ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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280話:ゆるキャラと怒り

 ラウグストを中心にして全方位へ爆ぜた茨が、散弾となってゆるキャラたちに襲い掛かる。

 

 ゆるキャラは咄嗟に大剣を体の前に翳して防御した。

 大剣の腹に無数の茨が突き刺さるが、刀身を纏っている青白いオーラに接触すると、鈍い衝撃の後に蒸発して消える。

 

 無事で済まなかったのは、大剣の防御からはみ出していた部分だ。

 エゾモモンガの耳の端は千切れ飛び、腹の両側がずたずたに引き裂かれ血まみれになっている。

 オジロワシの鳥足は黒曜石のように輝く爪が欠けていた。

 

(トウジ!)

「だい、じょうぶだ」

 

 マフラーの背中側に隠れていたユキヨが無傷で良かった。

 

 背中から湖面へと落下する間に、四次元頬袋へ仕舞ってある〈ハスカップ羊羹〉を直接口に放り込む。

 甘酸っぱい味覚を堪能している場合では無いので、咀嚼もそこそこに飲み込んだ。

 

 するとすぐに効果が現れた。

 傷口が熱を持ち白煙を上げ、むず痒い感覚に襲われる。

 

 ユキヨが凍らせた湖面に着地して足元を見ると、欠けていた鳥足の爪が元通りになっていた。

 耳も腹も痛みが引いているので完治しているはずだ。

 

 相変わらずコラン君印の商品は異常な回復性能を持っている。

 商品によって性能の差はあるものの、傷ならば多少の欠損すら直ちに復元させ、魔力も回復した。

 本当に今更ながら、安易に広めたらまずいものなのだと再認識する。

 

 ラウグストを構成していた板金鎧は部位ごとにバラバラになり、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

 地底湖に沈むと、二度と浮かび上がってくることはなかった。

 

 一方で飛び散った茨の破片はそのすべてが意志を持っているかのようだ。

 浮かび上がり空中の一点に集まると、再び蔦状になり絡みつくように蠢いている。

 

 茨が本体なのであった。

 

「リリン……」

 

 その傍らでゆっくり降下する彼女の姿を見て、ゆるキャラは声を失う。

 自らの翼をドリルに変えて攻撃していたため、防御が間に合わなかったのだろう。

 

 四肢が千切れ飛んでいる。

 辛うじて胴体と頭部は守られているが、側頭部が抉れていて左眼窩に収まっているはずの碧眼が失われていた。

 

 湖面を走って落ちてくるリリンを左腕でそっと受け止める。

 過去にリリンを抱きかかえたことなど無いのだが、確実に今よりは重みがあったに違いない。

 

「あら、貴方もそんな顔をするのね」

 

「……まさか死んだりしないよな?吸血鬼なんだし不死身だよな?」

 

「不死身ではないけど、このくらいでなら死なないわね。戦線復帰するには時間がかかるけど」

 

 半分はやせ我慢だと思うが、リリンは冷静な様子を見せている。

 リリンの傷口から流れていた血がゆるキャラの毛皮を濡らしていたが、徐々に止まるとゆっくりと再生し始めた。

 

 ゆるキャラは新しい〈ハスカップ羊羹〉を取り出してリリンの口元に近付ける。

 

「闇の眷属というか不死者(アンデッド)に効くかわからないが、これを食べるんだ。喉に詰まらせるなよ」

 

「手はないけど自分で持てるわ」

 

 リリンは残っている黒い翼を動かして板状の羊羹を掴むと齧った。

 幸いなことに効果はあるようで、見るからに再生速度が早まる。

 

 ゲームみたいに不死族だから逆にダメージが入る、みたいなことがないことは分かっていたが、それ以上の検証はできていなかった。

 検証しようにも負傷するような状況が無いので難しかったのだが。

 

「んっ……なんとはなしに食べたり飲んだりしてたけど、とんでもないわね、これ……あんっ」

 

 高速再生によるむず痒さを全身に感じているのだろう。

 頬を赤らめ、なんか妙に艶めかしく悶えているが、とりあえずなんとかなりそうで良かった。

 

『私たちが戦いますか?』

 

「いえ、もう少しやらせてください。リリンは下がっててくれ」

 

 四次元頬袋内部から聞こえてきたエリスの提案を断わり、改めて頭上を見上げる。

 茨の塊が新たな姿に変わろうとしていた。

 

 塊から太い綱のように捻じれ合った茨の束が飛び出す。

 上空でくねくねと蛇行しながら伸びるそれは、根元の塊がなくなるまで続く。

 

 やがて末端の片方がすぼまり、もう片方が膨れた。

 前者は尻尾、後者は巨大な顎を持つ頭部へと成り代わる。

 胴体からするりと短いが鋭い爪を持つ手足が生えて、巨大な()への変貌が完了した。

 

「Gyaoooooooooooooooow!(偉大なる御身よ、我らの大敵の魂を今捧げましょう)」

 

 咆哮に混ざってラウグストの意思が伝わってきた。

 シンクやハクアと同格とでもいうのか?ふざけるな。

 

「もう勝った気でいやがる」

 

(トウジ、怒ってるの?)

 

 そうか、これは怒りか。

 

 元々ゆるキャラの中の人は怒るのが苦手だった。

 人生の中で怒る瞬間が皆無とは言わないが、怒りが持続しないのだ。

 

 怒ることによって事態が解決するような事例は皆無だし、怒りのエネルギーをもっと有効に使えば?とすぐに冷静になってしまう。

 一応相手への意思表示として怒るフリをするが、それも面倒なくらいだった。

 

 ただし怒れないのは、あくまでゆるキャラ自身に向けられたものに対してのみ。

 仲間が傷つけられれば話は別だ。

 

 これまでに近しい人が危機に陥ることは何度かあったが、実際に失いかけてようやく自覚する。

 怒りを拒絶するのではなく、受け入れることができた。

 

『……!?この力の流れは【義憤】ですか』

 

 エリスの呟きの通り、全身に力が漲るのを感じる。

 これは〈コラン君〉に意識を乗っ取られる直前の感触と似ていたが、今回は意識を保っている。

 

 同時に月明剣への魔力注入が完了。

 十全に魔力が込められたことにより青白い輝きは一層に増し、元から大きい大剣の刀身が二回りは広がって見えた。

 帯電するかのように、ばちばちと青白い火花も散っている。

 

「Guooooooooooooooooon!(引導を渡してあげましょう)」

 

 ラウグストが(あぎと)を開けると、口腔の奥からちろちろと赤い炎が見えた。

 炎は瞬時に膨れ上がり、業火の吐息(ブレス)となってゆるキャラに襲い掛かるが、回避するつもりはない。

 

「おおおおおっ!」

 

 両手で掲げた大剣を真っすぐ振り下ろすと、込められていた魔力が解き放たれる。

 一条の月明かりが煌めき、業火の吐息を真っ二つに切り裂いた。

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