ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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285話:ゆるキャラとファストトラベル

「いいからさっさとこっち来いっての!」

「いやああああああああ!」

 

 黒い穴に逃げ込もうとした美女にサシャが飛び掛かり、長い黒髪を嘴で咥えて力任せに引っ張る。

 折れるんじゃないかというくらい首が仰け反っていた。

 

 穴の縁にしがみついて必死の形相で抵抗しているが、美女の体はサシャが依代にしている〈シマフクロウの島袋さんぬいぐるみ(大)〉より二回りは小さい。

 結局フィジカルの差を見せつけられて、穴からあえなく引きずりだされた。

 

「えーっと、その人は誰なんだ?」

「こいつは〈時と扉の神〉よ」

「う、うう……レジータって呼んで」

 

 皆(シンクは除く)の注目を浴び怯えて縮こまる美女、改めレジータがそう答えた。

 

「えっ、なら彼女がフィンたちを運んできてくれた張本人じゃないか。ありがとうございます」

 

「こいつに礼なんかいらいわ!こいつのせいで私がどれだけ酷い目にあったか。じゃんじゃんこき使ってやってよ」

 

 いや、それはゆるキャラたちに関係無いし……。

 

「酷い目って、前に言ってたサシャが封印された話か?」

「そうよ!」

 

 確か〈鍛冶(たんや)神〉と愛し合っていた〈寛容と曖昧の女神(サシャ)〉だけど、〈狩猟神〉に略奪(NTR)されて、怒り狂って(脳が破壊されて)地上で暴れていたところを〈時と扉の神〉によって封印されたんだっけか。

 

「えーでもあれはサッちゃんが悪いと思うよ。いくら彼氏を寝取られたからって現世で暴れたらだめだよ」

「だまらっしゃい!」

「いやあああああああああ」

 

 逆鱗に触れられたサシャが怒り、レジータに襲い掛かった。

 硬くした嘴でレジータの全身をつつき回している。

 〈島袋さん〉のイメージが損なわれるのでやめて欲しいのだが。

 

(ともがら)共は相変わらず痴情にまみれているのだな」

「それも含めて懐かしいわ。外様の神々はそれぞれの価値観が違い過ぎるから」

 

 何故か外様コンビは微笑ましそうに見ているし。

 

「え? どういうこと?」

「やっぱりトージの出す饅頭は絶品ね」

(ね~)

 

 リリンは詳しい事情が分からず疑問符を浮かべまくり、フィンとユキヨはマイペースに饅頭を食べていた。

 シンクは相変わらずゆるキャラに抱き付いたまま、猫吸いならぬゆるキャラ吸いをし続けている。

 ……なんともカオスな状況だ。

 

「とりあえずどこかで落ち着いて、お互いの状況を確認したいんだけど。ルリムたちにも会いたいしな」

「それなら皆で〈嘆きの塔〉へ行きましょう。あ、でもさすがに外様は連れて行けないわね」

 

 レジータへの攻撃をぴたりとやめて、サシャがそう提案する。

 ルリムたちとは別行動だったので、残念ながらすぐには会えないそうだ。

 

「私とディアはトウジさんの中から出ませんので、是非連れて行ってください」

「すまんそういう約束なんだ。二人に害意は無いと俺が保障するから……」

 

「まあ、あんたがそう言うなら別にいいけど。ちゃんと面倒見なさいよ」 

「あっさり許可してくれるんだな。外様の神は天敵だと思うんだが」

「私が何を司っていると思ってるのよ」

 

 寝取られには不寛容だけどな、なんて迂闊なことは口に出さない。

 それなのにサシャがシマフクロウの黄色い目で睨みつけてきた。

 こういうときはさくっと話題を変えるに限る。

 

「また失礼なこと考えてるでしょ」

「リリンはいいのか? 闇の眷属だけど」

 

「既に邪人がお仲間なんだし、あんたが責任取るならいいわよ」

「責任取ってよね、パパ」

 

「そういえばリリンってサシャの言葉は理解できるんだな」

「……」

 

 リリンが茶化してきたので答えにくいであろう指摘をすると、黙り込んで顔をそらした。

 元々アトルランの神だったエリスとサシャが会話できるのは分かる。

 

 てっきりエリスたちがアトルランの神の言語で話していると思っていたのだが、純粋な闇の眷属であるリリンも理解していることから、そうとも言い切れないわけで。

 

「彼女には彼女の事情がありますので、あまりいじめないでくださいね」

 

「その辺の込み入った話を知りたい? 知るには世界の真相に触れることになるから神格が必要ね。あんた神になっちゃう?」

 

「え、嫌だけど」

 

 サシャがどこまで本気かは知らないが、神になっても碌なことにならなさそう、というのが素直な感想だ。

 生物の寿命からは解放されるかもしれないが、神になれば多くの人々の助けとなったり、外様の神と戦ったりと得た力に相応しい責任が生まれるだろう。

 万年フリーターだったゆるキャラの中の人には荷が重い。

 

 もっと年老いて死が身近になり、恐怖を感じるようになれば神になりたくなるのだろうか?

 だとしても死ぬのが怖いから神になる、というのは利己的過ぎるよな。

 

「随分あっさり断わってくれるわね」

「君らを見てると、あまりなりたいと思えないんだよねえ」

 

「ぐぬぬぬ……」

「軽口はこれくらいにして、転移をお願いしてもいいですか? レジータさん」

 

「う、うん。いいよ。本当は大陸間の転移なんてやったら怒られるんだけど。この場所に限ってはバレないから」

 

 びくびくとした様子のままレジータが両手を翳すと、例の卵型の黒い穴が出現した。

 

「さあ入って入って」

 

 外様の二人はゆるキャラの四次元頬袋に仕舞い、サシャを先頭にして皆でぞろぞろと穴に入る。

 久しぶりの内臓が持ち上がるような浮遊感と共に視界が暗転。

 転移先は以前と違って明かりが灯っているが誰もいない……いや、長椅子に白いモコモコが寝転がっていた。

 

「ふわああああああ。もう朝ですかあ」

 

 間延びした、緊張感のない声と共に白いモコモコが起き上がる。

 モコモコの天辺(てっぺん)にある白い犬耳がこちらの物音を拾ってピクリと動いていた。

 そしてゆるキャラを発見すると、寝起きでとろんとしていた目を大きく見開いた。

 

「ふあっ、〈コランクン〉様!お帰りなさいませです!」

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