「あなたたちと入れ違いでニールがコラン村に戻ってきたのよ。竜の姿のハクアちゃんに乗ってね。最近はたくさん怖い出来事があったし、もうこれ以上は無いと思ったのに竜が来るものだから、そりゃもう村は大騒ぎよ」
ミーナがおおげさに身振り手振りを交えながら教えてくれる。
アトルランの世間一般的には竜の姿を見るというのは、そのまま襲われて死ぬと同義であった。
そういえば前にシンクが竜の姿で人族の村を訪れた時も、村人は一目散で家に逃げ込んでいたな。
「要領のいいニールなら先に一人で来るか、騒ぎにならないよう《人化》させてそうだけどな」
「かなり急いでいて慌ててたみたいよ。それでトウジたちが街に向かったと知って、ニールも追いかけたってわけ」
「それでなんでミーナはここにいるんだ?」
「私はハクアちゃんとトウジの顔つなぎ役よ」
「え、別にいらないけど。いるとしてもレキでよかったんじゃないか?」
「ちょっとさっきから酷いわね!レキは小さい子供たちの世話で忙しいからだめよ。それにレキからも頼まれたから仕方ないのよ」
仕方ないと言いつつもどこか誇らしげに、腰に手を当て仰け反りながら語るミーナ。
うーん、子供のレキが忙しいというのに頼まれて送り出されているあたり、ミーナがいると余計に仕事が増えてしまうような、残念系お姉さんなのかもしれない。
つまり体のいい厄介払いなわけだが……本人に自覚してないみたいだし言わぬが花か。
「でも安請け合いして後悔したわ。まさかそのまま竜の姿のハクアちゃんに乗せられて運ばれるなんて。にしても人って怖すぎると眠くなるのね。背中に乗った途端に気を失うように寝ちゃって、目が覚めたらもう街に着いてたわ」
あ、これはニールに【
急いでいるなら【
だがその能力は秘密にしているので、何かしらの干渉を受けて誤魔化された様子。
ハクアなら把握しているのではと思いちらりと視線を向けると、彼女はゆるキャラにだけ分かるよう顎を小さく引いて頷いた。
なかなかに察しの良いお嬢さんだ。
しかし多方面からいいように扱われているミーナがちょっと可哀そうになってきたな。
でも貞操はやらん。
「その肝心なニールがいないぞ」
「ニールは悪い魔法使いに攫われたの」
「はい?」
予想外の答えにゆるキャラの大きな口から、
のだが、少しだけ心当たりがあったので確認してみる。
「魔法使いってもしかして、
「ん、その通り。知ってておどろいた」
ハクアのおっとりとした垂れ目が驚きで見開かれる。
アトルランにおいて魔法という単語はあまり一般的ではない。
人々が扱うものを魔術と呼び、構成を編んで効力を定め、詠唱で起動させ、魔素を代償にして等価値の結果を発現させる。
一方で魔法は人智を超えた現象を指して呼ぶものだ。
神の御業や等価交換の枠に収まらない奇跡の類が当てはまり、魔素を一切消費しないニールの超能力もアトルラン基準では魔法みたいなものであった。
本人曰く魔素ではなく精神力を消費しているそうだが、それにしたって消費に対しての見返りが大きすぎる。
「リージスの樹海で既に魔法使いって呼ばれてたんだってな。樹海を出た後も第一位階冒険者の〈魔法使い〉を負かしてその二つ名も手に入れたと」
「ニールのこと、どこまで知ってるの?」
「あれ、ニールから俺のことは聞いてない?」
「急いでてくわしく聞く時間は無かったの」
ハクアがふるふると左右に首を振る。
察しの良さからこちらの事情は全部伝わっているかと思ったが、そうでもないようだ。
ということは妹のシンクが樹海を出たことも知らされていないかも。
今伝えると話が長くなりそうなので、申し訳ないが後回しにさせてもらう。
「ニールからはしんらいできると聞いてる」
「頼ってくれるのはありがたいが、ニールや竜族と比べたら二段も三段も落ちるぞ」
「あんなに強かったのに?」
それは〈コラン君〉だからかな……。
「それでどうして第二大陸の〈魔法使い〉が
「ニールを追いかけてきたの。ええと、ニールは
「ああ、その辺の事情も聞いている」
聞き慣れない単語にミーナは首を傾げた。
ちなみにリリンは依然としてゆるキャラとユキヨ以外の言葉を理解できないので、字面通り話半分で聞いている。
なのでハクアの許可を得てから、説明がてらニールの素性を説明する。
「ニールはアトルランとは別の世界からやってきた異邦人だ。ニールの肉体は普通の人ではなく人造人間で、活動限界が迫って今の体に乗り換えたと聞いている。それで今の体を用意したのが〈魔法使い〉なんだってな」
「ん、ニールの前の体をしつこく触ったり調べたりされるのは嫌だったけど、新しい体のためにしかたがなかったの」
〈魔法使い〉という二つ名を持っていた第一位階冒険者は、その名に恥じぬ才能の持ち主であった。
傍から見れば魔法としか思えないような魔術を操り、人造人間の生成も才能のうちの一つである。
とはいえ同じ人造人間でもニールの世界のそれと、こちらのそれでは全く別物だと思うのだが。
前者をイメージするなら某戦闘民族に復讐するために造られたサイボーグで、後者は妖精や精霊に近い魔法生物といったところか。
よくまあ乗り換えに成功したものだ。
「ていきけんしんが必要だから近々訪ねてくるとは聞いていたけど、まさかエリステイルに魅入られているとは思わなかったの」
「えっ」
おっと、ここで出ました謎の存在、エリステイル。
単語は聞こえていたようで、リリンを見やればわざとらしくこちらから視線を外している。
「エリステイル……邪神の脊髄に汚染されたミンドナファムにニールとフレンは攫われて、私だけニールの手で逃がされたの」