ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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258話:ゆるキャラとCP

艱難(かんなん)を賜はす煉神よ 鈍なる躯体を解き放ち 御許へ至る標を示せ』

 

『万象の根源たるマナよ 痩躯を大兵へ 非力を大力へと促し成せ』

 

 詠唱により構成が展開される。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現する。

 

 母娘が優男に唱えた二つの魔術は、見た目こそ地味だが効果は絶大なものであった。

 

「うおおおおおっ」

 

 雄々しく叫びながら、ルーファスが魔獣の群れへと突っ込んでいく。

 その速度は重厚な鎧を着込んでいるとは思えないくらい俊敏だ。

 

 アウラがルーファスにかけた《すばやさ》の魔術のおかげだ。

 新雪を除雪専用列車のように左右に弾き飛ばしながら突進し、群れの先頭へ手にした両手剣で切りかかる。

 

 力任せに振り下ろされた刃が、灰色の毛並みの狼をあっさりと両断した。

 頭蓋から胴体へと左右に分断されると、内部に留まっていた臓物が血と共に溢れ出し、純白の地面を朱に染める。

 

 魔獣の群れとは懐かしの灰色狼の群れであった。

 灰色狼といえば、ゆるキャラがこのアトルランという世界に転生してから初めて遭遇した魔獣だ。

 襲われていた妖精(フィン)を助けるために黄色い鳥足で文字通り一蹴したら、口をあんぐり開けて驚いていたのを思い出す。

 

 別大陸の彼女たちは元気にしているだろうか。

 ちょっとおセンチになってしまうゆるキャラだ。

 

 大陸の管理者たる中柱の神が不在故に、この大陸の魔獣は良く育っていた。

 ルーファスが両断した灰色狼はゆるキャラが過去に一蹴したそれより二回りは大きく、頭の位置が大人の胸くらいの高さにある。

 

 一頭があっさり屠られても十頭ほどの群れは動じなかった。

 他の灰色狼が冷静にルーファスを取り囲み、左右から二頭が同時に襲い掛かる。

 

 一本一本が短刀のように長く鋭い牙がルーファスの両腕に喰らい付いたが、自慢の全身鎧が阻んでいた。

 金属を引っ掻く嫌な音が雪原にこだまする。

 

 灰色狼たちが牙が通らないと分かると、今度は押し倒して唯一無防備な頭部に噛みつこうとするが、ルーファスは動かない。

 

「ふんっ」

 

 押し倒されるどころか圧倒的な膂力で左腕を振り回し、灰色狼の顔面を打ち据える。

 牙を通さなかった頑丈な籠手(ガントレット)が灰色狼の顎を直撃し、骨を砕く鈍い音をさせながら弾き飛ばした。

 

 もう一頭には膝蹴りを食らわせる。

 尖った脛当て(グリーブ)が灰色狼の腹に深々と突き刺さり、空中へ高く打ち上げられた。

 

 一撃で心臓を潰されたのだろう。

 即死した灰色狼は四肢を糸の切れた操り人形のように絡ませ、放物線を描いて飛んでいった。

 

 この力こそパワーの源は、ナスターシャが唱えた《怪力》の魔術のおかげだ。

 二人の魔術でルーファスを強化して突っ込ませる、というのがアウラたちのパーティーの戦い方だった。

 

 なんでもルーファスは没落貴族で、第四位階冒険者には不釣り合いなほど立派な全身鎧は貴族だった頃の唯一の財産だそうだ。

 体の各所を護る全身鎧は砲金色(ガンメタリック)で重厚感があり、意匠も実用性と芸術性を兼ね備えたものとなっている。

 

 また灰色狼の牙を受けても傷一つ付いていない。

 何故ならこの全身鎧は《軽量化》や《強度増幅》、《自動修復》に装備者の《身体強化》といった魔術が付与された名品だからだ。

 

 加えてルーファスは【交易神の加護】の持ち主だ。

 交易神とは名前の通り交易、即ち商売を司る神で、加護による恩恵は計算や記憶能力、人心掌握、品物の取り扱いといった交易に役立つ様々な要素に別れている。

 

 ルーファスはその中でも品物の取り扱い、特に魔術具の能力をより効果的に引き出す加護を授かっていた。

 というわけで元々の鎧の性能に加護の力による底上げ、更にアウラとナスターシャの魔術という相乗効果(シナジー)を得て、ルーファスは究極のパワーを手に入れたのだ!

