ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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290話:ゆるキャラとクッキング

「無理言って申し訳ない」

「いえいえ。トウジさんのお願いならこのくらい朝飯前ですよ」

 

 ゆるキャラが頭を下げると、中年のおじさんも合わせるかのようにぺこりと頭を下げた。

 彼の名はリチャード。

 イスロトの街の中通りにある食堂〈ナーシィのおせっかい〉亭の店主である。

 

 リチャードの長女ミルラがチンピラに絡まれているのを助けたことを切っ掛けに、なんやかんやあってこの店の借金をゆるキャラが肩代わりすることになった。

 そのお礼として食堂で好きなだけ飲み食いして構わないと言われているが、今日は別件でお邪魔している。

 

「卵を買ってきたわ。本当に卵だけでよかったの?」

「ミルラさんありがとう。他の材料はこちらに用意したものが」

 

 そう言いつつ四次元頬袋の商品コーナーから取り出したのは〈牛乳(500ml)〉〈生クリーム(200ml)〉〈コランくんのホットケーキミックス〉である。

 牛乳と生クリームは純粋なコランくんグッズではなく、地元企業とのコラボ商品だ。

 通常のパッケージにキャラクターイラストが追加されていた。

 

 ホットケーキミックスは道産小麦を使用した公式グッズだ。

 本当に手広くやってくれて助かる。

 

「今日は姉妹で協力してホットケーキをつくってもらいます」

「「ホットケーキ?」」

 

 シンクとハクアが仲良く首を傾げている。

 

「何ができるかは後のお楽しみだ」

 

 というわけで〈ナーシィのおせっかい〉亭のキッチンを借りに来たのであった。

 角と尻尾があるシンクを見たときの反応が心配だったが、いつも通り杞憂に終わる。

 

 どうやらエゾモモンガとオジロワシのキメラであるゆるキャラを見た後だと、インパクトに欠けるらしい。

 さもありなん。

 そのおかげで、次女のハルナちゃんは同年代のシンクにすぐに打ち解けていたから良しとしよう。

 

「まず初めに卵と牛乳をかき混ぜまーす」

 

「(パキッ)……ん、姉さんたまごわって」

 

「もう、しょうがないわね(パキッ)……」

 

 卵を握り潰してしまい、殻が入りまくった器を前に困り顔でこちらを見上げる姉妹。

 今日は特にシンクロしてるな。

 

 竜族でも《人化》していれば力の制御は可能なので、単純に姉妹は不器用だった。

 経験がなければ人族の子供だって似たようなものだから変というわけでもないが。

 

「気にせず練習と思ってガンガン割っていいぞ。殻は俺が降り除いてやるから」

 

 ニールが【念動】で器用に卵の殻だけを器から取り出しフォローしてくれた。

 二人とも結構上達してきたところで卵は打ち止め。

 

「次にこの白い粉を入れてかき混ぜてくださーい。だまが残るくらいでいいから混ぜ過ぎ注意ね。とりあえず二十回だけ混ぜてみよう」

 

「いち、に、さん、しい……」

 

「トウジさん、混ぜたのは小麦粉ですか?お貴族様の白パンが作れそうなくらいきめ細かい粉でしたけど」

 

 キッチンの端で竜姉妹のクッキングを微笑ましく見守っていたミルラから質問を受けた。

 

「メインは小麦粉だけど、他にベーキングパウダーや砂糖も少し混ざってるかな」

「べい……なんですかそれ?」

 

「説明が難しい、というか詳細は俺も知らない。確か主成分が重曹で……重曹は海水や鉱石から作れるんだっけか?」

 

 この辺の知識チートができるのならば、この世界の経済を牛耳ることも可能なのかもしれない。

 ……別にゆるキャラはそういうのに興味無いし(負け惜しみ)。

 

「簡単に言うと、白パンよりふっくら仕上がる魔法の粉かな」

「……にじゅう。できたよ、トウジ」

 

「お、ちょうど良さそうだな。それじゃあフライパンで焼いていきまーす。一枚目はお姉さんから」

「うん」

 

「ちょっと高めの位置から生地を落として。そうすると生地がきれいな円になるから」

「ほんとだ!」

 

「弱火で三分くらい焼いて、表面に小さい穴が空いたらひっくり返す合図だ」

 

 固唾を飲んでホットケーキの焼き上がりを見つめる一同。

 次第にこんがりと焼けた生地の、香ばしい匂いがキッチンに立ち込める。

 じゅるり、と誰かが涎を滴らせたのと、良い焼き加減になったのは同時だった。

 

「よーし、一気にひっくり返そう。ゆっくりやると生地が偏って形が崩れちゃうから」

「わかった……えい!」

 

 ハクアが気合を入れて生地を木ベラですくい上げた。

 少し力んでしまい生地がフライパンの端に寄ったが無事着地。

 茶色のきれいな焼き跡にギャラリーから歓声が上がった。

 

「もう二分くらい焼いたら完成かな。よーしじゃんじゃん焼いていこう」

「ふわあ」

 

 竜の姉妹は料理経験が無かったので、これが初めて自分で作った料理となる。

 ハクアは自らが作りもうすぐ焼き上がるホットケーキを、まるで宝石でも眺めるかのように見つめていた。

 

「つぎはわたし」

 

 待ってましたと言わんばかりのシンクに選手交代。

 たどたどしくフライパンに生地を落とし、三分間じっと睨み続けた。

 

「よーしいいぞ」

「ん!」

 

 ハクア以上に気合の籠もったシンクの木ベラさばきにより、生地がフライパンから外れそうになったが、不自然な軌道を描いてフライパンに収まった。

 ニールが【念動】で助けてくれたのだ。

 

「……ありがとう。でもつぎはひとりでできる」

「向上心があってよろしい」

 

 一回焼いたら飽きるかな? と思ったが、姉妹は全部焼きたいと志願してきたので、フライパン二枚体制でお願いすることにした。

 

 黙々と焼き続けること小一時間。

 ついに大皿に山盛りのパンケーキ三十枚が積み上がった。

 

「「ふわああああ」」

 

 自分たちで作り上げた宝の山に大興奮の竜姉妹。

 フォークを手にしていざ喫食と構えているが……すまぬ、もう少し待ってくれ。

 

 四次元頬袋から追加で取り出したのは〈ハスカップジャム〉。

 こいつと生クリームを使ってとっておきのトッピングを作ろうじゃないか。

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