ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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260話:ゆるキャラと大魔王(雪女)

 再び放たれた細氷(ダイヤモンドダスト)を迎え撃ったのは、氷熊の口腔から溢れる青白い吐息(ブレス)だ。

 

 細氷と奔流(ビーム)と化した吐息が接触すると、その空間が一瞬で霜に覆われた。

 奔流は細氷を霜で封じるだけでなく対峙している凍原狼、〈風雪〉のリュフへと襲い掛かる。

 

 リュフは咄嗟に飛び退いたが、避けきれず前足に吐息が命中。

 足先から凍り付き、関節付近まで刺々しい霜に覆われてしまった。

 

 しかし吐息は細氷と相殺されて、威力がかなり減衰していたようだ。

 着地と同時にリュフが凍った前足で地面を踏み鳴らすと、霜はぱりぱりと簡単に剥がれ落ちた。

 

 完全に相殺はできないが、致命傷にはならないと理解したのだろう。

 リュフは自らの全面に細氷を盾のように展開して氷熊へ向かって走る。

 

 これに対して氷熊は連続で吐息を放てないため、代わりに巨大な熊手を振り上げていた。

 振るわれた熊手が生み出したのは風圧だけでない。

 

 爪先の空間にびっしりと埋め尽くすほどの大量の霜が生まれ、そこにリュフが突っ込んだ。

 細氷と霜なら発生条件の厳しさや名称からして前者の方が強そうに感じるが、そういうわけでもなかった。

 

 吐息の時と同様で壁のようにそそり立った霜がリュフの細氷を堰き止め、本体の接近すら許さない。

 そして氷熊が再び熊手を振るうと霜の発生範囲が更に広がり、リュフの白銀の体躯を巻き込みながら周囲を覆いつくしてしまった。

 

 今度は氷熊が突っ込む番だ。

 

「Vruuuuuoooooooo!」

 

 人より一回りも二回りも大きいリュフよりも、更に二回り以上は大きい氷熊が霜の壁に体当たりした。

 巨大質量の衝突によって、氷というよりも岩のそれのような破砕音と共に霜の壁が砕け散る。

 

 霜に囚われていたリュフもまとめて砕かれてしまったかと思いきや、雪原に落下したのは霜の破片ばかりであった。

 リュフは上に飛んで逃げていて無事だった。

 細氷で霜を破壊して脱出したようで、全身霜にまみれてはいるが五体満足だ。

 

「Gawoooooooooon!」

 

 リュフは体当たり直後で隙だらけの氷熊の背中に着地すると、鋭利な牙が生え揃った顎を大きく開けて、真っ白な毛皮に思い切り噛みついた。

 

「うーん、あのダイヤモンドダストやら霜やらは魔術の範疇になるんだよな?」

 

「えっ?あ、ああ。原理は魔術と同じだな」

 

「詠唱してないのに発動するとかずるくない?」

 

「魔獣にとってあの程度は手足を動かすのと同じくらい簡単なことなのさ。その代わり人種みたいに色々な魔術は使えないのさ……というか氷熊に加勢するなり、放置して逃げるなりしないのかい?」

 

 ゆるキャラが呑気に魔術についての考察を始めたものだから、アウラが戸惑いながら聞いてくる。

 最初に加勢の有無を聞いてくるあたり、人が良いよなあ。

 

 この人の好さが、アウラたちがニールへの伝言係に選ばれた理由の一因のような気がする。

 ニールはともかくとして、その周囲は亜人だけでなく人種の敵である邪人に闇の眷属までいるわけで。

 普通の冒険者なら敵意がないとしても近付きたくもないのでは。

 

「それもそうだな。そろそろ氷熊を助けに……」

{も~、いい加減喧嘩はやめなさい!)

 

 別にそれが詠唱の代わりではないのだろうが、しびれを切らしたユキヨの一喝と共に魔術が発動した。

 

 地響きが起こり、大地が隆起する。

 突き上げられた地面の雪が舞い上がり粉雪となって降り注ぐと、視界はあっという間にホワイトアウトした。

 

「うわああああああああ!」

 

 白い視界の中、加護のせいで恐怖が増幅されたマットの情けない悲鳴が、地響きに負けないくらいの大きさでこだまする。

 

 ものの数秒で視界は回復したのだが、現れた光景は誰もが息を呑むものであった。

 まず大地が隆起したと思ったがそれは勘違いで、実際に隆起していたのは氷の柱だ。

 

 いや、柱と言うと語弊があるな。

 十メートル程、地面から垂直に伸びているのだが、細身の円錐状になっている。

 

 つららをひっくり返した感じだろうか。

 それが地面から無数に、剣山のように密集して生えていた。

 

 つららは前に見た特大の《氷弾》と同じように、氷山の氷のように青みがかった白色だ。

 強度もあの《氷弾》と同等と考えると、こんなものに串刺しにされれば氷熊もリュフもひとたまりもなく……。

 

「Vhuuuuuun」

「Kyuuuuuun」

 

 お、二匹とも無事のようだ。

 氷熊は大きな体をよじらせて、つららとつららの隙間に挟まっていた。

 

 リュフは氷熊の背中からずり落ちそうになっていて、鼻先のすぐ前に突き出ているつららを見て怯えている。

 丸めた尻尾を股下にすっぽり収めながら、情けない声で鳴いていた。

 あと少し手前にずれていれば顎下から貫かれていただろうし、怯えるのも当然か。

 

「しかしまあ、よく当たらなかったな」

(ちゃんと当たらないように《氷槍(アイススピア)》を寸止めしたもん~)

 

 いやだからこれは寸止めとは言わないって。

 直撃はしないよう調節したみたいだが、氷熊はつららに持ち上げられて体が浮いてるぞ。

 

 《氷弾》を撃った時は氷熊に直撃していたから、その時よりは魔術が上達している……のか?

 大人しくなった二匹を見て満足したユキヨが《氷槍》を解除すると、全てのつららが魔素の粒子となって跡形もなく消えてしまった。

 残されたのはつららが消えて茶色い土が水玉模様のように露出している地面だけである。

 

「精霊のユキヨの魔術も詠唱してないし、魔獣たちの魔術と同じで手足の延長みたいなものか」

 

「……へっ?ええ。そうですね、はい。てか今のが《氷槍》?《氷騎槍(アイスランス)》じゃなくて?《氷騎槍》だとしても形状も威力も規模もおかしいけど」

 

 隣のナスターシャに話しかけてみたが、半分上の空な返事が戻ってきた。

 後半は完全に独り言である。

 ふむふむ、《氷槍》の上位魔術は《氷騎槍》になるのか。

 

 つまりユキヨは「今のは《氷騎槍》ではない、《氷槍》だ」を実践したわけか。

 いやまあ《氷弾》の時もそうだったんだけどね。 

 

(君もうちの子になる~?)

 

 ユキヨはユキヨで、地面に転がり腹を見せて完全降伏状態のリュフに向かって、また訳の分からないことを言っていた。

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