ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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273話:ゆるキャラと神話語り

「つまりあんたの話をまとめると、〈魔法使い〉ミンドナファムというのも偽りの姿で、更にその前は闇の眷属で吸血鬼、名前はドミナ・ファムンだったと」

 

『ええ、その通りです。そこのリリンとは同郷で同じ箱船でアトルランにやってきたのです』

 

 まるで人が変わったかのように、丁寧な言葉遣いでミンドナファムが鷹揚に首肯した。

 ミンドナファムという名前もドミナ・ファムンのアナグラムだそうで。

 どこぞの名前を言ってはいけないあの人じゃあるまいし。

 

「その箱船って……」

 

『はい〈魔法使い〉以前の話はこれでおしまいなのだ。リリンも黙ってただろうけど、この辺の情報は迂闊に喋れないのだよ』

 

 お嬢様然とした口調と態度から一転して、変な口調と共に両腕を体の前でクロスさせて、大きなバツ印を作るミンドナファム。

 ミンドナファムの正体を聞いている間、呆然としていたリリンだったが、ここでようやく我に返った。

 

『お待ちくださいまし、ドミナ様!他の家族……お兄様はどうされたのですか?』

 

『あー性格の悪い君のお兄ちゃんなら、どこかで元気にやってるよ、きっと。というわけで今の私はただの邪人のミンドナファムだ。だからリリンもそのつもりで接して欲しいのだ。嫌がっていた堅苦しい言葉遣いに付き合うこともない』

 

 そういえば出会った直後のリリンはちょっと乱暴なお嬢様言葉だったな。

 あれって嫌々だったのか?

 どちらかというとノリノリだったような。

 

『なあに?』

「いいえ、なんでも」

 

 リリンが黙ってろと言わんばかり釘を刺してきた。

 まだ何も言っていないのに鋭い……別に掘り下げるつもりは無いから。

 

「闇の眷属から人種、最後に邪人って随分と転々としているんだな。もしかして各方面から知識を得るためか?」

 

「その通り!」

 

「闇の眷属と邪人なら似たようなものだと思うんだが」

 

「いやいや、それが全く違うのだ。外様の神も一枚岩じゃないからね。派閥や立場が違えば得られる知識も大きく異なるのだよ」

 

 赤黒の目を爛々と輝かせながら語るミンドナファムの視線が、不意にニールへと向けられた。

 

「ここに来たってことは、エリステイルが何か多少は知っているのだろう?」

 

「神話として語られている内容くらいはな。エリス神は元々は創造神が生み出した神の一柱だったが、創造神を裏切ってアトルランを飛び出した。そして外様の神と手を組み、侵略者側に回ったのだと」

 

「一般的な神話ではそうなっているね。でもそれが事実とは限らないのだ」

 

 ミンドナファムが神話では伝えられていない側面を語った。

 

 

 

 

 エリスは創造神によって造られた【開拓の女神】であった。

 名前の通り開拓を司り、様々な分野を切り開く先駆者たちに力を与える役目を持つ。

 

 エリスが創造神を裏切ったのは〈黄昏戦争〉時代だと伝えられている。

 神話の頃から外様の神々との闘争は熾烈を極めており、長きにわたり劣勢を強いられていた時代、それが黄昏戦争だ。

 

 およそ千年続いた黄昏戦争の最中、他の神々に乞われてエリスは新たなる開拓を試みる。

 それは創造神が造りし世界、アトルランの外側を目指すというものであった。

 

 ただでさえ劣勢だというのに、攻勢に出るというのは明らかに無謀。

 なのに何故かその試みは他の多くの神々から支持を得ていた。

 

 外様の神との戦いは、アトルランの外へと追い返す防衛の歴史である。

 故にこちらから打って出るという試みは初めてであり、もしかしたら上手く行くのではと、神々が可能性を見出しているからであった。

 

 それはある意味、無謀な策に縋るほどの窮地に立たされていて、他に良い打開策を見いだせなかったことの証左でもあったのだが……。

 

 かくしてエリスはアトルランの外へと旅立った。

 旅の道連れは自身の系譜である小柱の神ただひとり。

 

 結果を先に述べると、開拓は失敗に終わる。

 

 創造神の力の及ばない外側では満足に力も振るえず、外様の神に滅ぼされそうになり……エリスは苦渋の決断をする。

 

 創造神を裏切ることにしたのだ。

 ただし、あくまでも裏切るふりをするだけだ。

 

 そして侵略する側に寝返ったと見せかけて、外様の神の戦力や侵攻時期といった情報をアトルランの神々へと流し続けた。

 想定外の展開にはなったが、これが切っ掛けとなり黄昏戦争を終焉へと導くことに見事成功する。

 

 【開拓の女神】エリスは十二分に役目を果たしたと言えるだろう。

 それなのにアトルランに帰ることは叶わない。

 

 何故なら裏切りの代償として、身も心も外様の神に成り果ててしまったからだ。

 いや、心は決して裏切っておらず成り果ててはいなかった。

 

 しかし異貌の神の姿ではアトルランに張り巡らされた〈世界網〉を通り抜けることが出来ないし、アトルランの神々からの助けも一切なかった。

 

 乞われて旅立った【開拓の女神】の望郷の念は膨らむばかりで、数千年の時が過ぎた今も尚、故郷への帰還を試み続けている。

 

 

 

 

「……期待して送り出した割には支援が不十分じゃないか?」

 

「期待と言ってもギャンブルみたいなものなのだよ。そして大穴に一口だけ賭けておいたのが当たったと」

 

「神々の功労者に対しての仕打ちが酷い」

 

「アトルランの神々も一枚岩じゃないのだ」

 

 なんかそれさっきも聞いたなあ。

 たとえ高次な存在の神であっても、組織が大きければ相応の歪みが生まれるということなのだろうか。

 まあこれまでに出会った神々の性格からして、一致団結から縁遠いのは納得だけれども。

 

「ちなみに今語った内容が全て事実とも限らない。何せ教えてくれたのがエリス神の腹心で唯一の部下の小柱神だからね」

 

「つまりエリス神を贔屓した説明になっているかもしれないわけか。でもそこまで偏っているとは思わなかったが」

 

「確実なのはエリス神が黄昏戦争時代にアトルランの外に出て行ったこと。外様の神に変貌したこと。再びアトルランに戻ろうとしていることだけだ。裏切りの件(くだり)は証拠が無いし、神話はそもそも人種が都合よく解釈して作った話で、神々の言い分ですらない。そしてその()()()()()()()()なのだよ。エリス神はアトルランの外で活動できる。元々はアトルランの神なので話が通じやすい。アトルランに帰りたいという明確な願望、つまり交渉材料がある……ところでニールにはある目的があったね」

 

 あー、話がようやく見えてきた。

 

「エリス神を利用して、ニールを元の世界に帰そうって魂胆か」

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