ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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266話:ゆるキャラと婚活

「本当にありがとう。私が確かめなきゃいけないのに」

「死んでるか確認するだけなら朝飯前さ。もし生きていても虫の息だろうし、ユキヨもティアネもいるから戦力は十分だ。まあ出番は無かったけど」

 

 照れくさそうにしてアウラが手をひらひらと振るが、その表情から疲労の色は隠しきれていない。

 文字通り時間帯は朝飯前だが、コラン村からの強行軍のまま徹夜しているのだからそりゃそうだ。

 

 〈コラン君〉が言うには大丈夫らしいので、そこの幽霊屋敷でゆっくり休んで欲しい。

 あと饅頭と羊羹も進呈しようじゃないか。

 

「トウジさんお願いします。ニールとフレンを助けるのを手伝ってくれませんか」

 

 黒い竜の脅威が去り後顧の憂いが無くなった竜の少女は、ゆるキャラに向き直ると深々と頭を下げた。

 白亜色のサイドテールが大きく揺れて、可愛らしいつむじがこちらへ向く。

 

「もちろん助けるのは構わないが、〈コラン君〉が都合よく出てくるかは分からないぞ」

「ん、ありがとう。ニールからはトウジさんを頼れと言われているから大丈夫」

 

 承諾を得た安堵からか、頭を上げたハクアは薄く微笑んでいた。

 改めて見ると本当にシンクと瓜二つで似た者姉妹だと感じる。

 司る属性は熱と冷気と正反対なのが興味深い。

 

「あ、ごめん。つい癖で」

「ん、別にいい」

 

 うっかりシンクを相手にするのと同じ感覚でハクアの頭を撫でてしまったのだが、特段嫌がられることもなく受け入れてくれる。

 これで露骨に避けられたりしたらヘコむところであった。

 

 ニールからも〈コラン君〉ではなくトウジを必要とされていると聞いて、俄然張り切りたいところだが不安要素は多い。

 〈コラン君〉という力を制御できていないし、〈コラン君〉でなければ火力不足は否めない。

 

 唯一、月明剣(げつめいけん)と名付けられた大剣(バスターソード)に、最大限魔力を籠めれば威力は通用するかもしれないが、いかんせん溜める時間が長く取り回しが悪い。

 ヒーローの変身シーンのように相手が律儀に待ってくれればいいが、現実は非情である。

 

「トウジさん?」

「おっとごめん、考え事をしてた。あと俺の事は呼び捨てでいいぞ」

 

 頭をナデナデしながら思考の海に沈んでいたゆるキャラを、ハクアが不思議そうに見上げていた。

 結局は手持ちの札で勝負するしかないのだから、無いものねだりをしても仕方がない。

 世界的に有名な某先輩マスコットも似たようなことを言っていたし、その先輩に倣って前向きにやっていこう。

 

 ちなみにゆるキャラの中の人がカードゲームをやると、しょっちゅう引きが偏って勝負にならないレベルで運が悪かった。

 周りからはよく()()()と言われたものだ。

 

「今すぐ出発したいけど、だいじょうぶ?」

「ああ、俺は構わないぞ。アウラたちはゆっくり休んでくれ。他のみんなはどうする?」

(いくいく~)

 

 徹夜明けを感じさせないハイテンションで、ゆるキャラの頭上を飛び回りながらユキヨが宣言した。

 精霊を人と同じ基準で判断して良いか分からないが、若いなあという感想が漏れる。

 

 ゆるキャラの中の人も若い頃は徹夜でゲームをして、そのままバイトに行ったりしたものだ。

 しかし昨今はそうもいかなくなった。

 

 寝ないと体力が回復しないし、なんなら寝ても体力が全然回復しない。

 英国人は老いすら楽しむそうなので見習わねば。

 

「ミーナはアウラたちと一緒に残ってもらうとしてリリンは?」

「……行くわ」

 

 エリステイルに対して何かしらの含みを持つリリンは、僅かな逡巡を見せた後にそう答えた。

 

「私もい――」

「ティアネは留守番よ。戦力的に足手まといになるわ、って伝えて」

 

 ティアネの言葉をリリンが遮る。

 相変わらずリリンはゆるキャラとユキヨ以外とは言葉が通じないので通訳が必要だ。

 

 言葉が分からなくても雰囲気で察したようだ。

 普段は大人しく従順なティアネだが今回は不満なようで、むっとした表情が被っている黒いヴェール越しに見える。

 

「眠くないから大丈夫です」

 

 無理している感じではないので事実なのだろう。

 若いっていいなあ。

 リリンが小柄な体をふわりと浮かせてゆるキャラに耳打ちしてきた。

 

「というかそろそろ潮時だと思うのよ。この子は元々争いが嫌で家族と袂を分かったのだから、今後も無理に付き合わせる必要なんてないわ」

 

 確かにティアネは戦闘民族的で邪悪な思考のトロール族から離れることが目標であり、既にそれは達成していた。

 別にゆるキャラたちに付いてくるなとは言わないが、改めて本人の意思確認は必要だろう。

 

 しかもトロール族は外様の神を信仰する邪人であり、創造神の子らである人族とは敵対関係にある。

 どこに行っても受け入れてもらえる、とは言い難い。

 平穏に暮らすならティアネの存在を好意的に認知してくれているコラン村か、古戦場跡ぐらいしかないのでは。

 

 あーでもどうなんだ?伴侶となる同族を探すつもりなのだろうか?

 しかしティアネ以外の同族は漏れなくあれなわけで……少数派の婚活は前途多難だな。

 

 ティアネ自身は性格も良く可愛らしいので、いい相手さえ見つかればとんとん拍子で進みそうではある。

 三十歳独身のどっかの誰かさんとは大違いだ。

 

「それにミーナもティアネがいたほうが心細くないでしょう。今伝えるのはここだけでいいわ」

「……わかりました」

 

 ミーナの名前を出されるとティアネは渋々引き下がった。

 コラン村に滞在しているうちに、ティアネとミーナは随分と仲良しになっていたからな。

 

 たとえ種族同士が敵対していたとしても、個人レベルなら十分わかり合えるという証左であった。

 人種にだって良い奴と悪い奴の両方がいるのだから、邪人もまた然りである。

 

「それじゃあ出発する」

 

 話がまとまったところで、ハクアは皆から離れて《人化》を解いた。

 太陽が墜落したかのような輝きにハクアが包まれたかと思うと、一瞬にしてその姿が変貌する。

 

 全長は六メートル程だろうか。

 大きく広げられた両翼が力強く雄々しい反面、流線的な形状(フォルム)からは女性らしさを感じさせる。

 

 そこには威風堂々たる白亜の竜の姿があった。

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