いつの間にかブロンディアの肩に、ちょこんと小さい何かが乗っかっている。
小さいといってもブロンディア自体が巨大なので、相対的にそう見えるだけだが。
実際の大きさはハクアと同じくらいだろうか。
造形はミンドナファムやブロンディアに似ていて……いや、彼女らが似ているのだろう。
全身の機械化は一番進んでいて、胸元と頭部以外は漆黒の金属のようなもので包まれている。
頭髪と瞳は古色を帯びた金色。
幼い顔立ちをしていて、無機質な白さも相まって精巧に造られた人形のようだ。
特徴的なのはやはり下半身で、節のある足が四つ生えていた。
本数は足りないが、シルエットだけ見れば蜘蛛女といった様相である。
「エリス様」
ブロンディアが自らの肩に手の平を添えると、エリスはそちらへ乗り移る。
そしてそっと地面に降ろした後、跪き恭しく頭を垂れた。
まあ対格差が有り過ぎるため、文字通り頭が高くなってしまってはいるが。
だが二人から発せられる
「話は聞かせてもらいました。貴方たちの言葉を信じましょう。私への信仰は不要です」
「エリス様!なりません。創造神の
ブロンディアが声を荒げるが、エリスはふるふると首を左右に振った。
「確かに彼女とは言葉も通じません。ですが故郷への想いと、帰るためなら手段を択ばない覚悟なら十分信じられます。何故なら私と同じですから」
かつての開拓の女神が、ニールを見ながらそう語る。
配下のブロンディアと違って、エリス神は随分と優しい印象だ。
いや違うな、これは……。
「それに私はもう疲れてしまったのです。母なる創造神と
「アトルランの神々は貴女たちを助けてはくれなかったのですか?黄昏戦争の功労者なのでしょう?」
「最初の数百年は待っていました。ですが、いくら待てども輩からの接触はありませんでした。更に数百年後、ついに業を煮やした私は、他の外様の神の口車に乗せられて侵略に手を染めてしまったのです」
アトルランの神々は何故エリスたちを助けなかったのだろう。
人々の間で伝えられている神話でも、エリスの外様の神に対するスパイ活動は一切触れられておらず、只の裏切り者として語られていた。
「一度でも侵略をしてしまえば、それこそ敵とみなされて帰還が不可能になるのでは」
「その通りです。それでも私は、敵になってでもアトルランに帰りたかった。かつては輩への憎しみもありましたが、もう憎み続けることにも疲れてしまいました。今は最期にアトルランの大地を踏むことができるのならば、滅ぼされても構わないと思っています」
人からはかけ離れた容姿で表情が読みにくいが、不思議とエリスの長きにわたる苦悩がありありと伝わってきた。
今いるこの塔はアトルランに建っているが、内部の空間はアトルランからは隔絶しているのだという。
そのおかげでアトルランの神々はここを察知できないが、エリスとブロンディアが塔の外に出ることもできない。
仮に出ても〈世界網〉を通り抜けられる程度の小さい力でしか顕現していないため、外様の神の存在を察知して駆けつけた神々に滅ぼされてしまうからだ。
滅ばされる前提でなら外に出られるが、それは塔の存在を知られたくない他の外様の神たちが許さなかった。
「そのようなことを仰らないでください、エリス様。元を正せば外の神も内と……」
「およしなさい、ディア。それに侵略以外の初めての手立てです。誘いに乗らない手はありません」
「!?まさか神の力をお捨てになるというのですか」
えっ、そんなことできるの?
それなら侵略する前にさっさと捨てればアトルランに帰れたと思うのだが。
いや、そう簡単に己の力を捨てることなど出来ないか。
ゆるキャラだって平和な地球ならまだしも、何かと物騒なアトルランで加護の力を手放すのは怖い。
こんな珍獣の見た目で強さを失ってしまえば、速攻で毛皮を剥ぎ取られそうだ。
そう思ったのだが、エリスの思惑は少し違っていた。
「いいえ。確かに私の力を譲ることはできるけれど、それでは彼女の魂を外の神の力によって歪めてしまいます」
「人造人間である俺に、魂があるというのか?」
ユキヨの通訳を聞いて信じられない、といった感じでニールが驚いていた。
ニールもゆるキャラも多少違うが科学が発達した地球出身である。
故に二人とも魂といったスピリチュアルなものには懐疑的になりがちだが(超能力はこの際置いておく)、神やら魔術やらが当たり前にあるアトルランでは魂の定義もあって然りのようだ。
黙ってやり取りを聞いていたミンドナファムが補足する。
「もちろんあるとも。魂というのは言わば生命の
なかなかに興味深い話だ。
人工的に造られた生命に魂は宿るのか?なんてよく聞くが、答えは〈イエス〉だったのか。
ゆるキャラには地球での前世の記憶があるので、少なくとも新造の魂ではないということになる。
普通は前世の記憶が無いので、生命の記録の有無は自覚できないが。
記録の有無や量で今世に影響があるのか?どこからが生物扱いで魂が宿るのか?色々気になるが本題から外れるので、後でミンドナファムに聞いてみよう。
「神の力を譲るのではなく、単に捨てることはできないのですか?」
「できますが、捨てた力はすぐに他の外様の神に拾われてしまいます。そのことにより特定の神が大きな力を手に入れた場合、神々の勢力の均衡を崩しアトルランを窮地に追いやる可能性があります。私は決してアトルランを滅ぼしたいわけではありません」
「しかし力をお譲り頂けないとなると、助力することも難しく……」
「そこで私からも提案です。私の分体を混沌と憤怒を宿す貴方の体に同居させて欲しいのです。そしてある場所に連れて行って欲しいの」
「なにいっ!そんなことができるのか、トウジ君は」
エリスとミンドナファムだけでなく、この場にいる全員の視線がゆるキャラに集まった。
急に注目を浴びて、というか未知を発見して興奮したミンドナファムの圧が凄くてたじろぐ。
「いやいや、そんなことできるわけがな……」
そこまで言いかけたが、過去のとある己の行動を思い出した。
「あーいや待てよ、できるわ」