 

 アウラが相性が良いと言っていたのはこのことだったんだな。

 

 とはいえ究極のパワーもあくまで第四位階冒険者基準。

 さすがに氷熊には敵わず敗走していたわけだが、灰色狼程度の相手であれば十分通用している。

 

 ルーファスが迫り来る灰色狼をちぎっては投げちぎっては投げの大活躍をしている間、ゆるキャラとユキヨ、リリンにティアネの仕事は後衛の母娘の護衛だ。

 

 我々は現在イスロトの街へ帰る道中である。

 コラン村の人々から惜しまれつつ見送られ、氷熊はユキヨの説得(脅し)で山奥の元の縄張りに帰ってもらった。

 

 何度もこちらを振り返りながら去って行く姿はなんとも哀愁が漂うものであったが、コラン村も含めて一度はニール連れて戻ってくるつもりだ。

 外壁を作るという当初の予定は達成しているが、その他が色々と中途半端だからね。

 

 そしてコラン村を出発して暫くした後、雪原から森の入口に差し掛かったところで灰色狼の群れに遭遇。

 皆で戦闘に参加しても良かったのだが、アウラたちの実力を確認しておこうということになった。

 

「しかしルーファスの加護は珍しいね」

「トウジさん、あんたがそれを言うのかい」

 

 ゆるキャラの呟きにアウラの呆れ気味な返事が戻ってきた。

 

「まあ俺の加護のことはさておき、珍しいのは事実だろ?ルーファスみたいな何かに特化した加護持ちは組む相手も限られそうだよな」

 

「それは加護の内容と状況によるね。ルーファスの加護は珍しいけど自己完結してるから割と誰とでも組めるのさ」

 

 ふむ、確かに魔術具の効果を引き出すだけの能力だけだったら持ち腐れだけど、自前の魔術具(鎧)があるから単独で加護の力を十全に引き出せているのか。

 

 ゆるキャラはこれまでに様々な人々に出会ってきたが、それぞれが持つ加護の内容も様々であった。

 一応加護を授かる神の名で大別はされるが、同じ神の加護でも内容がまったく一緒という人は居なかったと思う。

 

 加護の恩恵をゲームっぽく例えるなら、キャラクターポイント(CP)を消費して能力の底上げや追加特徴、または技能を取得している感じだろうか。

 ただし普通のゲームならポイントを割り振る内容はプレイヤー自らが決める事だが、この世界では与えられるポイントの総数から割り振りの内容まで、全てが神の意志(ランダム)だというのだから質が悪い。

 

 混沌の女神の加護によって益子藤治の転生体こと〈コラン君〉が造られたわけだが、果たしてどれほどのキャラクターポイントが使われているのやら。

 英雄候補程度かそれとも英雄相当か?与えられた能力を考えると妖怪レベルでもおかしくないかも。

 

「ルーファスの加護は珍しいけど優秀だね。性格は多少変だが冒険者なら皆どこかしら変なものさ。そしてなにより生まれも顔も良い」

 

 おっと、お母さんは面食いのようだ。

 

「生まれも顔も良くて冒険者として優秀。おまけに純情とはいえ軟派気どりとくれば、いつ悪い女に引っ掛かってもおかしくないね。男女の仲はいつだって早い者勝ちなのさ」

 

 当てつけのようなアウラの台詞に、娘のナスターシャがぎくりと肩を震わせた。

 本人たちは変に奥手だけど、これはもう実質親公認みたいなものだよね。

 

「いやーマットはどこまで行ったのかしらね。母さんの《すばやさ》の効果があるうちに戻ってくればいいけど」

 

 露骨に話題をそらすナスターシャであったが、噂をすればなんとやら。

 斥候に出ていたマットがすごい速さで進路脇の森から転がるようにして飛び出してきた。

 

「すまん!新手だ!撒けなかった!」

 

 必死の形相、というか半泣きで走るマットのすぐ後ろからは、巨大な何かが接近している気配を感じる。

 そう思ったのも束の間、間髪入れずに森から静かに巨大な何かが姿を現す。

 

 それは白銀の毛並を持つ狼であった。

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