ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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288話:ゆるキャラと無礼講

 すっかりコラン村の守護魔獣と化しているらしい二匹に、〈コラン君饅頭(八個入り)〉を一箱ずつ与える。

 二匹の体格から考えると決して多いとは言えない、というか全く足りないのだが、お目当ては饅頭に含まれている豊潤な魔力だから問題無い。

 

 凍原狼(ツンドラウルフ)のリュフは豪快に八個全部を丸呑みに。

 氷熊(ヒグマ)のユメは爪で器用に一個ずつ抓んでゆっくり食べている。

 

 なんとも性格の違いを感じさせるが、とろけるような、恍惚とした表情を浮かべながら食べている点は共通だ。

 表情筋なんて碌に無いであろう狼と熊がこの有様なので、過度な中毒性で依存症にならないかと心配になる。

 

 というかコラン村の守護魔獣と化したのは、間違いなく饅頭や羊羹目的だろう。

 このまま定期的に与え続けたら、どこかの精霊さんのように進化して人型になったりするのだろうか。

 

 いや、進化の先が人型とも限らないか?

 中途半端に二足歩行になったりして、一部からは歓喜され、他の一部からはもどしてとか言われたりして。

 

「この高い壁に加えて、雪原一帯を縄張りにできるくらい強い大型魔獣が二匹だ。古戦場跡やイスロトの街より防衛力は高いんじゃいか?」

 

 雑念に囚われているゆるキャラの隣で、半ば呆れ気味にそう言うのは騎馬族のイルドだ。

 立派な駿馬の下半身に立派な女戦士の上半身が乗っかっていた。

 

 彼女はコラン村の村長代理で、村長の座はゆるキャラに預けられている。

 永住するつもりは無いのでさっさとイルドに譲りたいのだが、なかなか首を縦に振ってくれなかった。

 

「安全ならそれに越したことは無いだろう?」

 

「この二匹に怯えて他の魔獣が寄り付かないんだ。だから狩りは毎回遠出になってな……いや、すまん。贅沢な悩みだった」

 

「そんな弊害もあるのか。急で申し訳ないけどまた一週間ほどお世話になるよ。なんやかんやあって邪人や竜や神が増えたけどまあ、気にしないでくれ」

 

「ここはトウジ殿の村だ。気兼ねすることなくゆっくりしていってくれ。邪人や竜も大概だが、まさか神まで連れてくるとはな。次に出かけて帰ってきた時、トウジ殿が神なっていても驚かんよ。はっはっは」

 

 サシャとレジータの姿を見ながら、半ばやけくそになってイルドが大笑いしている。

 実は既に神にならないかと誘われたことについては黙っておこう。

 

 さて、コラン村へ入村するにはリリンが彫刻を施した門を通ることになる。

 

「「「『ふわああああああ』」」」

 

 門の左右の壁に彫られた〈コラン君〉たちの彫刻を初めて見て大興奮するキッズたち。

 可愛い好きなフィンとシンクの他に、ハクアも混ざって彫刻を見上げている。

 

 ちなみに四次元頬袋の中から誰よりも早く声が上がったが、うっかり反応してしまったようで本人は恥ずかしそうにしていた。

 

 そしてフィンたちの様子を見て、どや顔で薄い胸を張っているのがリリンだ。

 隣でユキヨが何故か真似しているが、君は関係無いよね。

 

 古戦場跡で待機したままの邪人のティアネと兎形族のミーナは、ニールの超能力【転移(テレポーテーション)】で迎えに行ってもらう。

 ニールの【転移】能力については限られたメンバー以外には秘匿してあるため、前回同様ミーナには【精神感応(テレパシー)】で干渉して記憶をぼかしてある。

 

「あれっ。私いつの間にコラン村に戻ってきたの? ニールが迎えに来た時、ハクアちゃんいたっけ?」

 

「いたよ。ミーナさん、私の背中に乗って空を飛ぶのがよっぽど怖いみたいね」

 

「うむむむ?」

 

 しれっと嘘を吐くハクアにミーナが首を傾げていた。

 

 

 

 全員が揃ったところで、その日の夜は宴会となる。

 コラン村には見た目がケンタウロスな騎馬族、二足歩行の兎である兎形族、ドワーフっぽいドヴェルグ族が住んでいた。

 

 ゆるキャラたちの他に、これらの亜人種族からも代表者が数名参加しているのだが、それはもうどんちゃん騒ぎだ。

 今日も商品の〈コラン君大吟醸〉を振る舞っているのだが、酒の力とは恐ろしいもので、竜や邪人や闇の眷属や神がいようとお構いなしである。

 給仕をしている兎形族のレキたちが忙しそうだ。

 

「こんなにいい酒があったなら、もっとはやく出しなさいよ!」

 

 サシャは器に継がれた日本酒に、一心不乱に嘴を突っ込みながら文句を言う。

 器用な奴だな。

 

「うまっ、美味すぎるよお。こんなの病み付きになっちゃうよお」

 

 レジータは羊羹の時と全く同じ台詞を吐くと、小さい体で器を抱えながら酒を流し込んでいる。

 褐色の肌の上からでも分かるくらい酒に酔って赤くなっていた。

 

 元々堅苦しくするつもりもなかったが、神様ズがこんな体たらくなので、無礼講でも全く問題無いか。

 ここではないどこかの日本とは違って、今夜は無礼講だ(無礼講ではない)とか理不尽を押し付けてくるお偉いさんも居ないしな。

 

「ねえトウジぃ、ここから抜け出して私の家に来なぁい?」

 

 兎のくせに猫なで声でゆるキャラを誘ってきたのは、酔っぱらったミーアだ。

 こうやってゆるキャラの貞操を狙ってくるのも、毎度のことで慣れてしまった。

 

「はいはい。また今度ね」

「ちょっと適当に流さないでよぉ」

 

「この前、正直に言っただろう? この体でそういうことは出来ないんだよ」

「出来る、出来ないじゃないわ。やるのよ!」

 

 おかしいな。

 本来なら格好いい台詞なのに、目的がアレだから非常に残念に感じてしまう。

 

「ん~? 異種間交配の話だな? 私に任せるのだ!」

 

 ゆるキャラとミーナのやり取りを耳聡く聞いていたようで、邪人のミンドナファムが話に割り込んでくる。

 

「私の秘薬を飲めば双方の遺伝子構造が噛み合わない部分を一度破壊してから固着させるので」

「おいやめろ。生命倫理は何処に行ったんだよ」

 

「科学の発展に犠牲はつきものなのだ」

「普通に犠牲扱いにしてるし……」

 

 ファンタジーなこの異世界で科学を語るとは、このミンドナファムという邪人も底が知れない。

 ニールの今の体はミンドナファムが造ったホムンクルス体らしいし、ゆるキャラが人に戻る助言を貰おうかと思ったが、やめておいた方が良さそうだ。

 

 難しい話に興味は無いようで、ミーナはゆるキャラの体に自身の体を擦りつけながらうたた寝をしていた。

 黙っている分にはぬいぐるみのようで可愛いのだが……。

 

 ゆるキャラ自身のことはとりあえず後回しにして、暫くは竜の姉妹の動向を見守ることに専念する。

 そう考えながら宴会場の一角に目をやると、そこではシンクとハクアが仲良く骨付き肉を頬張っていた。

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