ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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283話:ゆるキャラと予期せぬ再会

 ラウグストが開けた大口の中では、茨が幾重にも交差し蠢いていた。

 ゆるキャラがあれに食われたならば、体はすり潰され跡形もなくなるだろう。

 

(これあげる~!)

「うおっ」

 

 ユキヨも焦っているのか、ゆるキャラの足元に突然巨大な氷の足場が現れた。

 これはかつて氷熊のユメに放った《氷弾(アイスバレット)》だ。

 

 ゆるキャラとラウグストの間に挟まるように出現した氷塊だったが、ほぼゼロ距離だったため運動エネルギーは皆無。

 なので以前の隕石が落ちてきたような質量兵器からは程遠い。

 

 それでも氷山の一角ほどはある大質量によって、ラウグストは容赦なく押し潰されるはずだったが……。

 

 けたたましい音と共に氷塊が沈み込み、振動がゆるキャラの鳥足にも伝わってきた。

 こちら側からは見えないが、蠢く茨が氷塊を削っているのだろう。

 

 攻撃としては失敗したが時間稼ぎにはなっている。

 今のうちに逃げようとしたゆるキャラだったが、直後に頭上での異変を察知した。

 

「今度は何だ!?」

 

 それは黒い楕円だった。

 長手方向の形状に差のある、卵型の楕円がゆるキャラの頭上で浮かんでいる。

 厚みは無いのっぺりとしたその穴から、何かが落ちるように出てきた。

 

「………は?〈島袋さん〉」

 

 予想外な存在の登場に戸惑う。

 シマフクロウの〈島袋さん〉は〈コラン君〉の先輩マスコットだ。

 

 丸いフォルムは純白の羽毛で覆われていて、黒褐色の縦縞と細い横縞がいいアクセントになっている。

 頭には耳介状の長くて幅広い羽毛が角のように伸びていて、三角形にデフォルメされた嘴は灰黒色。

 黄色くて丸い目がチャーミングで……じゃなくて!

 

「お、いたいた」

「!? その声はサシャか」

「他に誰がいるのよ。久しぶりね。皆で迎えに来たわよ」

 

 器用に嘴の両端を上げて〈島袋さん〉がニヤリと笑う。

 いや、正確には〈島袋さん〉のぬいぐるみに憑依した、〈寛容と曖昧の女神〉の残滓であるサシャだ。

 本物のシマフクロウなら硬い嘴が曲がるわけがないので、ぬいぐるみならではのコミカルな動きだった。

 

 サシャが「皆で」と言ったように、穴からは続けて小柄な何かが飛び出してくる。

 彼女はゆるキャラがこの世界に来て初めて出会った人物。

 

 緑の髪をボブカットにしていて、背中から生えている蝶々の羽からはきらきらと輝く鱗粉が舞い散っている。

 全長は三十センチくらいで、フリルの付いたアイドルのステージ衣装のようなものを着ていた。

 

「フィン!」

 

「トージ無事だった!? 怪我してない? 元気にしてた? あれからこっちは大変だったんだから。神様たちに文句言ってトージの居場所を探して飛んでこれるようにして……ん?」

 

 フィンは嬉しそうに早口でまくしたてながらゆるキャラの周りを飛び回っていると、マフラーの中にいたユキヨを発見する。

 無言で見つめ合った二人が修羅場を展開……するようなことはなかった。

 

「あー! 雪んこだ! なんでこんなところにいるの?」

(わ~妖精だ~かわいい~)

 

 まだまだ感動の再開は終わらない。

 

 続いて黒い穴から飛び出してきたのは赤い幼女だ。

 ものすごい速さでゆるキャラに抱き付いてきて、懐かしい角の感触が腹にごりごりと当たる。

 

「ふわああああああああああんトウジぃぃぃぃぃ」

「よしよし、元気にしてたか?シンク」

 

 戦槌を仕舞いサイドテールが揺れる頭を撫でると、大粒の涙をたくわえた紅い瞳がこちらを見上げた。

 新雪のように白い顔を朱に染めながら泣きべそをかいていて、折角の可愛らしい顔が台無しになっている。

 

 涙だけでなく鼻水もべったりとゆるキャラの毛皮に付いたが、誰が彼女を責められるだろうか。

 ワンピースのスカートから飛び出している竜の尻尾も、離すまいとゆるキャラの鳥足に痛いくらい巻き付いていた。

 

 ゆるキャラの中の人(おじさん)も感極まってウルっとしてしまうが、下から迫る轟音によって現実に引き戻される。

 

「すまん! 再会を喜びあいたいところだが戦闘中なんだ」

「下のうるさいやつ?」

「ぐずっ、わたしにつかまって」

 

 空を飛べるシンクに手を引かれ氷塊の上から離脱する。

 それから数秒としないうちに氷塊が砕き尽くされ、巨大な茨の貌が姿を現した。

 

 果たして闖入者に気付いているのかいないのか。

 茨で構成されていない巨大で血走った眼球が、ゆるキャラだけを真っすぐ見据えている。

 視線が合うだけでこちらの正気度が削られそうだ。

 

「うおっ、この間の外様の神の手下じゃないの」

「なんか見たことあるやつだね。倒していいの?」

 

「ああ、構わない。むしろ手伝ってくれ」

『まかせて!』

 

 相変わらずフィンは魔術の詠唱が適当だった。

 返事をそのまま言霊にして、ラウグスト目掛けて魔術を放つ。

 

 詠唱により構成が展開される。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現する。

 

 複数の風切り音と共に、不可視の刃が巨大な貌を襲う。

 《風刃》はラウグストが纏う茨を削り、無防備な眼球を切り裂き透明な体液が噴出した。

 

「Woooooooooooooooooo!」

 

 一瞬動きを止めたが、痛痒には至らなかったようだ。

 腹の底に響くような唸り声をあげつつ、滂沱するラウグストが襲い掛かる。

 

「うー、やっぱり魔力が足りない。風の子も少ないし。トージ饅頭ちょうだい!」

「わたしもやる」

 

 自分の腕でぐしぐしと涙を拭ったシンクが、腫れぼったい眼でラウグストを見下ろす。

 そして大きく息を吸い込んだ。

 

「あ、ちょっとま―――」

 

 シンクは頬を膨らますと、おちょぼ口の先から深紅の煌めきが迸る。

 放たれた吐息(ブレス)は一筋の熱線(ビーム)となってラウグストの眉間を貫いた。

 直径が五百円玉くらいの小さい穴が開いたかと思うと、ラウグストの貌全体が一気に炭化する。

 

 問題はその後だ。

 下向きに吐息を放ったため、ラウグストを貫通した超高温の熱線は地底湖に突き刺さる。

 

 残念ながらゆるキャラの中の人は賢くないので、水蒸気爆発が発生する条件や熱量がどの程度影響するのかといった詳しい内容は分からない。

 ただ確実なのはラウグストが放った吐息と比較して、シンクのそれは桁違いのエネルギーを秘めていたということだけだ。

 

 視界を埋め尽くす白い衝撃波と熱波、遅れて轟音。

 それらに巻き込まれて、ゆるキャラたちは吹き飛ばされた。

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