

「知らないじゃなくて言えない、なんだな。ということは何かへの義理立てか、言うことによって何かしらのペナルティーが発生するのか、それとも言うこと自体できないのか」

 

 探りを入れるゆるキャラに対して無言でかぶりを振るリリン。

 闇の眷属であるリリンが存在を知っていて、異邦人のニールが探しているという〈エリステイル〉。

 

 二人の共通点と言えば果たしてなんだろう。

 

「俺が適当に予想を喋るからリリンの反応を、ってのもやめた方がよさそうな雰囲気だな。もう一度ワインを口に含んで吹いてもらうかとも思ったんだが」

 

 なんとなく昔バラエティー番組であった、牛乳を口に含んだ相手を笑わせて吹き出させる企画を思い出した。

 スーパースローでしつこくリプレイするやつね。

 

「僕は一向に構わないよ。さっきは邪魔が入ったから今度こそ味を噛み締め―――」

「黙れ変態。さっき舐めた分も吐き出せ」

 

 我々の業界ではご褒美です、とでも言わんばかりにきりりとした表情で宣言する優男。

 間髪入れずナスターシャがルーファスの首を絞めながらの、なかなかハードめなツッコミを入れている。

 

 いつものことなのかそれを見て酒も入り赤ら顔でゲラゲラと笑うアウラと、ニコニコ見守る親戚のおじさんことマット。

 釣られて笑い出すミーナたち。

 

 リリンの深刻そうな態度により漂った緊張した雰囲気も、すぐに霧散してしまった。

 やっぱりルーファスは場を和ますために狙ってボケたのだろうか?

 ……いや、目が本気だな。

 

 〈エリステイル〉についてはニールから聞けばいいか。

 

 結局ニールは翌朝になっても帰ってこなかったため、ゆるキャラたちはイスロトの街に戻ることが決定した。

 

 ちなみ兎形族の自称行き遅れミーナお姉さんは、最初にぶっちゃけた以降酒席の度にゆるキャラの貞操を狙ってくるので、毎回酔い潰すのが定番だ。

 兎なのに肉食系な困ったお姉さんである。

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