ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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277話:ゆるキャラと望まぬ再会

 ミンドナファムの転移魔術により隔離空間から元の塔内部へと戻ると、辺りは静けさを取り戻していた。

 

 大量に飛び回っていた黒い竜の姿は無く、湖面の中央でエリステイルだけがゆらゆらと揺れている。

 最初こそ禍々しさを感じていた外様の神の脊髄だが、その人となりを知った今は単に神秘的な物体だなあという感想に落ち着いた。

 

「あまりじろじろ見ないでください……」

 

 何故かエリスが恥ずかしそうに俯いてもじもじしている。

 ある意味裸を見られているようなものだし、気持ちがわからないでもないか?

 でも人にレントゲン写真見られても別に恥ずかしくないよな?

 

「それでは改めて確認しますが、エリス様の本体はニールたちを連れて地球へと旅立つ。一方で分体はトウジたちと行動を共にする、でよろしいですね?」

 

「ええ。黒竜卿の眷属を追い払っているうちに準備を進めましょう」

 

 エリスがそう言うと、祭壇がごごごと音を立てながら二メートルほどせり上がる。

 するとそこには正方形の穴が開いていた。

 

「中に入ってください。これで外にある私の本体の所まで下ります」

 

 これは昇降機(エレベーター)のようだ。

 某死にゲーに出てきそうな仕掛け(ギミック)に、ちょっとテンションの上がるゆるキャラである。

 

 改めて祭壇をよく観察すると、昇降機に繋がるように縦に溝が入っている。

 どうやら祭壇上で捧げ流れ出た血が昇降機内部へ伝うようになっているようだ。

 

 フレンによって生け贄の儀式が実演されてしまったのを思い出す。

 不思議とその痕跡は綺麗さっぱり無くなっていたが、上がっていたテンションがスンと萎むには十分だった。

 

 昇降機は狭いのでまずはニール、ハクア、フレン、ミンドナファムが乗り込む。

 せり上がっていた祭壇が下りてきてニールたちの姿が床下に消えた。

 祭壇の合った場所にはぽっかりと、底の見えない大穴が出来上がる。

 

 いざゲーム的な仕掛けを現実で目の当たりにすると、動力や安全性、耐久性といった細かいことが気になってくるゆるキャラだ。

 だって柵も無しに目の前の壁が高速で動くのだから、うっかり服や手を巻き込まれたら大惨事じゃないか。

 

 などと雑念を膨らませていたのだが、ブロンディアの緊張感のある声音で現実に戻される。

 

「エリス様。他の神の眷属が塔に近づいています」

 

「……そのようですね。直接の関係者ではないリリンさんはともかく、私たちとトウジさんたちの関係は他の神たちには隠しておきたいです。そうしなければこの塔の権限を奪われてしまうでしょう」

 

 この塔は言わばアトルラン侵略のための前線基地で、複数の外様の神が共同で運用しているそうだ。

 前線基地は世界にいくつも存在していて、場所によって塔であったり城であったり、地下遺跡であったりと様々な形態を取っている。

 

 つまりそれらがアトルランに存在する闇の眷属の出所だったのだ。

 この塔は脊髄も延びている通りエリス主導の拠点だが、裏切りが発覚すれば主導権を奪われるだけでなく、地球への旅路も邪魔される可能性があった。

 

「先の黒竜のように倒してしまえば、眷属の親玉の外様の神まで俺たちの情報は届かないんですね?」

 

「はい。眷属の動向まで監視している神は少ないですから大丈夫でしょう。ですが念のため先程試したように、私とディアをトウジさんの中に隠してもらえますか」

 

「わかりました」

 

 ゆるキャラは頼まれた通り、エリスとブロンディアを()()()()

 そう、四次元頬袋に二柱の神を収納したのだ。

 

 四次元頬袋に収納できる対象は非生物に限られ、大きさやエネルギー量に応じて魔力を消費する。

 ところが何故か神だけは魔力の消費も無しに、自由に収納することができた。

 

 過去にも二度ほど神を収納したことがあったのだが、先程エリスに指摘されるまですっかり忘れていた。

 

「というわけでバレる心配は無いそうだから協力してくれよな」

「そういうことなら仕方ないわね」

(まかせて~)

 

 この場に残されたリリンとユキヨを含めた三名で、近付いているという闇の眷属を待ち構える。

 果たして鬼が出るか蛇が出るか。

 

 頭上の塔の吹き抜けから、ぼとりと何かが落ちてきた。

 

 それはラグビーボールほどの大きさで、鋭い棘の付いた蔦が絡み合い、ひとりでに蠢いている。

 この茨の塊は見たことがあるぞ…。

 リリンとユキヨは何だこれと首を傾げているが、ゆるキャラ的にはもう嫌な予感しかしない。

 

「おやおや、これはこれは。よもやここで再会を果たしますとは」

 

 どこからともなく男の声が聞こえたかと思うと、蠢いていた茨が浮き上がり一気に膨張した。

 茨が枝分かれして四肢が生え、何かに絡みつくように収縮しながら人間の形を造る。

 人型になった後も茨が絡みつき、渦巻くような動きはおさまらない。

 

 そして頭部にあたる部分の茨が上下に捲れると、凡庸な中年男性の顔が現れた。

 目を細めて、取って付けたような微笑を浮かべている。

 

「これもすべては我らの大敵を打ち倒せという、御身からもたらされた試練なのでしょう」

 

「今度は筋肉達磨じゃないってことは、ちゃんと〈黒茨卿〉とかいう奴の力をもらったみたいだな。ラウグスト」

 

 こいつの名前はラウグスト。

 邪教〈茨棘(しきょく)教団〉の司祭で、かつて第二大陸にある〈嘆きの塔〉にてこいつらが崇める〈黒茨卿〉という外様の神の降臨を目論んでいた。

 

 神の降臨のためなら猫人族の女の子を生け贄に捧げるという鬼畜集団だったので、ゆるキャラたちが妨害。

 そのあと信仰の力?で筋肉が肥大したラウグストと戦闘になり、最終的に燃え尽き灰になって死んだはずだったのだが……。

 

「なんと!尊き御身を奴呼ばわりすることは許されません。その命をもって(あがな)いとしましょう」

 

「俺を倒すという試練は一度失敗してるんだから、そのまま落第しとけよ」

 

「以前の、ええ。人の身では成し得なかった御身の奇跡、とくとご照覧あれ」

 

 ゆるキャラの言葉を無視して、空中に浮かぶ茨人間が両腕を持ち上げる。

 上を見上げ雨に打たれるかのような仕草だ。

 

 次に両手の指先がするすると伸びて真っすぐ登っていく。

 目測で二十メートルほど登っただろうか。

 

 両手の、都合十本の指が中ほどで折れ曲がると、鋭い茨の槍となってゆるキャラたちに降り注いだ。

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