ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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271話:ゆるキャラと謀反

 私はあらゆる事象に対して怒り、同胞に対して怒り、己の権能に対して怒っていた。

 だが大半の怒りに私自身は理由を持たない。

 

 怒りとは他の感情を増幅、あるいは上書きして前に進むための糧であった。

 故に私を信奉するものたちは怖れを怒りに、悲しみを怒りに、孤独を怒りに変えて、一歩前へと踏み出す。

 止まっている者を動かすこともあれば、歩みを加速させることもある。

 

 怒りは憎しみ、妬み、闘争心、破壊衝動に拍車をかける。

 怒りが暴力の、戦争の呼び水となり世界を加熱させていく。

 怒り自体に善悪など無く、有るのは純然たる力の奔流であった。

 

 あまたの世界に怒りをもたらし続けて幾星霜。

 ある時は家族を殺され奴隷に落とされた少女の為に、またある時は未知の病原菌と戦う医者の為に。

 

 何も暴力だけが怒りの矛先ではない。

 怒りはあらゆる活動の原動力と成り得る。

 

 私の怒りが妨げられたのは、棲み処を追われ取り戻す戦いに身を投じる者たちに呼ばれた時のことだ。

 よもや地上で中柱の神同士の直接対決になるだけでなく、敗北してしまうとは。

 

 私は万分の一の力を残して封印されてしまう。

 何故敗北したのか理由が分からず、納得がいかず、怒りを覚えた。

 

 だがあらゆる出来事に理由も無く怒っている私にとって、その怒りも普段のそれと何ら変わらない。

 私の感情は怒りによって常に一定であった。

 

 敗因はこれではなかろうか。

 万遍無く怒りを放つのではなく、特定の事象に怒りを、力を収束させられたのならば……。

 

 こちらのそんな胸中を知ってか知らずか、私を封印した神は残した怒りにある指向性を持たせる。

 それを一言で表すならば【義憤】だろうか。

 

 思惑通り収束した怒りは、万分の一から千分の一ほどに跳ね上がる。

 この事実に早く気が付いていれば、棲み処を追われた者たちを助ける事ができたのだが。

 

 今はただ、仮初めの肉体と限られた権能でもって、新たなる力の制御を試みるしかない。

 肉体を共有する魂には申し訳ないが、彼の魂と私の神力が混ざり合わないよう祈るばかりである。

 

 

 

 

 申し訳ないと思うなら、ちょっと自重してもらえませんかね。

 あと神が何に祈るのかと。

 上司として界王神がいるのかな?

 

 憤怒の神改め、義憤の神の思念のようなものが流れてきた。

 この神がゆるキャラの中にいる〈コラン君〉の人格の元となっていて、弱い者いじめを許さない動力源として【義憤】があるようだ。

 

 しかし〈コラン君〉の人格自体は制御できていない模様。

 その証拠にあれから追加で三度も溺れる羽目になってしまった。

 

 多分ミンドナファムに真正面から突っ込んで、その度に《誘眠》を食らっているのだろう。

 毎回溺れるゆるキャラの身にもなって欲しい。

 怒りたいのはこっちだっての。

 

 臨死体験?を繰り返したせいか、最初の猫……混沌の女神が〈コラン君〉に憤怒の神を封印した時の様子も改めて思い出す。

 混沌の女神と憤怒の神は敵対していたということなのだろうか。

 

 創造神の子ら同士の争いだったのか、それとも……。

 憤怒という名前からして、似たような神がもう六柱くらい居そうではある。

 

 意識の海に沈んでいたゆるキャラであったが、四度目の眠りから目覚めると地底湖に沈んで……はいなかった。

 不自由なく呼吸が出来るのを確認しつつ、エゾモモンガのつぶらな目をゆっくりと開ける。

 

 ゆるキャラは薄暗い地下洞窟のような場所で仰向けに倒れていて、左右からこちらを覗き込む二つの顔がある。

 片方は死んでいたはずの少女フレンで、どこかぼんやりとした表情でこちらを見下ろしていた。

 髪色に似た透き通るような碧い瞳が特徴的だ。

 

 もう片方は悪い魔法使いのミンドナファムで、こちらも赤黒の目が特徴的というか、間近で見るとやはり造形が人のそれではない。

 肌は色白という限度を通り越して能面のように真っ白だが、耳の後ろから顎下のラインを境に首側は黒い筋線維のようなものが剥き出しになっている。

 有機物と無機物の中間のような造形は、まるで某SF漫画に出てくる珪素生物みたいだ。

 

「えーっと、これはどういう状況だ?」

 

「やあやあ、気が付いたかね。聞いているかもしれないが私はミンドナファム。かつて〈魔法使い〉と呼ばれていた冒険者なのだ。まあその二つ名もニールに奪われて久しいがね。体の調子はどうかな?私の《誘眠》を四度も受けたわけだが、倦怠感が残っていたりしないかい?並の魔力量なら千年は眠るところだけど、《解呪》も無しに君はすっきり目覚めたようだね。魔力量もさることながら、体に同居している〈コランクン〉という人格が肩代わりしているのかな?」

 

「えっ」

 

「その鼠人族と翼人族を交配して寸胴にしたような姿は、混沌の女神によって造られたそうじゃないか。女神謹製だからこその魔力量なのかな?あと次元収納のような加護を持っているそうだね。是非どんな仕様なのか教えてくれないかい。ああその赤いマフラーも気になる。最初は《解析》を弾くだけかと思ったら、魔術そのものに加えて運動エネルギーまで遮断するじゃないか。これは国宝級どころか神話級の魔術具、いや魔法具だね。是非私に詳しく調べさせて欲しいのだ。ああそれに君の人格もニールと同じ異邦人で異世界から―――」

 

「もういい加減にしろよ」

 

 ゆるキャラに覆いかぶさるように顔を近づけて、鼻息荒く言葉の洪水を浴びせてくるミンドナファムの体がふわりと宙に浮く。

 そのまま首根っこを掴まれた猫のように吊り上げられ、ようやく頭上にスペースが出来たためゆるキャラは上体を起こす。

 

 すると周囲にはミンドナファムとフレン、ハクア、リリンにユキヨ、そして攫われたはずのニールと全員が集合していた。

念動(サイコキネシス)】でミンドナファムも持ち上げたニールが、やれやれといった感じで腰に手を当てて立っている。

 

「もっと先に説明することがあるだろう」

「おっと失敬。確かにその通りなのだ」

 

 ニールに諭されて、釣られたままのミンドナファムが高らかに宣言した。

 

「みんなで創造神を裏切って、浪漫溢れる外様の神エリスに鞍替えしよう!」

 

 ……うん、全然わかんない。

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