ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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284話:ゆるキャラと甘えん坊

 竜族はこのアトルランにおいて最強の一角を担っている。

 最強の称号は伊達じゃなく、吐息(ブレス)一発で外様の神の力を多分に取り込んでいたラウグストを葬った。

 

「ちょっと、酷い目に遭ったんだけど」

「お、生きていたかリリン。全員無事みたいだな」

 

 ゆるキャラたちは地底湖の天井に開いている吹き抜けまで押し上げられていた。

 リリンはぐったりした様子で手足を脱力させているが五体満足でいる。

 

 元々ラウグストと戦っていたゆるキャラとユキヨ、リリンの他に謎の穴からやってきたサシャとフィン、シンクの六名全員がこの場にいた。

 吹き抜けという爆発の逃げ道があったので、無理にその場に留まらずに流されたのが良かったようだ。

 

「その子たちは知り合いみたいね」

「ああそうだ。あの卵型の穴で《転移》してきたのか? よく俺の居場所が分かったな」

 

「それはもうあの後、色々大変だったんだから。シンクは泣きじゃくるしフィンは暴れるし、私の言葉は通じないからリリエルとモエの《交信》経由で会話しないといけないし」

「トージの居場所はね、これでわかったの」

 

 フィンがいそいそと肩に掛けている〈コラン君パスケース(緑)〉から取り出したのは、一枚の羽だった。

 誰の羽かといえば、ゆるキャラに生えているオジロワシの羽である。

 

「あー前にあげたやつか。アナやルリムの《長距離転移》でどうにかなる距離じゃないと思うが」

 

「勿論無理よ。だから〈時と扉の神〉の力を使ったの。条件が整うまでに時間が掛かったわ」

 

「ほほう?」

 

『トウジさん、下の様子を確認しますので一度私たちを出して頂けないでしょうか』

 

 ゆるキャラが四次元頬袋に匿っていたエリスとブロンディアをぺいと吐き出すと、サシャが驚いて飛びずさった。

 

「うおっ、外様じゃないの」

「そういう貴女は〈地母神〉の娘ですね。懐かしいわ」

 

 エリスはサシャを知っているようだが、サシャは元々は仲間であるエリスたちを知らないようだ。

 シマフクロウなので傾げる首の角度がものすごいことになっていた。

 

 みなさんナチュラルに空中に浮いているが、ゆるキャラだけ飛べないのでシンクにしがみ付いている。

 というかシンクがゆるキャラにしがみ付いていた。

 

「なあシンク、そろそろ放してもらっても」

「ん、いや」

 

 シンクはゆるキャラの腹に抱き付き、下から持ち上げるような状態になっている。

 顔はふかふかの毛皮にうずめているから見えないし、角がめり込んだままなので痛い。

 

 肩で息をするくらい呼吸が荒くなるのなら、腹から顔を放せばいいのに。

 猫吸いかな?

 

 不格好だが仕方ないのでそのまま吹き抜けを下りてもらう。

 

「おねーさん可愛い服着てるね。でもびりびりに破けてる」

「何言ってるか分からないけど、闇の眷属(ミディアン)相手に度胸あるわねこの娘」

 

「普段から邪人たちと過ごしてるからなあ。それを考慮しなくても度胸があるのは確かだが」

 

 皆の言語が共通でないので通訳が忙しい。

 誰とでも話せるのがゆるキャラとユキヨ。

 それ以外はシンクとフィン、リリンとサシャたち神々と二つのグループに分かれる。

 

 ああもうややこしい。

 

 地底湖に戻ってくると、それはもう大惨事だ。

 シンクの吐息により地底湖の水は煮立ち、湯気が立ち込めていた。

 ラウグストの吐息でも水蒸気は生まれていたが煮立つほどではなかったので、威力の違いの熱量に驚かされる。

 

 某宇宙恐竜さんの放つ一兆度の火球といい勝負か?

 いや、あれは太陽数百兆個分の熱量を持っていて、熱により発生したガンマ線が四百光年離れた生命も殺すと、空想を科学しちゃう系の本で読んだ覚えがある。

 さすがにそこまでではないな。

 

 水蒸気爆発の直前にラウグストの貌全体が炭化するのを目撃しているので、負け台詞を言う間もなく奴は消滅したのだろう。

 

 ドーム型の壁も至る所がひび割れ、崩落していた。

 祭壇と昇降機のあった足場はラウグストの攻撃に晒されたこともあり、水面から上の部分は失われている。

 唯一変化が無いのは、泰然とゆらゆら揺れ続けるエリステイルのみだった。

 

「ニールたちは無事ですか? 昇降機が無くなっちゃったけど……」

「問題無い。塔の内部は一定時間で元通りになる。そうすれば合流も可能だ」

 

「ふむ、なんだか迷宮みたいですね」

「ある意味ここは外様の神が造った迷宮なのです」

 

 ブロンディアとエリスの説明にサシャが頷いた。

 

「そうそう。ここが迷宮だから〈時と扉の神〉の力が使えたってわけ。本当は易々と転移の力は使っちゃダメだけどね。でもここは都合の良いことに外様の神の力で外界から隔絶してたから、他の神に見つからずに済んだわ」

 

「隔絶してるのに俺が居ることはわかるのか?」

「隔絶といってもこの場所を探知できなくなるわけじゃないの。路傍の石みたいにここの状態が気にならなくなる感じね。だから目印さえあれば貴方を認識できるのよ」

 

「あー石ころぼうし方式ね」

「いしこ……なんですって?」

 

 某猫型ロボットの秘密道具を知るわけがないので、サシャが再び可動域の広い首を垂直に傾げていた。

 

「ねえトウジ。ニールって」

「おお!そうなんだよ。シンクに朗報があるんだよ……っておおい!」

 

 相変わらずゆるキャラの腹に抱き付いたままのシンクがこちらを見上げた。

 口元がもごもごしていると思ったら、何故か毛皮を()んでいらっしゃる。

 突然離れ離れになってしまった影響だろうか? 幼児退行が著しい(元々幼女だが)。

 

 心のケアは大事だが、さすがに汚いし恥ずかしいからやめてくれと言おうとした。

 その時、地底湖の空間に再び黒い穴が現れる。

 

 先程とは違い垂直に出現した平面で卵型のそれから、恐る恐る顔を覗かせる人物がひとり。

 人にしては小さく、フィンやユキヨといい勝負だ。

 

 褐色の肌に長い黒髪、服装は黒を基調としたドレスで金色の刺繍が施してあった。

 背中付近からは黄金の延べ棒のようなものが三本、対となっているので合計六本が昆虫の翅のように生えて浮かんでいる。

 

 異国情緒漂う(エキゾチックな)美人だが、今は怯えた様子で周囲を見回していた。

 そしてゆるキャラの隣にいるエリスとブロンディアを見て絶叫する。

 

「ふええええ。や、やっぱり怖いよおおおおおお」

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